孫として
ジークを赤子の手をひねるかのように倒してしまったプティングは嘆息をした。
ジークだったものを一瞥すると、小さなスプーンを胸のポケットから取り出して光の粉をふりかける。黄金色に輝く粒子が胴体に付着すると、ジークの胴も同じように光の粒となって天へと昇っていく。倒した相手に対するプティングからのせめてもの情けであった。
呆然としている孫娘の両肩をしっかりと掴んで口角を上げた。
「わしがいない間、よく頑張ったね。君は本当に偉い子だよ」
「おじいちゃん!」
キャラメルは涙でぐしゃぐしゃの顔で祖父に抱きついた。初めての対決はキャラメルにとっては非常に恐ろしいものであり、祖父がいなければ自分は終わっていた。
そのことを身に染みて感じていただけに、彼女は心の中でひとつの決意が生まれた。
夕食。トンカツをソースをつけて食べながら、キャラメルは真剣なまなざしを祖父に向ける。
眼鏡の奥の黒い瞳から、彼女の固い意志をプティングは感じ取りながらも、あえて何も言わなかった。トンカツを食べながら、孫娘が口を開くのを待つ。
ごはんを全て食べ終えたところで、ようやくキャラメルが沈黙を破った。
「おじいちゃん。私、強くなりたい」
「それは、どうしてかな」
「今日、あまり役に立てなくて弱かったから。これじゃあ、自分を守ることもできないよっ」
キャラメルの眼鏡に涙が貯まる。
「強くなって自分を守れるようになりたいの。お願いします、私に魔法格闘技を教えてください!」
椅子から身を乗り出して懇願するキャラメルにプティングはキラキラと輝く瞳を向けて言った。
「人はね、急激に強い力を手に入れると思いあがって弱い人を痛めつけるようになる。
それは、とても恐ろしいことなんだ。
正直言うと、わしは君にそうなってほしくない」
「大丈夫だよ。私はそうはならないから」
「その言葉は、色々なところで何百、何千回と聞いたことがあるけれど、誰もが力に溺れて道を踏み外してしまったんだ。
わしはもうそういう姿は見たくないんだよ。
自分の孫なら、特にね……」
「でも、このままじゃまた我が家が危険になるかもしれないよ?」
「……」
キャラメルの言葉も一理はあった。自分が急用で出かけることが増えて、現に今日のジークのような者が現れないとも限らない。
危険を察知したとしても立場上、持ち場を離れるのが難しい場合がある。
そうなるとキャラメルひとりで相手と戦わなければならないのだ。
今の彼女では相手を倒すことは不可能だろう。
顎髭を撫でてプティング老人は思案した。
少しの間黙った後で、ようやく答えを口にした。
「わしも眠るから、今日はお休み。このことはゆっくり考えなさい。
急いで答えを出すのは、あまり良いとは言えないからね」
「……おやすみ、おじいちゃん」
「うん。おやすみ」
食卓を去っていくプティングを見送るキャラメルの瞳は涙で潤んでいた。
「おじいちゃんの馬鹿……」