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【完結】Harmonia ー或る孤独な少女と侯国のヴァイオリン弾きー  作者: 原案・絵:若野未森、文:雪葉あをい
第4章
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op.16 春風吹き渡る時(17)

 騒動の後、エリーとは少しだけ話をした。


『本当はもう少し早く着いてたんですよ』


 いい所で登場したでしょう、と得意気にエリーが言う。


『ソルヴェーグさんが対応して下さって、無事に話が終わったら声をかけようという事で別室で待たせて頂いてたんです。でもどうもきな臭い雰囲気になったのでソルヴェーグさんに促されて踏み込みました』


 随分といいタイミングだったがそう言うことか、と納得した。

 そうしてエリーはリチェルが正式にハーゼンクレーヴァーに迎え入れられた顛末を、かいつまんでヴィオに話してくれた。


『そうそう。皆様の前でお話しした姉様の経歴ですが、まだ調整が全然終わってないんですよね。今から早急に頑張りますので、内密にしていただければ』


 そんな食えない台詞を最後に残して、エリーはつむじ風みたいにさっさと帰って行った。


 また今回の騒動の大元であるマイヤーは、年内には侯爵家から出て行く事になった。

 本当は如何様にでも処分は下せたのだが、ルートヴィヒが『ハンスを招いたのは俺だから、俺の責任でもある』と最後までマイヤーを庇い、ヴィオがルートヴィヒの想いを汲んだ形だ。

 

 散々煮え湯を飲まされてきたフォルトナーは不満そうだったが、ヴィオが決定した事に異を唱えることはなく、今は粛々とマイヤーの引き継ぎをソルヴェーグと共に行っている。


 慌ただしくはあったが無事騒動は収まり、屋敷はようやく元の平穏を取り戻しつつある。


 ただ──。


 一つだけ、ヴィオにはどうしても煮えきらないことがあった。







 日も沈む頃、ヴィオは一人で客間を訪れた。

 もうすぐ日が沈む。客人を訪ねるにはいささか無作法だと分かっていたのだが、目的の人物が一人になる時間帯に訪ねるなら夕方しかなかったのだ。

 

 扉を叩くと、しばらくの後、不機嫌を隠そうともしないヒョロリとした男が顔を出した。


「これはこれは、次期後継の坊っちゃまが私なんぞに何の御用ですか?」


 最後までこの慇懃無礼な態度を改める気はないらしい。

 ため息の一つもつきたくなったが、代わりに不躾な訪問を詫びる。ルートヴィヒが許した手前ヴィオにはこの男を責める気はない。


「……最後に一つだけ、貴方に聞きたいことがあったんだ」


 無駄話をする気はない。それは目の前にいるマイヤーとて同様だろう。だから端的にそれだけを口にした。


 出てきたマイヤーは胡散臭そうにヴィオを見ていたが、フンと鼻を鳴らしただけで扉を閉めようとはしなかった。それを了承ととらえて、ヴィオはずっと考えていた疑問を口にした。


「貴方はどうやって、叔父上に家督を継ぐ気にさせるつもりだったんだ?」


 マイヤーが目を丸くする。


 そう。マイヤーには最後に使える隠し玉があったはずだ。ルートヴィヒを動かすための最後のピース。だがヴィオ達は最後までそれを解き明かせなかったし、マイヤーは最後までそれを使おうとはしなかった。


「…………」


 長い沈黙の後、マイヤーは『まぁ、言っても良いんですがね』とため息と共に呟く。


「でもやっぱり秘密にしておきます」

「は?」

「一応上司の名誉に関わることですから。まぁ心配しなくても、この先明らかになることはないでしょうし、アンタ方の邪魔になることもないでしょうよ」


 お話はそれで終わりですか? と言って、マイヤーは形だけ丁寧に礼をすると扉を閉めた。廊下に取り残されたまま、ヴィオはポカンとする。


(叔父上の、名誉に関わる?)


 謎は余計に深まるばかりだったが、流石にこれ以上聞くのは野暮だということだけは分かって、結局ヴィオは大人しく引き下がった。

 

 マイヤーは明朝、ルートヴィヒに見送られて静かに屋敷を去っていった。



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