エピローグ
帝国を運営する上で議題は山程あるから毎日皇帝を追究出来る訳じゃない。私は証人兼皇女の護衛になっちゃったんで、少なくとも陛下への聴聞が終わるまでは宮廷に居なきゃいけない。
何とも居心地が悪い。
半亜人だ庶民の娘が皇女の傍にいると白眼視される。
まあ、私も「左様で、何か文句がおありで?」ってな態度でいるけどね。
悪意に負けたらそれに嵩に懸かって来られるから、それは虐めっ子と同じなんだ。つまり幼稚。上品で教養人ぶってみせるけど、根はそんなもんだよね。
家には公的な書状が届いてるはずだけど、まだ返信はない。自分で経緯を話せないのが歯痒い。家族のこと他人に知らされるなんて嫌だよね。ごめん、父ちゃん母ちゃん兄ちゃん姉ちゃん新・兄ちゃん。
ハリナ皇后の部屋は隣の棟の屋上がテラスになってる豪華な区画だ。薔薇や観葉植物の鉢がキレイに整えられて並んでる。パラソルの下で皇后はグリットとお茶しながら熱心に話されてる。二人の間にはボニファーツ皇子の揺り籠が置かれて、皇后が様子を伺いながら揺らしてらした。
可愛い寝顔なんだよこれが!
私とガブリエラは控えのベンチに並んでる。
彼女も何を企んでるのか忙しく行動してて、こんな風にゆっくり出来るなんて久し振りだ。
「一段落ついたの?」
ニッと怪し気に笑う。
「根回しや工作は丁寧にしておかないと、襤褸が出ますのよ」
「大変だねぇ」
「謎の答えを得ることも出来ましてよ。例えば…」
意味有り気に間を開ける。
「ギッティ先生の正体ですとかね」
「ぐほっ」
冷めかけてるんで飲み干そうとしてたお茶にむせちゃった。
「判ったの!どうやって?」
「蛇の道は蛇ですわ。経緯は明かせません」
私は彼女のことを知ってると思ってたけど、それは勘違いだったと最近ようやく気付いた。
「聞きたい?」
「聞きたい」
怖い気もしたけど頷いた。
「昨年、シェファルツ王国で王宮が破壊されたのを覚えていて?」
「うん」
宰相がクーデターを起こして傀儡の王子を王位につけようとして返り討ちに遭った事件だ。
王宮の地下には伝説になってた、《魔法使い殺し》って超古代文明の装置が隠されてて、それは魔法を使えなかった超古代文明の人々が、魔法師を殺す為に作った名前の通りの物なんだ。
反対派の排除に宰相はそれを矢鱈に使っちゃったんで、超古代の機械だもん壊れちゃったんだよね。それは上に建ってた王宮まで粉々に壊れる程の破壊力だったから、シェファルツ王国だけじゃなく近隣の国々まで驚かせて、連日新聞が書き立ててた。
「《魔法使い殺し》に落され生き残った人々を救い、地下から巨大なゴーレムで脱出した魔法師を憶えていて?」
「まだ生きてるとは思われてなかった伝説の大魔法師ウィクトルとそのお弟子さん……じゃなかった?」
脳裏に新聞の記述がポンポンと甦った。ここまでは以前にも話したよね。
十二歳の弟子は美貌だったって何処かに書かれてなかったっけ?しかも十二歳…じゃあ今年で十三歳だよね。
私、伝説の魔法師に教えを受けてた……?
「伝説の大魔法師ウィクトルの弟子の名は、プロスペロというそうですわ」
突かれれば壊れそうな程固まっちゃう。
ダンテさん、本名はプロスペロだって教えてくれなかった?教えてくれたよね。忘れるなって言われて、私、忘れてないもん。同名他人は有得ないよこの場合。
「そんな人達が我が校へどんな伝手で?」
「校長先生はウィクトルの三番目か四番目の妻の間に出来た子の末裔ですの」
ぶったまげだよガブリエラさん⁉そんなにサラッと言っちゃわないで。
「道理でダンテさんはわたくしより魔力が強いはずですわ。これも覚えていまして?冬の最中に聖ルカス皇国の辺境で騒ぎがあったのを」
「うん、そっちは詳細は判んなかったけど、例の聖ルカスの皇位継承で、先帝の孫姫が見付かったんだよね」
聖ルカスの現帝はグアルテルスは簒奪者で、二百年前に先帝とその家族を弑して帝位を奪った。その時逃れられた皇女が、田舎の神殿に匿われてたのを密偵に嗅ぎ付けられて、皇都に護送されるはずだったけど逃げられちゃったって話。
「彼らが正体を隠して逃げ回ってるのはそれに一枚噛みしたらしいのです。グアルテルス帝の報復を恐れているのですわ」
何したんですかあなた達。そんな面倒なことに首突っ込むなんて柄じゃないでしょうに。
思わず蜻蛉の腕輪を強く握っちゃってた。
「偉い人達と関わってた訳ね私達」
「味方に出来ないのは残念ですけれども、聖ルカスと因縁のある方では難しいですわね」
チロリとガブリエラは蜻蛉の腕輪を一瞥した。何それ何それ!凄く意味有り気なんですけど!もっと知ってることあるみたいな…。
「お話が終わったようですわよ」
茶碗をメイドに渡して彼女は立ち上がった。
ごめん母ちゃん父ちゃん兄ちゃん姉ちゃん新・兄ちゃん。ネーナは当分帰れそうにありません。どうか夏休み中に決着がついてくれますように!




