ジークVSキャラメル 5
蛇は先ほど倒した一匹だけではなかった。
今やジークは両腕や髪の毛、足に至るまで蛇に変化させて、全力をもってキャラメルを倒そうとしている。
「キエエエエエッ」
奇声を発して髪や腕を伸ばして食らいつこうとするが、キャラメルは大木を盾に身を隠す。
「無駄なことはやめろ。そんなことをしても無意味だ」
ジークは腕を幾重にも大木に絡ませ、蛇の巻き付きでもって大木を粉砕。
キャラメルの安全地帯を破壊し、今度こそ止めを刺そうと試みた。
蛇の髪でキャラメルの細い四肢の自由を奪って宙吊りにしてから、彼女に語り掛ける。
「俺の目を見ろ……」
真ん丸に見開かれた黄色い目を吸い込まれるように見つめたしまったキャラメルは、自分の身体が靴先から順に石に変化していることに気付いた。
「なにこれ。動けないよぉ!」
「馬鹿な奴だ。蛇が本気で睨むと対象の者を石にしてしまうことも知らぬとは。どうやらお前はよほど勉強不足と見える」
ジークに指摘され一瞬だけ唇を嚙み締めたキャラメルだったが、やがてがっくりと首を垂れた。
彼の言葉は事実であり、何の反論もできなかったのである。
石化が首から上へと進んでいく中、キャラメルは深く後悔をした。
ごめんね、おじいちゃん。私がおじいちゃんの言いつけを守って本を読んでいれば、彼を倒すことができたかもしれないのに。
でも、私は馬鹿だからいっぱい本を読んでも内容が頭に入らなかっただろうな。
おじいちゃん、馬鹿な孫娘でごめんね。
キャラメルは一筋の涙を流し、自分の愚かさを悔いた。
ジークは虚空から炎で槍を生成してキャラメルの胸に標準を定める。
投擲して一撃であの世で送ろうというのだ。
両腕や両足は蛇の髪で巻き付かれ、その気になれば無数の小さな牙で嚙みつくこともできる。
毒の有無はわからないが、噛まれた時点で大きなダメージは避けられない。
単なる嚙みつきや締め付けでも少女にとっては致命的なのに、ジークは予想外の勝負にもつれこまれた屈辱からか、槍でもって完璧なる詰めを与えようとしていた。
少女の顔は涙に濡れ、強く嚙みしめた唇からは薄く血が滲んでいた。
首を垂れ一切の抵抗を諦めた姿は魔人にとっては快感でしかない。
槍を構え、右腕を思い切り引いて槍投げの体勢に入る。的は当然ながらキャラメルの胸だ。
「地獄へ逝けぇ!」
渾身の力で放たれた槍は軌道を変えることなくキャラメルへと向かっていく。
驚愕と恐怖で瞳孔が縮む中、彼女は槍が刺さる瞬間を待つことしかできなかった。