買い出しとブーヒャとの遭遇
「全く。どうして私が買い物に行かないといけないのよ」
口の中で文句を転がしながら、キャラメルは少しだけ背を曲げて街中を歩く。
レンガ造りの家々が並ぶ街通りを歩いて、ジャム店でジャムを購入してから再び帰路へ。
キャラメルの家は森の奥深くにあるため、街中に出て買い物をするのは骨が折れる。
魔法の箒で滑空すればすぐに到着するはずなのだが、便利な箒を操縦する術をキャラメルは持ち合わせていなかった。
なので苦労して森を出てから街を出るしかない。
ふくらはぎはパンパンで、もう一歩も歩くことができないほど疲れ果てていた。
けれども、ここから更に森を歩かなければならないのだ。複雑に入り組み、大木が生い茂り、たまには狼などの危険生物などとも遭遇する森。
遠くの森を眺め、思わず顔に「うげぇ」という感情が出される。
しかし、彼女は行くしかないのだ。
意を決して一歩を踏み出した時、前から現れた人に衝突してしまった。
尻餅をついて衝突した相手の顔を見上げて声をかける。
「ごめんなさい。大丈夫ですか!?」
「俺にぶつかっておいて謝るだけで済むと思っているのか」
怒り心頭の相手は肥満体の豚の顔をした男で、背には三又槍を背負っている。
「なんでもしますから、見逃してください」
ペコペコと頭を下げて誠意を見せるキャラメルに対し、男は彼女の頭を鷲掴みにしてレンガの地面に押し付ける。
「頭の位置が高いんだよ。謝罪ってのはこうするんだ」
更に靴で思い切り頭を踏みつける。衝撃が眼鏡のつるが折れ、レンズに亀裂が走る。
「何……するのよ。失礼じゃない」
さすがのふるまいにキャラメルがたまらず抗議をすると、男はようやく足を離して言った。
「お嬢ちゃん、ミスタープティングの孫娘だろ」
「!?」
自分の素性を知っている。ということは彼は魔法格闘家。
すぐさま気づいたキャラメルが後退すると、男は得物のである三又槍を背中の鞘から抜き。
「俺はオークのブーヒャ。お嬢ちゃん、俺とタップリ楽しもうぜ!」
踵を返して逃避したところで槍に貫かれて終わるだろう。
逃げ切ることはできない。
戦うしかない。
オークとの路上の勝負。
人通りが多い、しかも地面がレンガという強固な場所で。
嫌な予感が頭を掠める。
まさか、おじいちゃんはこうなることを見越した上で私を買い物に行かせたの?
キャラメルの目にじんわりと涙が浮かび、形だけでのファイティングポーズを取る。
「おじいちゃんの鬼―ッ!!」