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第207話 ミトラ神vsシャーリーのお父さん

「くっ、無礼者めが! さっさとその手を離さんか!」


 のど元を掴まれて持ち上げられたシャーリーのお父さんが、抗議の声を上げる。


「なに、我の力を見せてやろうと思うてな。ほれ、お主の自慢のパワーで我の手を振りほどいて、そこから逃げ出してみよ。できるものならばな?」


「きさまぁ……! 下手に出ていれば、あまりこのワシを舐めるなよ! スキル『絶・体力強化』!」


 スキルの発動とともに、シャーリーのお父さんの筋肉がムキムキに膨れ上がった!

 さらに上半身の衣服が、膨れ上がった筋肉で引き延ばされてビリビリと破れ飛んでいく!


「わわっ、急になに!?」

 驚きの声を上げたサクラに、


「スキル『絶・体力強化』はパワーファイターしか使えない、己の筋力を著しく増大させるレアスキルよ。そのパワーは、バーサーカーのフルパワーに匹敵するとも言われているわ」


 シャーリーが丁寧な解説をしてあげる。


「むむっ! 私のほうが強いもん! バーサーカーのほうが強いもん!」

「ふふっ、そうね。現役バリバリのサクラの方がきっと強いわね」

「当然だし!」


 などと2人が微笑ましいやり取りをしている間にも、シャーリーのお父さんのムキムキの両手がミトラの細い腕を掴み、首元から外そうと試みる。


 が、しかし。


「どうした?」

「ぬぐぐぐぐ……!!!!」


「ほれ、自慢のパワーで早く振りほどいてみよ?」

「くっ! この! 調子に乗りおって……! こんのぉ……!!」


 何をどうやっても、首を掴むミトラの手は離れはしなかった。


 額に怒りの青筋を浮き立てながら、シャーリーのお父さんは、のどを掴むミトラ神の手を振りほどこうとする。

 なりふり構わず、ミトラ神の顔に足裏を当てて踏ん張ったりもしている。


 しかし何をされてもミトラ神はまったく微動だにせず、平然な顔をしたままでシャーリーのお父さんを持ち上げ続けていた。


 ほっそりとした女性が、スキルも何も使わずに、筋肉ムキムキのおっさんの巨体を軽々と持ち上げる姿は――それが神という超越存在だからと分かっていても――なんとも奇妙な光景に見えてしまう。


「やれやれ、威勢がいいのは口だけかのぅ?」

「くふっ、ぐぅっ! 馬鹿な!? パワーファイターのワシの怪力が、全く通用しないだと!? なぜだ!?」


「なぜ? それは汝らのその力が、元々は神たる我が力の一部を分け与えたものであるからだ」

「……!」


「子が親に勝てぬは道理であろう。そしてそれは同時に、我が神であることの証左でもある」


「いやあの、さも当然のことのように自信満々に言っているけど、たかがパワー負けしただけじゃ、さすがに神様だとは信じてもらえないと思うんだが……」


 そんな簡単に信じてくれたら、説得するのも苦労しないよ――


「まさか、本当に冒険の神ミトラだというのか?」


「…………は?」


「くっ、にわかには信じられん――が、しかし。ことパワーに関してはギルド史上最強と言われたパワーファイターのワシの怪力ですら、びくともしない以上、もはや信じるしかあるまい……!」


「うむ、理解できたようで何よりじゃ」


「それで信じちゃうのかよ!? 俺があれだけ詳細な報告書を作っても信じてくれなかったくせに! 俺は今、猛烈な理不尽を感じているぞ!!」


 パワーで負けたから信じるしかない……あまりに酷すぎる脳筋理論だった。

 酷すぎて、思わず全力でツッコんでしまったぞ。


「この攻防には、パワーファイターにだけしか分からない特別な何かが、もしかしたらあるのかもしれませんね……」

 アイセルが妙にしんみりとした口調でつぶやく。


「あはは、馬鹿がいるし!」

「サクラ、事実でもそこは黙って心に秘めておこうな。ホントにお前は思ったことを何でも口に出すんだから」

「だってマジあり得ないっしょ。ウケる!」


「おい! 聞こえているぞケースケ=ホンダム! なにがウケるだ、後で覚えておけ!」

「いえあの、俺はむしろ注意した方なんですが」


 なんだかまた、無駄にシャーリーのお父さんに恨まれてしまったぞ……。


 だがまぁこれで一応。

 ミトラ神が実在したことは、信じてもらうことができそうだ。


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