プティングの苦悩
自室に入ったプティングは壁にはめられた鏡に自分の姿を映した。
真っ白な髪によく蓄えられた髭、見た目は完全に老人だ。
孫娘のキャラメルが生まれた時、わしは一〇〇歳だった。
彼女が一五歳だから自分は一一五歳になる。年齢差は一世紀だ。
短ったような、長かったような百年間。
何十年もの長きに渡り、強敵と戦い続け磨かれていった腕。
世間では最強の代名詞だの並ぶもののない存在だのと謳われていたが、わしはまだ修行中の身。
ずっと未熟な存在で完成品とはほど遠い。
その言葉を幾度となく言い聞かせてきたが、事実、この世界にわしを脅かす存在はいない。
それではどこの世界にわしと対等に渡り合える存在がいるというのか?
未熟でありいつまでも技を極めたいという願望と、技能の全てが神に匹敵する領域まで到達してしまったという現実に老紳士は苦悩していた。
鏡の前で髪をかきむしり、老人は呻いた。
「わしのせいであの子が傷ついてしまう!」
表舞台から姿を消して半世紀以上の時が経つ。完全に隠居を決め込み、森の奥に屋敷を立てて穏やかな余生を過ごすつもりだった。
半世紀も経てば世間から忘れ去られ、存在しないものとして気にすることなく生きられる。
そのようにプティングは考えていたが、世間の見方は違った。
彼は今でも魔法格闘技の世界で比類なき存在として多くの尊敬の念を集めていたのだ。
伝説の噂を耳にして自分の強さを証明したいと挑みに来る存在が後を絶たない。
今日のジークもそのひとりだ。
近頃、炎と蛇を武器に人気が出つつあった新星。
その新星を単なる基礎技のヘッドロックで殺めてしまった自分。
孫の身を守るためとはいえ、若い者の未来を奪うのはあまりにも辛い。
同時に手加減をしているつもりでも一瞬で殺めてしまう自らの武力に、恐れを覚えた。
このままでは負の連鎖は止まらない。
だが、どこへ雲隠れしてもわしの名を追い求める者は必ず現れる。
「わしはどうすればいい……?」
老人は鏡の前で顔を覆って嘆くのだった。