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第126話 『元気印のアイセルまんじゅう』

 さらにしばらく馬車を進ませていくと、ついにアイセルの生まれた村が見えてきた――んだけれど。


「!? !? !!??」


 アイセルが目を大きく見開いて、身を大きく乗り出しながら信じられないって顔で村を凝視していた。


 正直言うと、俺も頭の中がハテナマークでいっぱいだったりする。


 というのもだ。


「あ、『アイセル=バーガー生誕の地』だって。大きな看板だね、アイセルさん。やっぱり地元でもすごい有名人なんだね!」


 サクラが指さした入り口には、


「いやあの……えっと……これはいったい……」


 でかでかと『アイセル=バーガー生誕の地』と書かれた看板のかかった門があり。

 なによりその『辺鄙(へんぴ)な村』と聞いていたその場所は、そこそこの大きさの『町』だったからだ。


 『村』ではなく『町』である。

 規模的にはそう呼んで間違いないはずだ。


 少なくともアイセルから聞かされていた寂れた辺境の村とは、全然まったく違っていて、かなり賑わいのある町だった。


 俺たちは馬車のまま門をくぐって中へと入っていく。

 アイセルはまるで知らない土地にでも来たみたいに、ずっとキョロキョロと周囲を見渡していた。


「まずは馬車を止められるところを見つけないとな。村の中は何もないからどこでも止められるってアイセルの話だったから、この状況はちょっと想定外だな」


「ええと、ええと……すみません」


 俺は人に当たらないように気をつけながら、低速で馬車を進ませていく。

 見ていると、町の中は居住施設ではなく宿泊施設が多いことに気が付いた。


「なんとなく観光地みたいよね」

 シャーリーもそのことに気付いたのか、そんな感想をつぶやく。


 さらには、


「ねぇねぇケイスケ、あれ見てあれ。『元気印のアイセルまんじゅう』だって。ちょっと買ってこうよ」


 サクラの指さした方向を見たアイセルが、


「!!??」


 またもやビックリした顔を見せた。

 そこにはまんじゅうが大量に積まれていて、しかも飛ぶように売れていたからだ。


 サクラは低速走行中の馬車からぴょーんと軽やかに飛び降りると、ささっと店先に行ってまんじゅうの10個入りを買うとぴゅーっと戻ってきた。

 行動の全てに無駄がない、一流冒険者らしい一瞬の早業だった。


「見て見てケイスケ。ほら、表面にアイセルさんの顔が焼き印されてる」


「どれどれ、へぇ結構似てるな。しかもすごく細かいな」

 サクラに見せてもらったまんじゅうの表面には、アイセルの顔が焼き印されていた。


「この精緻な仕上がり……元になる焼きゴテを彫った彫金師は、きっとエルフの凄腕職人ね」

 またまた感心したようにつぶやくシャーリー。


「はふはふ……うん、味も美味しい!」

「おいサクラ、お嬢さまがあんまり大口開けてかぶりつくなよな。百年の恋も一時に冷めるっていうことわざもあるくらいだぞ?」


「えっ、ってことはケイスケは私に恋してるの? やだもー!」

「なんでそうなるんだよ、つーかそこまで嫌そうにすんなよな……」


「じゃあいいじゃん! はむっ、むぐむぐ……うん、おいし!」

「まぁいいけどさ……あ、確かに美味しいな」


 2つ目のアイセルまんじゅうに幸せそうにかぶりつくサクラを見て、俺もアイセルまんじゅうに手を伸ばした。


「でしょ!?」

「ちょうど小腹が減ってたのもあって、うん、俺ももう一個もらうな」


 1つ目をパクリと食べ終わった俺は、さらにもう一個のアイセルまんじゅうに手を伸ばした。

 さらには、


「あんこの甘味が絶妙でとても美味しいわよね。わずかに感じる木の実みたいなフレーバーはなんだろ、くるみかな?」

 甘いものなら任せろなシャーリーが、中のあんこを詳細に分析してみせる。


「な、なぜわたしのまんじゅうが大量に売られて……」


 ただアイセルだけは困惑しきりで、自分の顔が焼き印されたまんじゅうを前に、それどころではない様子だった。


 俺たちはさらに馬車を進ませていき、そしてついにアイセルの実家にたどり着いた――のだが。


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