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《異界渡り》

 お風呂に入って一休み、なんてしてたら朝になってた。夢も視ずにぐっすりだよ。

 色々あったもんねぇ。近くの《忌み地》から北の果ての超古代文明の遺産まで行ったんだ私。なんか夢みたい。サコッシュにしまってたオリハルコンが現実だったって証明だ。

 夜が開けたからってより、お腹が空いて空いて死にそうになって起きちゃった。

 寝室を出たら人気のない広い部屋はガランとしてた。寝静まってるのと人がいないのとは違うんだよね。グリットの部屋にはもう私以外誰もいないんだ。グートルーンは妖精郷に、グリットはディースターヴェーク女史を連れて宮廷に。

 渋る女史を「私の伝記作家をお願いしたいの」の一言で籠絡したんだって。異界に一緒に行きたい、って言われたら難儀だったんでグリットには感謝だ。

 私のお腹の音を聞いて(聞こえる程大きな音が出ちゃいました)、客室ゴーレムが大急ぎで食事の用意をしてくれた。分厚いお肉やホロホロ鳥丸々一羽なんて並んで、朝食じゃないよね。昨夜出しそびれたにしても、とてもとても美味しくて、食べ切れない、って思いつつ食べ切っちゃった。ハハハ。猪のレバーペーストをバゲットに塗ったくって頬張ってたら、被り物無しのダンテさんが来た。

「もう食べ終わったの?一緒に食べようと思ってたのに」

「ダンテさん!食べよう食べよう一人じゃ寂しいよ」

 まだまだ胃袋には空間が空いてるよう。対面の席を勧めると、そちらには「朝食」が運ばれてくる。

 ビスクドール・ゴーレムのクラリッサに《異界渡り》は難しいので、ダンビエ先生の所だという。

「いつ帰ってたの?私達が帰って来た時はいなかったよね」

「ダンビエ先生に、もう後は管理局に任せて大丈夫だから休めって言われて。名のある魔法師が何人も来てくれてたしね。それでもう一度現場に行ってた。」

「何で⁉それでよく無事だったね!」

「陛下のお連れさんは本当に《忌み地》の掟を解かってなくて、皇帝の姿が消えた途端に闇雲に攻撃開始だぜ。《忌み地》はまだ荒れてる」

「どれ位広がりそう?」

「分からない。俺も初めてだから。もうたくさんの村が呑まれてるし、この街の百メートル手前まで迫ってる」

「ええ、じゃあこの街も呑まれるの?」

 もしかしてゆっくりご飯食べてる場合じゃない?

「辛うじてそれは防げそう。この街はここいらの主邑だから、呑まれたら復興の痛手になるから助かった」

「お疲れ様です」

 村が《忌み地》に呑まれるって、この瞳にしてないからどんな風なのか想像もつかないや。

「どういたしまして。これはアルベルト帝の所為だから、戻っても糾弾されるだろうな。皇帝権力で管理局の面々を脅かして中に入ったんだから。管理長も殺し掛けたし」

「だね」

 反省するかなあの人。

「最初の皇帝の一撃でこうなることは解かってた。それに《忌み地》の管理は国家に属しない。世界的な団体に任されてるんだ。それは皇帝でも犯していいもんじゃない。後で正式な抗議がなされるだろうな」

 そうなんだよね。

「なんで陛下はあんなことしたんだろう?」

「俺は解った。皇帝はどんな理由を付けてもスヴェンが欲しかったんだ」

「ずっと放ったらかしだった癖にね」

「彼の中では筋が通った理由がある。それでもう責める方が間違ってるってことになるんだ。幸せな人だ」

「どうしようもない人だよ」

 グリットもスヴェンも人の気持ちが解かる気遣いの出来る人達だ。その父親だなんて想像も出来ないけど、反面教師になってるんだろうか。改めて二人の心中を思い遣るとやるせない気持ちが溢れてくる。

「追放した娘の近くにいさせるのも、自由都市で教育されるのも良くないって判断で、そのまま帝都に連れて帰ろうとしてたって話」

「ぬあにぃ~」

「全てマルガレーテ姫の所為にして離間を目論んで。それにしては幼稚なやり方だよな。それじゃあスヴェンが納得しない、って思考がないのが不思議で堪らん。皇帝が消えて獣達が騒いだ隙にスヴェンとフー師は逃げてヴァルターと合流して、危険だし避難の邪魔になるからって宿に戻らせた。よく我慢してくれたよ」

 自制心が強いんだ。獅子人の私が人一倍持ってないといけないんだけど、私なら何も出来なくても付いてくってごねてたよね。

 それはこれからの課題として、食事中、《異界渡り》のことを色々と訊いた。



 ブーヘの《忌み地》の騒ぎを聞きつけて、自由都市連合からスヴェンの身を案じる使者が派遣された。額に大きな顎に小さな傷のある、逞しい鉱山夫出身の市議だ。数人の部下達を連れてる。

 一階のテラッセでハーロルトを伴ってスヴェンは面談に臨んだ。声は聞こえないけど部屋の窓からはその様子が窺えた。

 父帝の救出にスヴェンは参加しない。

「意義は理解するよ。だけどあんな奴の救出に参加するなんて真っ平だ」

 それが「青い薔薇の朋友団」の使命を聞いての第一声だった。聡い彼には解かってたろう。彼が参加すれば無事救出した際に、皇帝はそれをスヴェンの功績として認知して、グリットの存在は無視するだろうことが。

 宮廷側からも使者があったけど取り合わなかった。スヴェンは市議と一緒にカランタに戻る。

「こんな風に旅行を終わらせるのは悔しいよ」

「仕方がないさ。自由都市連合で自分の基盤を作ってくれ。それがグリットの為にもなる。お偉方への宣伝も頼む」

 そうヴァルターさんは答えた。

「危なくなったらあんな男は見捨てて戻っておいでよ」

 これは私とガブリエラへだ。

「御心配には及びませんわ」

 全員でスヴェンを見送ってから直ぐにガストハオスを引き払った。当初の予定でも今朝立つはずだったしね。荷物と馬車はパッシェンさんがカランタに連れ戻ることになった。

 私の荷物だけが帰ったら、みんな驚くだろうな。驚かせてばっかでごめんね。




 ダンテさんによれば、アルベルト陛下が落ちたのは十七異界だ。

 あんまり良くない数字だなぁ。


 それというのも、異界は数多あるんだけど、人、あるいは生物がいて何がしかの文化を持ってる異界は二十一個だけだ。二十一番目は不吉な数字を当てて二十三異界って呼ばれる程酷い異界で、滅多なことでは行けない。それなのに転生者が来るのは二十三異界からと決まってる。時代もまちまちで、古い時代の人間がもっと新しい時代の人より後に転生して来たりするんだ。こっちの生物が故意でなく何かの理由で渡ってしまうのも二十三異界なんだよね。

 二十三異界を研究して観察してる学者が、観察っても時間軸がバラバラなんだけど、蝙蝠馬がジャージー・デビルって呼ばれてたり、枝角兎をジャッカロープって名付けてる、って発表してた。

 その他の二十の異界には、《異界渡り》の能力があれば行ける。互いに存在を認識してるのは二番と十一番で、公式ではないけど個人的な交流はなされてる。

 順番には特に意味はなくて、ただ十三、十七、二十三は、不吉な数字を当てられた良くない異界なんだ。


 それを事も無げに告げたダンテさんにガブリエラが訊いた。

「どうやってお解りになったの?」

「解からないことが解からない」

「ムカつく答えですわね」

 美しい顔に悪い感情が浮かんでる。ギムナジウムでは魔法術が抜きん出て優秀だったから、自負心も大きいんだ。

 それに対してダンテさんは信じられないって感じで、

「え?」

 だよ。「え?」って何?「え?」って。それが人を納得させる答えだとでも思ったって?ハッ、これだから天才は。

 おおっと、嫉妬してる場合じゃない。異界が分かったからには十七異界への対策を大急ぎで立てないと。

「十三程でないけどやな異界だね。まあ、あそこなら皇帝も生きてるかな…どんな目に遭ってるかは分かんないけどね」

 う~ん、ってギッティ先生が唸った。大分酷い目に遭っててくれても心は痛みませんね。

「ええ、人間と亜人がこちらよりは巧く共存してる世界ですから。けれど絶えず戦争があって、被支配者に酷い差別を強いるのだとか。暗い魔法が多用されて、暗黒の力が異界にまとわりついている、とお聞きしておりますわ」

「命の価値の軽い異界なんだよ。ダンテ何処か特定してみそ」

 そんな、そこまでは流石にダンテさんだって…。

「ンチャ大陸のンコロってとこですね」

 特定した~!

「何だか亜人と人間の大軍勢がンチャ大陸に上陸して、侵略戦争の真っ最中です。ンコロは侵略軍の拠点の一つっぽかった」

 破格です、天才ですダンテさん。はい認めます。尤もとっくに認めてるけど。

「それ以上は無理です。本人の持ち物でもないと」

「ガブリエラ、《異界渡り》を頼むよ」

 指名された彼女は「はい」と返事をしたが、ヴァルターさんは異議ありだった。

「何?こんな機会は滅多にあるもんじゃないんだから、経験させなきゃダメよ」

「けれど渡った先をンチャ大陸に出来るかどうかは…」

「構わないよ。儂が付いてるから思い切ってやってごらん。儂らの魔法も使える世界なんだから、転移しちゃえばいいだけの話」

「ありがとうございます。先生が付いていて下さったら、思い切って本気でやれますわ」

「オリハルコンは大事に持っててね。力を増幅してくれるから、儂とネーナとフー師を連れても楽に《異界渡り》出来る」

 凄い。《異界渡り》なんて本人だけでも難しいのに。やっぱ大事に持っとくべきなんだろうな、オリハルコン。後の人達、ヴァルターさんとハッペさんはダンテさんと行く。ハッペさんは魔法より剣の人で、ヴァルターさんには《異界渡り》の能力がないんだって。


 そうして十七異界へ渡る準備を本格的に進めた。

 本によるとンチャ大陸の気候は非常に高温なんだとあった。夏服しか持ってないから寒い場所じゃなくて良かった。

「師匠長生きなんでしょ。十七異界にお友達の一人もいないんですか?」

 実のある答えをダンテさんは期待してなかったらしく、「そういや、いたね」と答えられて吃驚してた。

「連絡取れないんですか?」

「向こうに渡ってからじゃないとね。奴と最後に会ったのはかれこれ三百年も前だし、家族が出来たって言ってたけどまだ生きてるかな?」

「望み薄ですか?」

「寿命的には生きてるはずだけど、向こうの一年はこっちの三年だから」

 思案気にする。

「まあ、行ってから連絡取ってみるよ」

 その話に私達の誰もが、ほんの少しだけど心中ホッとしてた。こちら世界の人間が誰も居ない場所ではない、ってだけなんだけどね。


 ガストハオスの広い庭の片隅にアザミが枝を大きく伸ばしてた。丁度花の時期だから数え切れず紫の花が咲いて、一足先に散った花が綿毛を付けてる。

「ここら辺りでいいんじゃないか?」

 え、ここまだガストハオスですよヴァルターさん。

「そうね、適当な場所なんて条件付けたらいつまで経っても見付からないしね」

 ああ、そういやそんなもんなのかな。

「先に行ってくれたら、それを追いかけるよ」

 余裕かましてるダンテさんは今日は動物の被り物じゃない。行く場所を考えてだとは思うけど、宗教的な印象が強い。蛇がうようよ頭をもたげてて頭頂を覆い、髑髏と助けを求める様な手の骨が幾つも間から覗いてる。ジャラジャラと黒い色んな物が繋がって垂れ下がり、口元だけが外気に晒されてるんだ。

 荷物はそんなに持ってなかったのに、何所に隠してたのか。

「本当にここから行くんですか?ガストハオスに迷惑なんじゃ…」

「外に出たら「一緒に救出組」が待機してるだろ」

「一緒に救出組…?」

「またもやライムントだっけ?が密かにリークしたんで、どうにか俺達に同行しようとする連中が、門前でさり気なくを装って待機してる」

「なんじゃそら!」

「だから下手に外に出れないんだ」

 ヘルダーリンの奴め、やっぱ闇討ちすべきかな。

「それにしてもその恰好は喧嘩売りに行ってる様に思われないかな?」

 被るなら動物の方がいいな。

「え~?俺は巫覡的な感じを醸し出そうと努力したんだぞ」

 形の好い口を尖らせてる。何気に可愛いフフ。

「ツチラト氏に頼まなかったの?」

 服のセンスが最悪だから、常はツチラト氏に頼んでるんだよね。

「ツチラトは格好好いしかコーディネート出来ない」

「儂もこれはこれで間違いじゃないと思ってるよネーナ」

 ちょいちょいとジャラジャラを先生は突く。

「向こうは陰気の籠った異界で、系統だった宗教より個人を尊崇する気分の方が強くてさ。シャーマンが大きな力を持ってるんだよ」

「へぇー」

 そう言われりゃ、そんな感じかな。ダンテさんは背も高いし様になってるっちゃなってる。

「杖も適当なのない?向こうのシャーマンは装飾過多な、背を越す長さの杖を持ってるもんなんだよ」

「ないです。まだ要らないんで俺」

 しょうがないなぁとかぶつくさ言いつつ、先生は小さな革袋からそれより大きくて長い杖を取出した。

「なんて便利な袋」

 杖は尖った印象の物だった。ダンテさんの顔より下の辺りが広くなってて、そこに真っ赤な石が嵌め込まれてる。

 一気に巫覡度が増す。

「ありがたく頂きます」

「ダメ、こっちに帰ったら返してよ。大切なんだから」

「老後に使うには師匠には長いです。短いの作って上げますから」

「結構ですぅ~。返してもらいますぅ~」

 この師弟って…。

「ねぇ」って話し掛け様としたら、ガブリエラは《異界渡り》のお浚いで、ブツブツ呪詞を呟いてた。

「いけそう?ガブリエラ」

 緊張した面持ちで「はい」と答えた。

「じゃあ行こうか。ネーナ、儂の手を取って」

 獅子人の私には魔法が掛かり難いんで、誰かの付属物的な感じにしなきゃなんないんだ。

 先生の手を取ると、フー師以外の人達が下がった。

「では参りましてよ」

 編み紐で失くさない様にしたオリハルコンをしっかと握ってる。

 世界が歪んだ。歪んで闇に呑まれて上下左右も分からないのに移動してる。行く先の分からない不安が沸き上がった。



 寒くはないけど荒涼として寒々とした景色が広がってる。葉のない木に疎らに生えた草。昼間だろうに空には厚く雲が垂れこめて、雨が降る前の様に暗い。なのに雨の降る前の湿気った感じはなくて、水分を奪われそうな程乾燥してる。

 程無くダンテさん達も五メートル位離れた場所に現れた。

 あれ?繋いだ手の感触が大きくなってる?

「しまった。一旦術が解けた」

 素の先生に戻っちゃったんだ。

「良かった!わたくし失敗して見知らぬ誰かと入れ替えてしまったかと」

 安堵の息を吐いた。

 私は会ったことがあったけどガブリエラはなかったよね。

 先生は小太りだったから、大きくなっても辛うじて横のサイズは何とかなってるんだ。丈は足りなくて子供服着たみたいになってて笑いそうになった。

 だからみんなも驚いてたけど直ぐに笑いに変わった。

「そ、それが本当のギッティ先生のお姿なのですね」

 細身の神経質そうな四十代頃の男性なんだ。ガブリエラが意味有り気な視線を送って来る。

 流石は友だ。好みがバレてる。

 別の表現をすれば、程よく渋味のある中年のおじさんで、私好みのど真ん中ですわ。美少年も美青年もいいけど、男なら渋味とか苦味の効いた中年が好いんだよねぇ。

「魔法で姿を変えてるのは察してたが、そこまでとは思わなかった」

 腹を抱えて笑ってるのはヴァルターさんだ。

「何故姿を変えておられるのか、訊いてもよろしいか?」

 必死に笑いを噛み殺しながらフー師が訊ねた。

「教師をするにはあっちの姿の方がやり易いんだ。それだけだ」

 催眠術とか暗示みたいなもんだよね。眉根に皺寄せて口調まで変わっちゃってる。

 魔法で全身性の変身魔法を掛けるのは難しいから珍しいんだ。大抵は若返りや髪の増量だもんね。

 笑いが中々収まらないので、渋い表情でガブリエラを褒める。

「皆無事に《異界渡り》出来たな。ガブリエラ、満点だ」

「ありがとうございます」

「ファブリシオの奴も健在の様だから行くか」

 また手が繋がれた。と思ったら花の多い農家の前に立ってた。

「え…と、今はフルヴィオだっけ?久し振りだな」

 ファブリシオさんらしい人が満面の笑みで迎えてくれた。

「また面白い格好でご登場だな。丁度妻と薬草を摘んでたんだ」

 中肉中背のおじさんが手にした籠には数種類の草が摘まれてて、薬局の娘である私は凄く気になった。この地にはどんな薬草が生るんだろう。俄かに興味が湧いた。

「平和そうだな」

「その為に田舎に暮らしてるんだよ」

 奥さんは、と目で探すと、平べったくて先が丸いアヒルや鵞鳥の様な嘴の亜人がこちらを見ていた。剥き出しの肩から手首まで、びっしりと羽毛で覆われてる。

「珍しいわね、あなたにお客様なんて」

 視線に気付いて近寄って来る。口は鳥だけど発音は普通の人間だ。

「妻のヤリサだ。俺はフルヴィオと話してるから、皆さんに飲み物を頼めるか?」

「分かったわ。いらっしゃい中へどうぞ」

 頷いて手招きした。手は鉤爪になってるのが不便そうだ。

 先生は外に残ってファブリシオさんと小半時程も話してた。


 十七異界には六つの大陸があり、ファブリシオ家があったのはンチャ大陸に侵攻した、マハパハロ帝国のあるトルリシゴク大陸だった。

 マハパハロ帝国の女帝ヤジ・ルフンガは征服欲が強く、しかし周辺の国は征服し終えて西に向かえば軍事強国に当たってしまうので避け、それよりは文明の遅れたンチャ大陸に、自ら陣頭指揮を執って侵攻したのだそうだ。国内は弟に任せている。

「傍迷惑な人ですね」

 夫妻は私達に居間を明け渡して薬草摘みを再開してる。窓から仲の良い様子が覗けた。

「だな。謀略を駆使するのを好むってぇのじゃなく、ただ征服したい支配したいってだけだから、強い連中と闘う気なんざさらさらない。水が豊富で年中暑い国は、生きるのに寒い国の様に工夫する必要がないから、気性がのんびりしててどうしても均一水準の技術文明が遅れがちになるんだ。そこを狙われたな」

 ンチャ大陸にだって帝国が栄えてたんだけど、二十年程前に滅んでからは大きな指導的役割を果たす国がなくて、中小の都市国家が林立する状態。吸収や合併、征服や滅亡を忙しくしてたんだって。

「同盟を組んで女帝に抵抗し様にも核になる、頭一つ飛び抜けた指導者がいない、ってことだな」

「そ、なら白旗揚げます、と使者を送っても、女帝がしたいのは征服なんだ。一戦もしない内の無抵抗降伏はさせてもらえんのだと」

 友達になれない、なりたくない。

「弟がアホな外征を許してるのは、屈辱的に屈服させるのが好きな女帝なんて、国内に居られても迷惑千万。征服される人々には悪いが外征に励んでて欲しいってのが本音らしい」

 グリットや私達にしたことはしっかり返してもらうとしても、アルベルト陛下がまともでマシな統治者に感じる。

「でな、憎ったらしいのはアルベルト帝が、そこで全然苦労してないってとこだ」

 なぬ?命の危険まで懸念されてたのに?

「こちらの獣人は、亜人とは呼ばねぇんだ。人間に作られた者でもないしな」

 その獣人の呪術師は王気というのを感じ取れるらしい。何故かは研究課題だって。即位してることが条件なのは判明してる。

 経緯としては、豚小屋に落ちた王気を呪術師は女帝に進言した。うちの皇帝は見てくれは悪くないし、態度も尊大で成る程って納得されて、異界の王として高待遇を受けてるんだって、ホント憎たらしいわ!皇帝だって信じてもらえなくて豚小屋の掃除させられてたって苦労が軽い位なのに!

「言葉が解からなくて苦労してる!」

 それ位はしてるだろ。

「残念。こんなとこにいるファブリシオが知ってたのは、奴と同じ異界出身だからって問合せがあってな。女帝は言葉石を用意したんだと。解かるだろ?言葉を通訳してくれる有難い石だ」

 なんてこった。

「何で怪しい奴だって投獄されてないんだ。俺達が助けに参りました、と現れたって有難味が薄いだろ」

 ぼやくヴァルターさんの気持ちは大いに共感した。

「女帝って美人かな?」

「気になるのはそこか、ダンテ」

 先生がしかめっ面をする。

「人の幸せを羨んだりしない性格ですけどね、奴だけは幸せになって欲しくない。女帝が豊満美人だったりしたら、どうにかして仲を壊したくなるってもんでしょ」

 だね!けどどうしたって男の嫉妬は感じるよダンテさん。

「助けられたことに恩を感じてもらう為にも、何か一手は打たないと、来た甲斐がない」

「ええ、それに幾らなんでも、そろそろ陛下の落ちた異界だって判明しておりますでしょうし、急がねばなりませんわ」

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