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第96話 証明する機会

「ふん、後衛不遇職のゴミカスクズザコバッファーごときになにができる。たまたま所属していたパーティが、運よくSランクになっただけだろうに」


「星の数ほどあるパーティの中でSランクパーティはたった4つしかないのよ? その内2つがケースケ絡みなのに、それを運なんて言葉で簡単に片づけて欲しくないわね」


「言葉では何とでも着飾れるものだな」


「そうなの。ケースケを褒めるための言葉が多すぎて、選ぶのだけでも大変なくらいなのよね」


「ならば運ではなかったと証明できるのかの?」


「消極的事実を証明しろというのは悪魔の証明よ。議論以前の問題ね、論理破綻してるわ」


「今回のお見合い相手は本当に素晴らしい相手なのだぞ? とある国の王族に連なる家系で――」


「素晴らしい相手かどうかはアタシが決めることだし、ケースケの素晴らしさが分からないお父さんの目はイマイチ信用できないわ」


「ぐぬぅっ、まったくお前はああ言えばこう、こう言えばああと立て板に水のごとく言いよってからに……!」


「口達者はお父さん譲りと昔から評判ですから」


 うわぉ、すごい。

 いくら親子とはいえ冒険者ギルド本部のギルドマスターと、丁々発止でやりあってみせるシャーリーの凛々しい姿に、俺は思わず見惚れてしまっていた。


 ですがお父さん、あなたは南部諸国連合の冒険者ギルド全てを統括する本部のギルドマスターという立場ですよね?

 でしたらゴミカスクズザコバッファーとか、どこぞのサクラみたいなことを言うのはやめてくださいね?


 バッファーは確かにぶっちぎりの不遇職で成り手もほとんどいませんが、一応冒険者ギルドの正式な構成員ですからね?


「ならばこうしよう、それを証明する機会を特別に与えようではないか」


「証明する機会を? どうやってよ?」


「こんなこともあろうかと、いくつかクエストを用意しておいたのだ。どれもパーティ全員で力を合わせなければクリアできない高難度のクエストをな。これをパーティ『アルケイン』がクリアできるのであれば、その時はワシも彼の実力を認めて2人の交際を認めよう」


 そう言って、お父さんは机の上に置いてあった資料を手に取った。


「期限は?」


「ワシはとても心が広いのでな、お前が諦めるのを期限としようじゃないか」


「約束よ? 提示されたクエストを攻略すればアタシとケースケの交際を認めてよね?」


「うむ、冒険の神ミトラに誓おう」


「オッケー。それでクエストっていうのは?」


 シャーリーがひったくるように資料を奪いとった。


「……? ちょっと待つのだ我が娘よ。なぜお前が資料を見るのだ? これはパーティ『アルケイン』が挑戦するクエストであって、お前といえども勝手に見る権利は――」


「それなら問題ないわよ。だってアタシもパーティ『アルケイン』の一員だもの。当然見る権利はあるから」


「……は? なんだと?」


 お父さんがキツネにつままれたような顔をした。


「あれ、言ってなかったっけ?」


「そんなことは一言も聞いとらんぞ!」


「そう? 聞いてなかったんじゃない? まぁもし仮に言ってなくても今言ったからいいわよね、お父さんは心が広いんだし。そういうことだからアタシが見ても何の問題もないから」


「待て待て待つのだ我が娘よ、今回用意したクエストはどれも長年攻略されていなかったり、とても危険だったり、はっきり言って攻略する気が失せるようなものばかりだ。そんな大変なクエストに大切な娘を行かせるなどと――」


「ちょっとお父さん! そんな危険なクエストにケースケたちを行かせようとしていたわけ?」


「む、それはその……」


「もしかしなくても無理難題を吹っ掛けて、最初からケースケのことを認めないつもりだったわね?」


「……」


「やめてよね、そういうセコいことするの」


「ワシはお前のことを心配してだな……」


「アタシもいい年なんだし、お父さんもいい加減に子離れする時期よ」


「男親にとって、娘というのはいつまで経っても可愛いものであってだな……」


「はいはいありがと、気持ちはとても嬉しいわ。でも約束は約束だからね?」


「ぐぬ……」


「このクエストを全部クリアしたらオッケーっと。さ、話も済んだし、ケースケ、さっさと帰って準備をしましょうか」


「待て我が娘よ、この中には本当に危ないクエストも入っていて――」


「ここからはアタシたちパーティ『アルケイン』の問題よ。お父さんはクエストを依頼したギルドマスターで、つまり部外者なんだから口出ししないでよね」


 シャーリーがピシャリと言うと、お父さんは完全に沈黙してしまった。


 とまぁそんなこんながあって。

 俺たちパーティ『アルケイン』は、いくつかの高難度クエストに挑むことになった。



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