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第48話 限りなく一握りの、選ばれた冒険者

「あれ? ケースケ様はこの後なにか用事でもおありなんですか? 町でお買い物かなにかなら、終わるまで待つかお付き合いしますよ?」


 別れを切り出した俺の言葉を、アイセルはどうもクエストが終わったので帰りは別行動しよう、みたいな意味にとらえたみたいだった。


 出口のすぐ手前で、いつものように愛らしい笑顔で言ってくるアイセルに、


「そういう意味じゃないんだ。つまり俺たちのパーティ契約を解消しようってことだ」


 俺は今度こそ、わずかの誤解の余地すら与えないように言葉を伝えた。


「え……? パーティ契約を解消って、あの、わ、わたし何かケースケ様の気に障るようなことをしましたか!?」


 そして俺のその言葉を聞いた途端に、アイセルの顔が笑顔から一転、捨てられた子犬みたいになった。


 驚きと不安に揺れる瞳は、さっきまでAランク魔獣を相手に無双していた凛々しい魔法戦士の顔とは打って変わって儚げで弱々しい。


「いいや俺にとってアイセルは100点満点で120点さ。さっきも言ったけどアイセルは俺の想像していた以上に最高の、最高過ぎるパーティメンバーだよ」


「だったらどうして――」


「でもそれは言い換えればアイセルは、俺が金儲けのために縛っていていいような冒険者じゃないってことでもあるんだ」


「ケースケ様に縛られてるなんて、わたしは一度も思ったことは──」


 アイセルの裏表のない言葉を、だけど俺は優しくさえぎった。


「アイセルはもっと上を目指せる、間違いなく超一流になる才能を持った冒険者だ。ここからの俺はそんなアイセルの負担になっていく。だからここでお別れだ」


 『このこと』を伝えないとすれば、それはアイセルへの重大な裏切りに他ならなかった。


 そして俺はパーティを結成した時にアイセルと約束したんだ。

 アイセルが俺を裏切らない限り、俺も何があっても絶対にアイセルを裏切らないって。


 そう約束したから。


 自分の金儲けのためにアイセルの将来をつぶす――まではいかなくとも。

 そう遠くない内に掴み取るであろう輝かしい未来にたどり着くのを遅らせてしまうのは、アイセルに対しての最悪の裏切りに他ならなった。


「世の中は平等じゃないんだ。バッファーなんてどうしようもない不遇職があるくらいだからな」


「……」


「でもそんな不平等な世の中でもさ、時間だけは誰にでも平等なんだよ。誰もが平等に時間を浪費し、失ってしまうんだ。足手まといのバッファーの俺も、溢れんばかりの才能に輝くアイセルも、同じように時間を消費してしまうんだ」


「…………」


「アイセルの持つ貴重な時間を、俺と一緒にいることで無駄に使っていいなんてことが、そんなことが許されるわけがないんだ」


「わたしは、そんな風には――」


 なにより俺は、アイセルを裏切る自分を絶対に許容できなかった。

 人の好意を利用するような自分を、他人を騙して平気な顔をできる薄汚い自分になることを、俺は絶対に許せないから――。


 だから伝えるんだ。


 アイセルと一緒にいることの居心地の良さも。

 アイセルに信頼される嬉しさも。

 アイセルから向けられる大きな好意も。


 なにもかもが巡り巡って、アイセル自身のためにならないから。


 だから俺は伝えるんだ。


「これは少し願望も入ってるんだけどさ。アイセルはいつか勇者って呼ばれるようになると俺は思ってるんだよ」


「わたしが勇者に、ですか?」


「ああ。アイセルは限りなく一握りの、選ばれた冒険者だよ」


「えへへ、ケースケ様にそう言われると、なんだかそんな気がしてくるから不思議です。なんでもできちゃいそうです」


「でもさ、俺は違うんだ」


「え――?」


「俺は偶然、勇者パーティにいただけの金魚のフン、ただのおこぼれだ」


「そんなことはありません! ケースケ様はすごい冒険者です! ここまでわたしを導いてくれたのはケースケ様じゃないですか!」


「いいや、俺が足手まといなのは俺が一番わかってることだよ。勇者パーティにいた頃も、最後のほうの俺はパーティの足を引っ張るだけの存在でしかなかったんだ」


 バッファーはほとんど全ての職業が持つ『体力強化』や『疲労軽減』のスキルすら習得しない。


 戦闘でまったく戦えない以前に、たとえば目的地へ移動するというだけでも体力で大きく劣る俺にあわせてスピードを落とさないといけないんだから、足を引っ張るなんてレベルじゃなかったよな。


 もちろん劣っている能力を補うために色んなことをやってきた。


 ギルドの書庫で片っ端から本を読んでは魔獣や職業、武器や道具、果ては社会システムや古い神話についてまで様々な知識を深めたり。


 街に繰り出していろんな話を聞いて回って、情報収集に明け暮れたり。


 サポート面で必死に努力をしてきたけれど、だけど勇者パーティという最高の人材がそろう中にあっては、結局どれもこれも大した価値を持ちはしなかった。


 俺はどうしようもなく要らない存在だった。


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