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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この街の悪魔

作者: ジョア

初投稿になります。拙い文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

この街には悪魔が住んでいるらしい。もっとも百年以上前には街の住人が協力して封印したらしいが。婆さんはこの話を延々と話してくる。いい加減飽きてきた。

「もう帰るわ」

そう告げて、俺はビニール袋に手をかけた。

「ウチで夕飯たべてかない?」

と提案してくる婆さんを無視して玄関の扉をピシャリと勢いよくあけた。怖い。けど帰らないといけない。俺の家には悪魔が住んでいるのだ。

「た、ただいま…」

「何時だと思ってんだ?寄り道でもしてんじゃねえよな?まあいいわ。飯はそこにおいてあるから。」

そう言って母は風呂に入った。正直ホッとした。帰った途端に殴られることなんてざらにあるからだ。そう俺にとっての悪魔は母親。生まれてこの方母に反抗などしたことがない。母親は恐怖を体現した存在である。

「おい!」

風呂の方から大きな声がしてビクッとした。

「どうしたの母さん…」

「ボディソープねえじゃねえかよ!」

「ごめん…今日買ってきたんだよ」

「はよもってこい!」

慌ててビニール袋から買ってきたボディソープを取り出した。ボディソープのボトルはなかなかに重い。

「早くしろよ!!たく使えねえなほんとに」


「……………」

「………………」

「…………………ねえ」

「母さんはさ俺の事好き?」

「あ?んなことよりはや…」

「聞いてんだよ答えろよ!!!」

「嫌いだよ。お前のせいで私は…何もかもがさ…」

すすり泣くような声が風呂から聞こえる。俺はボディソープをほぼ無意識で握りしめていた。今だ。今しかないんだ。一生母親にこき使われる人生。そんなの、そんなのごめんだ。ボディソープがメキメキと音をたてる。それと同時に駆け出す。

「うぁぁぁんぉおおおおあおおおええ」

今にも嗚咽しそうな声を出しながら夢中で風呂に入っていた母をボディソープで殴った殴った殴った。過去に受けたひどい仕打ちを思い出してそれを原動力にがむしゃらに殴った。

「なにを…やめて…、、、」

それが母の最後の言葉になった。事切れてしまった。え、これ俺がやったのか?え、?え?ん?え?

「え?」

逃げ出した。この家からこの街からこの国からこの地球から逃げ出したかった。それか母を生きかえらせたかった。でもそんなこと無理なんだ。わかってるんだ。いつの間にか俺は車道に倒れ込んでいた。ああ、死ねばいいのか。そうすれば罪もバツも何もなくなる。サヨナラ。

「何してんの!」

俺は抱え上げられた。とりあえず歩道に投げ飛ばされた。

「ゆみ……痛いよ…」

「バカ!何してんのよ…」

俺が泣いてるのを見てゆみも泣き始めた。ここですべてを打ち明けるか俺は悩んだ。悩んでいたけど、その間にも涙がとまらない。涙に理由をつけないとゆみは納得しないだろう。

「実はさ…母さんのお金くすねたらもう絶縁だって家追い出されてな…バカだろ?俺」

なんか自然に笑ってた。

「うんほんとにそんぐらいで死のうとするなんてバカだよ…」

それ以上ゆみは何も追及してこなかった。嘘だとバレているのだろうか。

「じゃあ帰るわ」

「帰る場所なんてないのに何言ってんのよ。ほんとおかしいわ。うち、来る?」

「いくいく!」

「そんな横柄な態度じゃ泊めてあげないからね?」

「泊めてくださいゆみ様」

「よろしい」

そんなこんなでゆみの家に泊めてもらうことになった。

ゆみのお母さんは最初困ったような顔を浮かべていたが、すぐ家にあげてくれた。ゆみのお母さんには数回しか会ったことがないがとても優しい人だった。

「今日のご飯はカレーライスよ〜」

そう言って出してくれたゆみのお母さんのカレーライスはレトルトではなかった。とても優しい匂いがした。

「いただきます!」

ゆみとゆみのお母さんと一緒に声を合わせて言った。九時頃の夕飯だったからか、すごい勢いでカレーをかきこんだ。うまい。夢中になって食べてしまう。こんなに美味しいカレーは初めてだ。

「おかわりしてもいいですか?」

と言ったときゆみのお母さんは席をたっていた。

「あれお母さんは?」

ゆみが答える。

「なんか電話しに行ったよ。ていうかあんた自分でカレーぐらいよそってきなさいよ」

嫌な予感がする。電話?電話って誰にだ?もしかして警察?え?バレてる?そんな考えが脳内を駆け巡る。良くない考えが山のように浮かんでくる。おれが母さんを殺したのがバレたのか?でも俺はわるくないよな?虐待みたいなもん受けてたもんな?正当防衛みたいなものだよな?悪くないはずだ。そうだ。捕まるはずない。必死に自分を正当化する。けれども怖い。誰に電話しているのかを確かめたい。その欲に抗えず、俺も席を立とうとする。

「どうしたの?トイレ?」

とゆみが聞いてくる。

「そうトイレトイレ。」

と適当に返す。少し忍び足のようになりながら廊下を歩いてゆみのお母さんの声が聞こえる位置にまで行った。聞き耳を立てる。

「えぇ。そうです。夕くんがうちに来てるんです。夕くん、佐々田さんに家を追い出されたみたいで…。はい。そうですね。来てもらえますか?ありがとうございます。気をつけます」

どうしよう。どうしよう。もう無理だ警察が来るんだ。捕まる捕まる捕まる。怖い怖い怖い。いやだよ。助けてよ。俺はその場にしゃがみこんでしまった。

「大丈夫?」

と優しい声がする。ふと横を見るとゆみがそばにいた。俺の背中をさすってくれていた。大丈夫と返事をしようとしたその時、ゆみのお母さんが怯えた表情で俺を見ていた。

「ゆ、夕くん、どうしたの?もしかして…」

「いやトイレにいこうと思って…」

「トイレなら玄関の方よ」 

「あ、あざす」

そう言いながら俺は急いでトイレに駆け込んだ。

「そんな我慢してたの〜」

と茶化すゆみの声が聞こえたが、それに反応してる場合ではなかった。トイレの中で俺は考える。トイレの窓から逃げようか。でも逃げたあとはどうする?あてもなにもないぞ。そうだ俺の隣の家の婆さんなら分かってくれるんじゃないか?俺が悪くないってことをわかってくれるだろう。

「ピンポーン。ピンポーン」

心臓の鼓動が高鳴る。周りに聞こえるぐらいの心臓の音を聞きながら、俺の思考はフリーズしてしまった。

「トメですがー」

「トメさん!早く助けてください!」

え?トメってあの婆さんだろ?なんで婆さんが来てるんだ?

「夕はどこじゃ?」

「トイレに入っているはずです」

婆さんに見つかったらやばいのか?これは。警察が来てるわけでもないし、捕まることはないだろ。ていうか俺が母さんを殺したことバレてないだろ。そうだよよく考えろよ。きっと大丈夫だ。しかも婆さんならわかってくれるだろ。高鳴る心臓の音を無視して俺はトイレの扉を開ける。

「おっ。婆さんなんでここに?」

「夕、やってないんだよな?」

ギロリと睨みつけるような婆さんの目に、俺はうろたえた。というかビビって漏らした。

「……黒か。ついにやってしまったか夕」

「えっ?、ななんのこと?」

とぼけて見せる。心臓はバクバクしっぱなしだ。

「佐々田さん、殺ったんだろ?」

恐ろしく低い声で俺に詰め寄る。婆さんは知っていたのか。

「そんな冗談やめろよ、」

俺はそう茶化すが婆さんは少しも笑わない。というかずっと俺を睨んでいる。

「そうよ。夕がそんなことするわけないでしょ」

とゆみが話に入ってきた。口の周りに少しカレーがついているのが不覚にもかわいかった。なんとか言い逃れて、ここからさろう。そうするしかない。

「夕はいつも優しいし、なにより夕のお母さんのこと大切にしてたよ」

とゆみは頬を少し赤らめながら言ってくれる。正直泣きそうになった。ここまで俺のこと信頼してくれていたんだと。婆さんは少し言いにくそうにしながら、やっと口を開いた。

「夕はな…悪魔なんじゃ」


「ま、またそれ!?街のみんなで夕のこと悪魔呼ばわりして!なんでみんなして夕をいじめるの……」

…………

「母さんだろ悪魔は」

ぼそりとつぶやく。もう俺は止められなかった。

「母さんだよ悪魔は!いつもいつも、家に入り浸って、俺をいじめて、冷水のシャワーかけられたり、サンドバックみたいに俺を殴ってさ。俺のこと人として見てくれなかったんだよあいつは。だからさ、仕方ないじゃん…やり返して何が悪いんだよ…俺の母さんがゆみのお母さんだったらこんなことしなかったよ…」


「いや、したよ」

俺は婆さんの胸ぐらをとっさに掴んだ。

「婆さんも俺を理解してくれないんだな」

「お前さんは悪魔だからな。悪魔は躊躇なく人を殺す。そういうものだ。お前さんの母さんはよく育てたよ。悪魔の殺意の対象が他に向かないように敢えて虐待をしてたんだよ…」

「嘘っ…だよね?ねえ?」

とゆみの声がするが、放心状態の俺は何も返せなかった。俺が悪魔?悪魔が人を躊躇なく殺す?俺の母さんの虐待は正当化されるのか?あいつは、たしかに俺に悪意を持っていた。正当化されるはずがない。俺は、悪くないよな?

いつの間にか婆さんの後ろに一人の恰幅の良い警官が立っていた。

「たった今部下から佐々田さんの遺体が発見されたと。第十三条悪魔対策法より始末をおねがいします」

「はいよ」

と婆さんはおもむろに懐から変わったナイフを取り出した。ゆみが大声で言う。

「夕がお母さんを殺してたとしてもさ夕を殺す必要ないじゃん!虐待されてたんだし、逮捕じゃないの!ねえ!」

その声を聞くこともなく婆さんは俺めがけてナイフを突き立てる。


なんで…なんでさ。俺ばっかり…母さんは悪くないの?俺だけ?俺だけが悪いの?

「そんなはずはない周りが悪い」

「そうだ!そうだ!」

脳内の無数の俺が俺を擁護する。

「だよね?俺は悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない!」


勝手に体がありえないように動く。これが俺の力?ばあさんのナイフを取り上げ、そのナイフで婆さんと後ろの警官を刺す。めった刺しだ。婆さんのもとに駆け寄ってきたゆみのお母さんも容赦なく殴り飛ばす。

「きゃーーーーーー!!!!」

ゆみの甲高い悲鳴が上がる。構わず俺は玄関を飛び出し、走り続けた。そうだ、東京にいこう。東京だったら俺のことを知っているやつは誰一人としていない。俺のことを悪魔だなんて呼ぶやつもいない。楽園だ。

「ダメだ」

脳に直接声が聞こえてきた。ある程度察しはついているが、聞いてみる。

「誰だお前」

「お前の中に住む悪魔だ」

悪魔。いつも婆さんが俺に昔話するときに出てきたな。それが俺のことだなんてな。びっくりだよ。

「少し違う」

「えっ?」

「お前は悪魔ではない。悪魔に住みつかれているだけだ。俺は誰かに住んでいないと生きていけないんだ。だからお前を選んだ。それだけだ。最初に俺が生まれたのは百年以上前だ。」


〜百年以上前〜

「オギャーオギャー」

「元気な子だな。でもうひとりは?双子なはずだよな?」

「死んじゃったって」

「えっ?嘘だよな?先生!ホントですか?」

「ええ。すいません。手は尽くしたのですが」

双子の片割れである俺(悪魔)は産まれることはできなかったが魂は残り続けた。兄は俺の魂が見えるらしい。結構話しかけてくる。

「ねえ一緒にサッカーやろうぜ!あでもお前できないか」

決まって母は言う。

「気味が悪いわ。誰に話しかけているのかしら。もしかして…」

「そんなことはありえないよ」

と父が否定するのが毎日だ。兄が小6に上がる頃に父がある提案した。その日がなければあんなことにはならなかったのかもしれない。

「勇太をお受験させてみないか?勇太もやってみたいと言ってくれると思うんだが」

母が勇太に聞く

「ねぇ勇太!お受験してみない?」

「お受験!?してみる!」

兄は好奇心旺盛で正直バカだ。お受験というものがどういうものかも対して理解しないでそう返事をした。

「そう、じゃあ来週から高野塾にいこうか」

「わかった!翔太もそこに通ってるらしいから楽しみだな」

辛いお受験の日々が始まった。正直地獄だった。翔太は最初は兄が高野塾に入ってきたことを大変喜んだ。

「お前ほんとにお受験できんの?テストの点も悪いじゃん!」

「うっせなあ。楽しそうじゃんお受験」

「そんな動機かよ。まあいいや頑張ろうな。」

「おう!」

しかし兄はバカ過ぎた。毎日兄は先生にわからないところを聞いていた。

「先生!そこの割り算どうやってやるんすか?」

「そこはな……」

こうして授業は毎回ストップしてしまう。また、兄は翔太にも自習のときに質問を繰り返す。

「ねえ。ここどうやんの?」

「あ?ここ前に教えたじゃん。えっと…」

毎日毎日これを繰り返されて翔太はフラストレーションをためていった。当然といえば当然だ。霊魂の状態で翔太の模試の点数を覗き見したとき、明らかに点数が伸び悩んでいるのだと、知った。そういったいら立ちや焦り、怒りが積み重なって翔太は兄にきつく当たるようになった。夏休みの模試のあとの日だ。

「おい」

「何翔太?」

「お前のせいで…」

ボコッボコッボコッ。何回も兄は靴で殴られた。それでも兄はバカだ。

「翔太やめろよ〜。冗談でも痛いぞそれ」

ガシャ。鈍い音がしたと同時に兄は血を吐いて倒れた。翔太は駆け足で逃げ出した。数分して兄の意識は戻り、家に帰ったが、兄は翔太にやられたことを隠した。兄は翔太のことを信じていたのかもしれない。何故隠したのか俺にもわからなかった。隠したことで翔太は調子に乗ったのか翔太は成績の上がらない鬱憤の溜まっているほかの塾生たちを連れて、集団で兄のことをいじめだした。ひどいものだった。俺は魂の身だ。何もできなかった。

「おめえのせいで授業遅れるんだよ!バカに合わせてられないんだよ!」

口汚く罵られるたびに兄はこちらに目を向けてくる。同情してほしいのか助けてほしいのかわからなかった。そのときには兄を理解することはできなかった。お受験が始まった年の10月頃だろうか、兄の成績は一向に上がらなかった。それも当然だ。怪我をしながら、まともに勉強なんて出来ないだろう。親は怪我について説明しない兄を心配した。何度も何度も兄に尋ねるが兄は一向に翔太にやられたと言わない。本当に不思議だった。なぜ翔太をそんなに庇うのだろうかと。兄がなかなか訴えないので親は成績のことだけを気にし始めた。

「勇太〜。勉強はちゃんとしてるの〜」

「してるよ母さん」

「高野中学に行かないとこの先辛い人生歩むことになるから、頑張ってね」

「う、うん」

はじめはこんなぐらいだった。

「勇太!早く勉強しなさい!高野中学に行けないなんてうちの子じゃないからね!輝太の人生も背負ってるのよ。」

どんどんヒートアップしていってもそれでも両親は手を出すことはなかった。兄は何も今思っているのか、限界じゃないのか。全然わからなかった。兄の気持ちが見えなかった。お正月休み前の最後の塾へ行く日、とても寒い吹雪の中で俺はぼそりと兄に聞いてみた。

「お兄ちゃんはさなんで翔太にやられてること言わないの」

「翔太はさバカな俺に合わせてバカやってくれる初めての友達だったんだよ。みんなが俺のことバカいじりする中でサッカーやろうぜ!って誘ってくれて、日が暮れるまでボールを必死こいて追いかけて、、楽しかったなあ」

何も言えなかった。それは知っていたけど何も言えなかった。

「だからさ、俺に付き合わせちゃったから成績も振るわなくなって、俺のせいではあるよな!」

明るくそんなことを言う。少しだけ気持ちがわかった気がした。

その日の塾が終わったあとも腹いせに兄がいじめられた。

「お前のせいで…お前のせいで…お前のせいで…」

何回も翔太は連呼する。今日も兄は俺の方を見てくる。何を俺に求めているのだろうか。兄は自分に責任があると思いこむことで他人を攻撃することを避けている。そうだ避けているだけなんだ。兄はホントは翔太のことを責めたい。そんなことは当然なんだ。ただ、勇気が、ほんの少しの勇気が足りないんだ。それで俺に求めてる。背中を押すのは俺だ…


兄の手が血に染まった。それと同時に俺は兄と同化した。自然と兄弟はわらった。

「あはははは。帰ろっか」

「うん!」

帰れなかった。俺たちは捕まった。悪魔のような笑いは止まることがなく、気味が悪いとマスコミなどから騒がれ、悪魔!悪魔!と呼ばれ、特別死刑にさせられた。


〜現在〜

「っていうことだ」

「でなんでお前は今俺と同化してんの?」

「魂である俺は成仏できなかったんだ。これまでいろんなやつの背中を押してきたよ。いろんなやつと同化してきた。そいつらの一人なんだよお前は」

いきなりだから頭混乱してきたぞ。

「てかじゃあ、母さんを殺したのも、婆さんや警官を刺したのもお前が背中を押したからだよな?じゃあ俺は悪くないよな?」

「いや、俺はあくまで背中を押しただけだ。お前に共感してお前と同化して、お前と一緒に殺したんだ。だから、お前も悪くないわけではないぞ。第一悪いとかいうのは見方によって云々」

何も聞かなかった。俺は悪くないんだろう。俺に住み着いているこの悪魔のせいだ。いや母さんか?婆さんか?あの警官か?それともゆみのお母さんか?いやあいつら全て悪物だろ。

「で俺は罪なんてないんだから、自由だよな。東京いこうぜ!そこで年齢偽って働いて…」

「だからそれは無理だ。俺がお前の中に住み着いてる限りお前はこの街から出られない」

「なんでさ!」

「俺は兄さんが生まれ育ったこの街から離れることはできない」

なんてことだ。それじゃ警察から逃げられないぞ。ずっとイタチゴッコやってろってのか?

「……そのとおりだ。俺がこれまで背中を押してきたやつは容赦なくこの街の警察に処分されてきた」

「じゃあ俺も警察に処分されとけと?」

「それはお前しだいだ。お前があらゆるものに抵抗しようとする限り、俺はお前の背中を押してやる」

しばらく何も言えなかった。街灯が消えかかった道をぶらぶらと歩く。幸いパトカーの音は聞こえてこない。ひたすら無音だ。この無言の状態に耐えかねたのか悪魔が口を開く。

「お前が最初に人を殺したとき、すぐに処分されるんだと思ったよ」

「まあ全速力で逃げたからな」

「いや違う。母を殺した話ではない。あれはお前が5歳児くらいのときだ」

また俺の罪の話だろうか。反応する気のない俺を無視して悪魔はつづける。

「お前は覚えているか?雪くんを」

なんとなくだが記憶が呼び起こされる。……考えたくない。

「雪はお前とゆみの友達だった。お前ら3人はよく遊んでいたよ。かくれんぼだったり、砂場遊びだったり、おままごとだったり、飽きずに四六時中3人で遊んでいた。そして幼心に雪とお前はゆみに恋した。そして喧嘩になった。ゆみちゃんは僕のだ僕のだってしょっちゅう揉めてた。お前の母さんはそれを子供の喧嘩としか思ってなかった…」

聞きたくない。それでも悪魔は続ける。本当に悪魔は悪魔だ。空気を読めない。

「お前の憎悪の感情は強すぎる。だから俺はお前についたんだ。お前は雪に憎悪の感情を強くしていった。強く強く強く。俺が背中を押したときお前があそこまでやるとは思ってなかったよ。」

思い出されるあの惨状。母さんの悲痛な叫び声。ゆみはショックで倒れていた。

「お前は雪の何もかもを潰した…そこでお前が俺に取り憑かれてることが発覚した。けどそこで処分されなかったんだよ。なぜか覚えてるか?」

「この街の悪魔対策局長であるお前の隣の家の婆さんが、幼すぎる子供を処刑するのは忍びないと、訴えたからだ」

……

「そうしてお前はお前の母さんに管理されてきた。お前の母さんは虐待をすることでお前の精神の面を管理していたんだよ。」

やるせねえ。すべて思い出してしまった。母さんもあの婆さんも俺を守ってくれていたのに、俺は殺した…………………。違う。俺に住む悪魔が俺を誘導したんだ。

「またそうやって自分の罪から逃げるのか。やってしまったことは仕方ないんだ。前を向け」

おい。悪魔。全部お前のせいなんだよ。だからお前がしね。悪魔は反抗する。

「俺に向けられた殺意の背中は押さねえよ」

俺は首を傾げる。意味がわからない。

「お前を殺すのにお前の助けなんかいらねえよ。赤子じゃねえんだ。人を殺すのに他人の助けなんていらないだろ?」

「ほざけ。一人じゃ何も行動できない腰抜けが」

「本気で言ってる?それ」

「人間は殺す勇気のない腰抜け共だ………ろ……」

悪魔は消えた。消滅した。俺は自由だ。東京だ!東京へいこう。こんな古い風習の残るゴミ見てえな街からさよならだよ。そうだ、ゆみも連れて行こう。ゆみならきっと俺といることを喜んでくれる!俺は歩いてきた道を引き返した。夜はすっかり明けそうだ。

「ピンポーン」

インターホンを鳴らす。誰もでてこない。窓から中を覗いてみると、ソファーでうずくまるゆみの姿が見えた。手を振ってみる。ゆみは少し驚いて今にも泣きそうな顔だった。なんで喜んでくれないんだ?窓をどんどんと叩く。ゆみは急いで逃げる。は?なんだあの態度は。失礼極まりないゆみの態度に腹を立てた俺は庭においてあった花瓶で窓を割った。そこから家に入る。

「ゆみー。東京で一緒に暮らそう!」

そういうもゆみは全然でてこない。玄関の方に逃げたゆみを追うと、ゆみが腰を抜かして泣いていた。

「やめて……来ないで近寄らないで…」

………ゆみの腕を掴む。ゆみも何者かに取り憑かれているんだろう。俺がその悪魔を取り除いてやる。周りには警官たちがたっていた。囲まれていた。警官たちが口々に言う。

「ゆみさん大丈夫だよ!安心して!観念しろ悪魔!」

俺はもう悪魔を殺したんだ。みんなわかってくれるはずだ。

「俺は悪魔を殺したんだ!だからもう大丈夫だ!」

警官たちは変わったナイフを取り出す。

「何が大丈夫なんだ!?お前はイカれてる。人を殺すなんて並大抵の精神のやつじゃできない!お前は悪魔だ!」

「ならお前らは悪魔を殺そうとする悪魔だな」

警官たち一人ひとりの攻撃を見極めて、かわし、素早く変わったナイフを取り上げる。俺は身体能力はいつからこんなにも人間離れしてしまったのだろう。警官たちはそんな俺を恐れているが正義を盾にまだ戦おうとしてくる。

「うぉ!」

「とりゃあ!」

「うふぉ!」

「ぎゃー」

俺は皆殺しにした。辺りに血が飛び散っている。ゆみは顔面蒼白で怯え続けている。ゆみにみられた。もうゆみと暮らすことは無理なのかもしれない。ゆみだけは俺を悪くないと言ってくれると思っていたが仕方ない。ゆみの喉に手をかける。そのとき、ゆみのお母さんが突然二階から現れ、俺の背中を普通の果物ナイフで一突き。俺のお腹からは血が広がる…………



どのくらい時間がたったのであろう。俺は死ななかった。俺はニンゲンなのに、死ななかった。ゆみのお母さんは俺をナイフで刺すときに勢い余って、転び息絶えていた。ゆみの息遣いだけが聞こえる。ゆみごめん。ゆみの喉に手をかける。ゆみが声を絞り出して、言う。

「夕、ほんとに悪魔だったんだね」

俺は答えた。

「俺はお前らが悪魔に見えたよ」

喉が潰れて血が飛び散る。笑いが止まらなかった。

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