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超古代文明の遺産の崩壊

 壁を背に床に座り込んだ二人は手を取り合ったまま干からびてた。女性二人だ。

「彼女らの死因は何だったんでしょう?餓死じゃないですよね。上の階に農場がありましたもんね」

 農場の機械が壊れてないのは、人工的な太陽の下で野菜や果物が生産されているのからも分かる。虫にやられてなくて良い土の匂いに心の何処かがホッとした。壊れかけの機械のゴーレムが、収穫した木苺にブラオベーレをくれた。丈の高い果樹はない。

〔オ…カエリ、ナ、サイ〕

 野菜を収穫するゴーレムに色艶の良いパプリカをもらった。ドラッヘの心臓のガブリエラは、木苺をひょひょいと口に放り込んだ。

「甘くて美味しい」

 しばらく様子を窺ってから残りをグリットに渡す。

「大丈夫のようでしてよ。食べれるのでしたら食べた方がよろしいわ」

 一つだけ抓んだ。けれどまだ本調子でないんだろう、もう手を付けなかった。

「このシュパルゲルも絶対美味しいよ」

「太くて硬さも色もいいよね」

「自給自足だったんでしょうか?それにしては農耕地は狭いですよね」

「魔法師を欺く為にここに籠ってなきゃだったから、地下生活の慰めだね。作柄から見てもそうだと思うよ」

「持って帰れますかね先生」

「ポケットに入るだけ入れておけばいいじゃない。儂もそうするよ」

「籠があるではないか」

 農場のそこここに収穫用の籠が置かれてるのをツチラト氏が指摘した。

「そうなんだけど、いいのかな貰って」

「オリハルコンを外せばこの建物自体が壊れてしまうのでしょう?ならば少しでも食べて上げた方がゴーレムも喜ぶでしょう」

 機械ゴーレムは会話から察知したのか、収穫籠に満載にしてくれた。

「これを儂の手で壊さなきゃならないんだよね。残ってる技術を保存する術は儂にない…」

 涙目の先生を目にすることがあるなんて思わなかった。

「農場だけを残すことは出来ませんの?」

「この部分だけを持ってくのは無理だよ。建物は全体で機能してるし、それに、ここ以外はほぼ死んじゃってる。どの道時間の問題だね」

 先生は寂しそうだった。研究に生涯を掛ける価値のある建物だってだもんね。超古代文明の遺産は皆そうなんだけどね。

 だから彼女らの死因は餓死でないはずだけど、それを解明する時間はもうないんだ。


 部屋の中央、私の胸の辺りに浮かんだ透明な球体の中に三方八面体の五つのオリハルコンはあって、それは踊る様に絶えず動いてた。

「これが、オリハルコン」

「質のいいオリハルコンだよ。こんな風に精製出来る技術も無くなってしまって久しいね…」

 研究者なら当然かもしれない、失われゆく技術に先生は感傷的になってる感じがする。

「丁度五つあるわ」

「私は要らない。先生に譲ります」

「そんなこと言っちゃダメ。後悔するよ」

「そうよ、勿体無いわ」

「しませんよ。これ以上は身に余る。冒険出来たらそれで十分だもん。先生なら有益に使えるでしょう?」

 先生は少し考えて、

「こんなに大きくて純度の高いのは滅多に手に入れられる物じゃないのに。じゃあ預かっとくね。ダンテに渡しとくからいつでも請求して」

 何故にダンテさん?いいですけどさ。でも現金な話、そういう担保があるって何気に気持ちいいな。

「さて取出すよ。もう二度と拝めないから、しっかりこの光景を目に焼き付けてね。この場を若い、未来ある君達と共有出来るのは先生も嬉しいよ」

 ホクホクした笑顔をされるから私もホクホクしちゃった。

「魔法じゃないですよね。どんな絡繰りで取出すんだろ、ワクワクしちゃう」

「でしょ?超古代文明って凄いんだよ。ほら、周囲に操作棒とか留め金とか何もないじゃない?これって恐らく声で反応するんだよ」

「呪文あるいは呪詞ということですの?」

「似た様なもんだけど全然違うんだ。魔法とは(ことわり)が違う、って講義してる時間がないのが惜しいよぅ」

 って乙女の様に身を捩る。

「私達見て覚えてますから、後でゆっくり講義して下さい」

 全員(ツチラト氏除く)で顔を見交わしてにっこりした。

「じゃあいくね」

 先生は一転真剣な顔になった。

『儂の言葉が解かるかい?』

 古代語だ。

『はい』

 古代語で返事があった。

 固唾を飲んで見守る内に、透明な球体から現れた光が集まり、幽霊みたいに向こうが透けた男性が現れた。兄ちゃん位の年齢の人だ。地味だけど誠実そうな見た目も同じで、ちょっと複雑。

『呼ばれるのは久し振りです。イウリオスと申します。お名前を頂戴出来ますか?』

『ウィクトルだよ』

『ご用は何でしょう』

『オリハルコンを取出したい』

『いかほど?』

『全て』

『お勧めしません。一つは残しませんと、貴方方が脱出するまでここは保ちません』

『大丈夫.。方法は考えてあるから』

『―ではお取り下さい』

 言葉が終わるが早いか破壊音が届いて男性は消えた。オリハルコンは空中に浮かんだ盆の上に揃えて置かれてる。

「先生⁉」

「早く取っちゃって」

 ツチラト氏と先生で取出す。様々な物が壊れる音が増して、天井に重い物が圧し掛かる音や、継ぎ目のなかった天井に隙間が出来て砂や石が落ちて来る。

 グリットを中心に女三人が肩を組んだ背後からツチラト氏が被さった。



「ぎぃやああぁぁぁ」

 足の下に大地がなくてパニクッた。しかも眼下では壊れた建物を呑み込みながら、大地が水の様に渦巻いてる。叫んでたら口に何やら貼られて塞がれた。

『吾の力で浮かんでおるのだ騒ぐな!』

 崩壊の音が他を圧して轟き声が届かない。直接頭に送られた。

『け、け、けれど、た、しかに、怖い…。けど、面白うございますわ』

 ガブリエラだ。グリットは蒼い顔して薄目になってる。

『吾には壮観である。面白かろうと気を遣ってやったのだ』

 あ、剥がせた。

『安心したら面白く見物出来ます。ありがとうツチラト氏』

『であろう』

 この人なりの気遣いなんだろうけど、巨大な建物が地中に呑み込まれてく様は圧巻で、面白いと言いつつ怖くて怖くて心臓が鳴りっ放しになってる。

 北の緑乏しい周囲の大地も崩れて、やがて大きな窪地が出来た。音は遠くなりはしたけど止まずに、窪みは深くなってった。

「もうよいか…」

 声が届く様になるとツチラト氏が呟いた。

「そうですわね。三人も抱えていてはお疲れでしょう」

「然程でもない。気遣いであるな。善い物である。降りるとしよう」

 野菜や果物で一杯の三つの籠と一緒に、待ってた先生と合流する。先生はグリットの為の簡易寝台も、どうにかして用意しててくれた。

「オリハルコンって不思議でね。これを手にしながら魔法を使うと増幅されるんだよ」

 そう言ってグリットにオリハルコンを渡し、また首筋に手を当てた。

 ふわり、と彼女の身体が燐光を放ちながら浮き上がってゆっくり着地する。

「不思議、身体の底から力が湧いてくるわ」

「良かった」

「今度こそ本当に身体が戻って来た感じがします」

「さっきまでは何処かぎこちなかったでしょ?死にやしないけど、魔法攻撃を喰らうとこういうことになったりするんだよ。こうしなくても二、三週間で元通りになるんだけど、オリハルコンの力を経験しておいて欲しかったからね」

 先生は何処までも教師だなぁ。そして生徒思いだ。


 オリハルコンは要らないって断ったのに、先生はやっぱり記念だからって手に押し付けられた。

「金にするしないに関わらず。貴重な経験をした記念だよ。そうだ、あの長ったらしい名前の……」

「ディースターヴェーク女史ですか?」

「うん、彼女に武勇伝として語って上げたらいいんじゃない?」

「グリットかガブリエラに任せます。うんざりですよ」

 先生は笑った。けど長くは続かなかった。

「いい~~御身分ですなぁ~~、こんな時に可愛らしい女の子達とアハハ、うふふですかな」

 真後ろに恨みがましい目をしたヴァルターさんが出現したんだ。

「そっちは終わったのかな?収拾つけるのが早いね」

「《忌み地》の生き物を傷付けたら《忌み地》が拡がるだけだから、住民を避難させるだけしか手がないってこたぁご存知ですな!そんなもの下っ端任せで十分」

「そうなんだ。こっちはね、君の姫様を超古代文明の遺産から救出して、治癒を終えたとこだよ。いやぁ、大変だった。オリハルコンを手に入れるまでも大変でね。ほら治療もに使えるじゃない?姫を一早く治す為に艱難辛苦を乗り越えて、古代の怪物と闘って、あ~~疲れたぁ」

 何を口から出まかせを。女の子達で笑ってしまった。

「それは大変なことで、で?オリハルコンってのは籠一杯の野菜のことですかな?」

「これは…」

「これは?」

「囚われのゴーレム達からのお礼の贈り物なんだよ。って、あだだ」

 首根っこを掴まれて持ち上げられる。

「やだ、ハンサムに迫られてる儂?恥ずかしい」

「恥じらうな、師匠。俺は姪を助けて頂いたんで、怒鳴り付けるのを我慢してるとこなんでね」

「好い心掛けだと思います。儂のこと師匠だって覚えてたんだ」

 なんですと?

「忘れるものですか」

 どさり、と先生を落すと呼吸を整えてる。気持ちを抑えてるのかな。急いでグリットが先生を取りなす。

「叔父様。先生やツチラト氏のお陰で無事に戻って来れたし、身体の具合はすっかり良くなったの、本当よ。一生人の手を借りて生きなきゃいけないかしら、って絶望しかけてたんだから」

「グリット…」

「はい」

「お前には悪いと思うが、お前の父が異界に落されて清々してるんだ俺は。いい気味だと思ってる」

「叔父様。構わないわ」

「心配した。俺はな、奴が異界に落されなかったら殺してた。あれは娘にすることじゃない。何故反撃しなかったんだ、お前の方が強いのに」

 叔父は姪を強く抱きしめた。

「ネーナやガブリエラを巻き込んだのは悪いと思ってるの。でも出来なかった。大好きよ叔父様」

「グリット…」

「だから協力してね」

「何をだ?」

「異界から父上様を救出するの」

 ばッと身を離す。

「考え直せ⁉」

「嫌よ!」

「誰も陛下が落ちた異界は突き止めてない。仮に突き止めても救出隊が組織されるかも覚束ない状態なんだ。放っておくんだグリット。そしてこの国を出よう。何処でもお前が好きな場所に付き合ってやる。帝室と縁を切って外国で暮らそう。親父も初端(はな)っから了承済みだ」

「解かってる。でも、こんな惨めな状態で引き下がるなんて出来ないわ。一生祖国から逃げ出した、惨めな記憶を抱えて生きる気はないの」

「グリット!」

 それは分かるって顔してるけど、それでも承服は出来ないよね。叔父さんなんだから。

「それでも、助けても恩なんぞ感じないぞ。あんな奴の為にお前が危険な目に遭う必要はない」

「みんな父上様のことをよく解かってるのね。なのにあの「クソ親父」?は、自分は誰にも理解されてない、ってウジウジしてるのよね。解かってないのは自分だわ」

「はぐらかすな。分かった俺が行くから、お前は親父のとこに隠れてろ。救出したら…」

 手を叔父さんの胸に当てて、断固として拒否する。

「叔父様も行く。無論私も行くのよ。ネーナもガブリエラも一緒に行ってくれるし、何よりギッティ先生が協力してくれる」

 振返ったヴァルターさんは凄い目で先生を睨み付けた。

「止めてくれなかったのか?」

「毒親の(けつ)の一発も蹴らずに逃げたら、心の成長の妨げになるじゃない。君はいつも賢明だし、とてもいい意見だよ。けど、優秀で誇り高い生徒の、踏み躙られてもへこたれない気持ちを、儂は何より大切にしたい」

「少女達を巻き込む意味があると?」

「経験は出来る内にさせとかないと。学校教育じゃこういうのは中々経験させてもらえないでしょ。そこ学校教育の欠陥ね。危ないことはこれからだってたくさんあるんだし。それに友の難儀に黙ってられる子達でも、実力が伴わない子達でもないからね」

「そうだが…」

「じゃあ決まりね。ありがとう叔父様。それはそうと叔父様がギッティ先生の弟子だなんて思ってもみなかったわ。修行に出てたのは知ってたけど。どうして教えてくれなかったの?」

 肩をすくめて見せる。

「師匠が…、偽名を使っておられたからだ。そういう時は理由がある。親し気に話し掛けるものじゃない」

「それにちゃんと卒業してないものね~。ヴァルターは自由な弟子でね。帰って来たと思ったら、不意に風に誘われでもしたみたいにいなくなっちゃって。妹さんの輿入れに付添うから当分教えを受けられないって、その時だけ律義に連絡寄こして以来じゃない?」

「叔父様…」

 妹の輿入れってグリットの母ちゃんのことだよね。彼女感激しちゃってる。

「しかし、陛下が落ちた異界が分からんと助けようもないだろう」

 照れてそっぽ向いちゃったよヴァルターさん。

「それならダンテが突き止めるよ。解かっても喋るなって口止めしといたからね」

 口止め多いなぁ。慣れないから辛いだろうなダンテさん。

「何故です?」

「ダンテは破格の魔法師だけど、だからって安っぽく使わせる気はないんだもん。出来る子だって知れたら、あれもこれもさせられるでしょ。それにね、分からない方がいいこともあるんだし。今回なんて正にそうじゃない。宮廷側の意見はまとまったっぽい?」

「いや、まだで、ウンケルが…」

「私がどうかしたかね?」

 少し離れた場所から声が届いた。すかし野郎のヘルダーリンも従ってる。

「ここでしたか皇女。災難でありましたがご無事で何よりでした。我らと共に宮廷にお戻り下さい」

 恭しく頭を垂れた。確かヨーゼフって呼ばれてた人だ。あのね、災難なんてもんじゃないよあれは。

「俺を追って来たか」

「父上様の最側近が、国境破りして他国のこんな所まで来ていいの?」

「御身の為です」

「寝言言ってる?私は父上様に殺されそうになったのよ。要らぬと言われて、私が父上様より魔力が上でなかったら、受け身が取れずに死んでいたわ。それだけの力と力がぶつかって、大事な友達まで巻き込んでしまった」

 え、それ妖精の仕業じゃ。きっとグリットに睨まれる。ハイハイ、黙っとけってことね。

「共に災難に遭った二人には、こちらでもそれ相応の処遇をさせて頂きます。心に納め難いことではありましょうが、陛下も行方不明の今、帝室が一丸となってことに当たりませんと」

 胡乱な目をヨーゼフさんに向けた。

「皇帝代理は決まったの?」

「皇后陛下が最適かと」

「では義母上様に伝えて、父上様は私が連れて帰りますと」

「皇女が?どうやって?」

 目をヴァルターさんに向ける。

「叔父様だけではないわ。私の周りに集う人々が力を貸してくれるから出来ることなの。私、意外と人気者なのよ」

「勝手なことを!救出には精鋭を選んで行くべきだ」

 不服そうなヘルダーリンにヨーゼフさんも賛成する。

「その通りです。皇女殿下お止め下さい。万一のことあらば、我らは陛下だけでなく皇女まで失うことに耐えられませぬ。…それに何より皇后が貴女様を必要としているのです」

「義母上様が?」

「そうですハリナ皇后陛下は皇帝不在の間の政務を、貴女に補佐して頂きたい、でなければ受けぬ、と仰られておられるのです」

 確認する様にヘルダーリンに目を向けると、彼も頷いた。

「エドゥアルト皇子では気に入らぬと仰せでね」

「そんな風には仰っておらぬ」

 ヨーゼフさんは厳しい目を向けた。父ちゃんが退けられて腐ってるんだね。

「ご存知の通り皇后陛下は引っ込み思案な繊細な方です。皇女殿下はご兄弟の中でも思い遣り深く、かつ親しみ易く皇后陛下に接せられた。貴女が帝都を出られて、真に悲しんでおられたのは皇后陛下でした」

「確かにあの方だけでしょうね」

「どうか、我らと共に帝都にお戻り、皇后陛下をお支え下さい。伏してお願い申し上げます」

 そうして深々と頭を下げられちゃあ、流石のグリットもすげなく拒否出来ない。

 ヴァルターさんが進み出た。

「どうかマルガレーテ殿下、帝都にお戻り下さい。陛下は必ず我らで救出致します」

 叔父と姪でも人目があれば、身分に応じた言葉遣いしなきゃいけないんだ。

「同行されずとも我らは殿下の御為に参るのです。変わりはありません」

「叔父様」

「ブライトクロイツ公爵にも、皇后陛下を補佐して頂けるよう要請しております」

「お祖父様に?」

「公爵には包み隠さず、鏡にて話させて頂きました」

 鏡の魔法なら遠距離でも対面して話せるもんね。

「グリッ…マルガレーテ殿下。皇后陛下をお助け下さい。御父上は必ず私達が連れて帰りますから、ね」

「ネーナ…でも…」

 具合が悪くても平気を装うから、あんなことの後だもん、治ったって言われてもグリットの身体が心配だったんだ。具合が悪くても絶対に無理して同行するだろうって、何言っても聞かないだろうって解かってたから黙ってたけど、皇后陛下がグリットをご指名なら残ってもらえるよね。

「わたくしも同意見ですわ。どうぞ皇后陛下についていらして、後はわたくし達にお任せあれ」

 にぃっこりとガブリエラが鮮やかに笑うとウンケルさんも「ほう」ってなってた。女子力の差を感じる。苦苦苦。

 先生も何か一言、って振り返るといなくて、キョロキョロ探したけど姿は見えなかった。

 常に凛としたグリットが、くるくると表情を変えて百面相してた。色々考えた末に、

「ありがとう。嘘偽り無くみんな信じられる人達だもの、お願いね」

「任せて、マルガレーテ(トルッペ)は一騎当千なんだからね」

 なるべく明るく請け負った。後は何とかなるなる。

「安んじてお任せあれ」

 ガブリエラも胸を張った。

「ガブリエラ、君まで。ウンケル殿、彼らの勝手を許してはなりませんぞ」

「それも尤もだ。陛下が何処の異界に居られるか、お解りでありましたら私共にもお教え下さい。こちらで救出部隊を編成致します故。誰が突き止めたのです?」

 誰も答えなかった。だってまだ知らないもん。

「マルガレーテ殿下、ヴァルター卿これは一親子の話ではない。陛下は帝国を背負っておられるのだ」

 沈黙は続いた。

「答えるんだマルガレーテ!帝国の為にも陛下には戻ってもらわねばならぬ」

 ヘルダーリンが迫った。父ちゃんが皇后に拒絶されたから、話が変わったってことだろうけど、でも陛下が万が一亡くなってたら、帝国を継ぐのはエドゥアルト皇子しかいないことは変わらないんじゃないの?

「ま、ライムントったら強気ね、いいの?そんな風に迫って」

 グッとヘルダーリンが詰まった。どんな弱味を握ってる訳さ?

「皇后陛下の御前でお話します。その上で宮廷からも救出隊を編成しましょう」

 ニコッとグリットは笑顔を向けた。

「皇女の代理とあらば、貴女方に名前が必要よね。マルガレーテ隊では趣がないわ。「青い薔薇の朋友団」は如何?」

 えっと、文句は付けたくないけど、気恥ずかしいよ…。

「よろしいですわね。薔薇はわたくし達に相応しい花ですものね」

 ええ、いいんですか⁉まあ、あなたには似合いますけどね!

 振り返るとヴァルターさんは悟り開いた顔してた。



 グリットと別れて装備を整える為に私達はガストハオスに戻った。ガブリエラの転移魔法の練習の為に、国境以外はガブリエラが飛ばしてくれた。私の場合は手を繋いでおいてもらわないといけないから、こういう時は不便だよね、魔法が効かないって。

 ガストハオスでは苛々しながらスヴェンが待ってて、私達の無事を確かめると倒れそうな程ホッとしてた。ハーロルトがよろめくスヴェンを支えてた。ハッペさんはヴァルターさんと抱き合って無事を喜んだ。抱き合いはしなかったけど、パッシェンさんはガブリエラの無事な姿を見て眼に涙を溜めてた。

 私といえば、物も言わずにフー師に抱きしめられて吃驚した。心配おかけしました。

 先生は野菜の籠を置いてまた何処かに姿を消した。後で部屋の一つで寝てたって判った。

 一頻り無事を確かめ合ったらスヴェンが静かに泣いてた。安堵の気持ちが大きかったのかと思ったけど違った。

「あんな人は父親じゃない」

 その一言がこの場に重く圧し掛かって、再会を祝う雰囲気を一変させた。

「僕はあの人を許さない」

「それはみんな同じだよ」

 背中を擦る。

「異界に落ちたと聞いた時はざまあ見ろ、とんでもなく苦しめばいい、って心の中で喝采を上げたんだ」

 その人を助けに行きます、とは言い難いなぁ。

「グリットはここに寄った?」

 聞いてないのかな?

「落ち着いて話す時間はなかったんだ。大急ぎで身の周りの物をまとめて、着替えもさせてもらえず宮廷の人達に連れて行かれたからね。あ、ディースターヴェーク女史は連れてったよ。皇后陛下がグリットを必要としていてくれるなんて、こんなに嬉しいことはないよ」

 その程度なんだ。ハッペさんも頷いた。

「あのねスヴェン」

 超切出し難い。

「先ず汚れを落としましょうネーナ。一休みして話はそれからよ」

 流石にこのまま大反対するであろうとスヴェンと話すのは辛かったから、ガブリエラの助け舟は有難かった。

「そうだね」

「確かに君達は酷い有様だよ」

 笑うなぁ、って騒ぐとこだけど今回ばかりは許してつかわす。

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