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そして祖父はまだ帰宅しない。

楽しみにしていたキャラメルを食べてしまったので、キャラメルは何もすることがなくなってしまった。


部屋にある本はどれも難解で挿絵もないので、読書にしては苦痛でしかなく、外で遊ぶにしてもこの森の周辺に同年代の子供はいないのでひとりで遊ぶしかない。


ひとり遊びというのは最初は楽しくとも時間が経つにつれて寂しさがつのってくるものである。


なぜ寂しいだけの遊びをしなければならないのかとキャラメルは何かの用事で出かけていった祖父を恨みたい気持ちになったが、そのようなことをしていったいなんのメリットがあるというのだろうか。


否。


きっと自分がますます惨めに思うだけで得な要素は何もない。


ましてや大好きな祖父を恨むなど心の優しい彼女にとってできるはずもなかった。


置き時計の時を刻む音だけがカチカチと静まり返った部屋に響いていく。


キャラメルは切り株の椅子から祖父がいつも愛用しているふかふかの安楽椅子に移動して、腰を深くかけてから体を預けた。


柔らかな感触は、まるで雲の上で寝ているような感じがして、彼女は自然と瞼が重くなる。


くりくりとした大きな黒い瞳がゆっくりと閉じられていく。


うつらうつらとなっていき、完全に閉じられた瞼は窓から入ってくるそよ風に長い睫毛をそよそよと揺らし、小さな口から静かな寝息を立てて少女は完全に夢の世界へと旅立っていった。


キャラメルは布団を体に羽織ることもせず、そのままの状態で眠り続ける。


体を椅子にうずめ気持ちよさそうに眠っている。


どのような夢を見ているのかはわからないが、時折口元に笑みを浮かべているところからきっと楽しい夢でも見ているのかもしれない。


夢の詳細は彼女自身にしかわからないが他人によって夢の内容を暴かれるのは不愉快に思うだろうから詳細な記載は控えておくことにしよう。


読書を放棄して居眠りの時間に突入したキャラメルはそのまま時間を気にすることもなく欲望のままに眠り続けた。


こっくりこっくりと頭を動かし何も考えることをせず完全に無防備の態勢でだらしなく椅子に座って眠り続けて、ようやく目が覚めた時には時刻は六時を回っており、開かれた窓からはオレンジ色の美しい夕日の光が差し込んでいた。


彼女は大きく伸びをしてからレディらしく誰もいないのに気にする必要もないながら手で押さえる仕草をしてからあくびをしてまだ眠り足りないのか、瞼をごしごしとこすって目の端に浮かんでいる涙をふき取る。


もう少し眠りたいが、そろそろ夕食の準備に取り掛からなければならない。


自分もお腹が空いてきたし祖父が帰って来た時に何もしていないのであれば文句を言われるかもしれないと危惧したのだ。


そのうえ無断で愛用の椅子で爆睡していたと知ったらどれほどの雷が落ちるのか予想することさえできなかった。


その光景を想像し一瞬だけブルブルッと寒そうに体を震わせてから名残惜しそうにゆっくりと椅子から立ち上がる。


星のマークがついた可愛らしい魔法の杖をキュロットスカートのポケットから取り出して軽く振ると、何もないところからふんわりとした白いエプロンが出現した。


手に取って頬ずりしてみると洗い立ての良い香りが漂ってくる。


蜘蛛の糸で編み込んだかのように繊細で軽いエプロンの感触に喜んだ後はそれを装着して調理開始だ。


マントは料理には邪魔と思ったのだろうか、さすがに外して丁寧に畳んで椅子の上に置いておいた。


水仕事を考慮してか長袖の白いチョッキの袖を腕まくりして準備は整った。


料理をしたいという意思はわいているのだが、問題は今日の夕食のメニューを何にするかということであった。


彼女の頭の中に様々な選択肢が浮かんでは消えていく。


年のおじいちゃんのために分厚いステーキを焼いて中濃ソースとニンニクをたっぷりと添えてスタミナを回復させてあげる?


肉汁がじゅわっとあふれだすハンバーグも捨てがたいし、お野菜をたっぷりと使ったサラダも用意すれば栄養のバランスもばっちりかな。


でも私はずっと部屋で読書をしていて退屈だったから、その意味を込めて今日はあえて手抜き料理でもいいかも。


買い置きのパンを焼いて苺ジャムとバターを塗って食べるとか。


熱々のホットチョコレートでも入れて飲んだら甘くて気分は最高かもしれない。


だけど甘いものばかり食べるのはどうかとおじいちゃんが文句を言うかもしれないし。


本当孫とおじいちゃんで好みが違うのは問題よね。


同じメニューが好みなら悩む必要なんてないのに。


腕組をして口の中で様々なメニューをつぶやき候補を決めようとするが、口で呟けば呟くほどにどの候補も捨てがたくなってくる。


こうしている間にも時間は過ぎ去っていき祖父が帰ってくるであろう時刻も近づいていく。


徐々にではあるが精神的に追い詰められてきた彼女は、開き直って頭に思い浮かんだすべてのメニューを作ることに決めた。


これなら迷う必要もなく量も質もカバーして自分も祖父も喜ぶことができる。


そこから彼女の行動は早かった。


ジャガイモの皮を剥いたり調味料を用意したりハンバーグやステーキに使う肉を解凍したりと常人ならば時間も手間もかかりそうな工程を魔法の杖を振るだけで難なくこなしてしまう。


腐っても彼女は偉大な魔法格闘家の孫らしく、格闘はともかく自分が使えると思った魔法を覚えるのは容易だった。


彼女に限らず人間というものは興味のないものは習得が遅くとも好きなものに関しては抜群の上達と習得の速さを発揮することができる。


同時並行でサラダ、ステーキ、ハンバーグを作りながらデザートも手抜きなく作っていく。


今晩のデザートは甘酸っぱい香りと味が嬉しいアップルパイだ。


パイ生地を練り上げ大きくカットしたりんごをパイ生地の中に投入していく。


りんごを二個も贅沢に使ったアップルパイをオーブンに入れて完成までわくわくと胸をときめかせる。


ふと時計を見ると時刻は七時を回っていた。


料理は完成し、主食としてのバターとジャムを塗ったトースト、おやつとしてのアップルパイも完成し切り分けまで終わった。


一連の作業を終えたキャラメルはふうと息を吐き出して手の甲で額の汗をぬぐう。


渾身の腕を披露した彼女の料理を祖父は喜んでくれるのだろうか。


「もう!おじいちゃん早く帰ってきてよね!せっかくのごちそうが冷めちゃうじゃない!」

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