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魔法使いに聖剣を持たせるパーティーが勇者パーティーなんておかしいですよね?~勇者以上にブラックだったので抜けさせてもらいます~

作者: じぐろもえたん

ハイファンタジー初挑戦です。

拙い文章ですが、少しでも楽しんでいただけたらと思っております。

 その日、世界は歓喜に包まれた。

 理由は単純明快。長きに渡り世界を絶望と恐怖の色に染め上げていた存在──魔王が討伐されたとの吉報が世界中に届いたからだ。


 それほどの栄誉あることを成し遂げたパーティー ──勇者パーティーの一行は今日、ガルジア王国の王都で行われるパレードに参加する。


 その知らせを聞いた者は、この目に英雄を一目見ようと国内外、種族、老若男女を問わず王都へと足を運んだ。


 いつもは出店が軒を連ねて商人たちが我先にとばかりに声を張り上げている王都の商業区も、今日ばかりは店は姿を隠し人が押し寄せていた。


 かつてないほどの歓声が王都を包んでいる。その歓声は刻一刻と勢いを増していく。

 そして王都の正面門が開かれる。それと同時に紙吹雪が舞い散り、音楽が奏でられパレードが開始した。


 英雄たちの登場の合図を聞いた人々は先ほどとは比にならないくらいの、衝撃を伴いそうなほどの大歓声を上げた。


 門を潜り現れたのは、豪華な装飾が施されている天蓋付きの馬車だ。

 開かれている天蓋から姿をのぞかせているのは計四人。


 圧倒的存在感を感じさせる今回の主役たちを率いているリーダー ──勇者ディアン。

 身の丈ほどの大きな杖を持ち透き通るような金髪をなびかせているこの国の王女様──聖女フィーリ。

 パーティーの盾役として活躍した陰の立役者──戦士アリス。

 先の三人の一歩後ろに控えており黒いローブととんがり帽子を深々とかぶっている人物──魔法使いライ。


 今回の魔王討伐における英雄たち、勇者パーティーだ。

 左右を人込みで埋め尽くされている凱旋道を悠々と馬車が通過する。その際に勇者パーティーは人々に向けて笑顔で手を振る。


 英雄たちを見た人々の熱は収まるどころかより一層上がる。

 王都の凱旋道をゆっくりと一周した馬車は最終目的地である王城へと向かう。


 そして王城のバルコニーから現れた国王陛下と勇者パーティー一行。

 王城の前にある広場に詰めかけていたたくさんの人がまたもや歓声を上げる。


 「この度、ここにいる勇者一行は魔王討伐という歴史的な功績を残した! これにより世界から魔王という脅威がなくなった!」


 国王陛下からもう一度魔王討伐という言葉を聞き、王都に押し寄せていた人々は改めて魔王という存在がいなくなったことを実感する。

 

 人々が今胸の内に思い出すのはあるおとぎ話、子供のころに一度は聞かされたことのある話だ。


 その話を簡単に要約するとこんな感じだ。 


 この世界には魔王という存在がいました。

 魔王は自らの欲を満たすために部下である魔族にこう命じました。


 『世界を手中に収めてこい』


 絶対の王である魔王の命令に魔族たちはすぐさま世界中に侵攻を始めました。

 恐怖、憎悪などの負の感情を糧に成長する魔族はあまりに強大であり世界は魔族の侵略を止められずにいました。


 そんな絶望の淵にいた世界を救おうと女神さまが手を差し伸べてくれました。

 女神さまは魔王に対抗するために『勇者』という存在を作り出しました。


 勇者様は女神様から賜った『聖剣』を武器として世界を救いに行きました。

 勇者様はその道中に何人かの仲間を作りました。


 曰く、あらゆる傷を癒す聖女を。

 曰く、前線に立ち盾となる戦士を。

 曰く、あらゆる事象を引き起こす魔法使いを。


 勇者様は心強い仲間とともに魔族を切り伏せ、ついに魔王の前に立ちふさがった。


 そしてついには仲間とともに魔王を打ち滅ぼし世界を救ったのでした。


 おしまい。


 人々の願いが込められていたこのおとぎ話はまさに一縷の希望だった。

 だが今、この一縷の希望は実現した。


 「称えよ、英雄たちを! そしてしかと目に焼き付けるのだ! これが魔王を打ち滅ぼした『聖剣』と『その担い手』である!」


 その言葉を聞いた観衆の熱はまさに最高潮に達した。

 そして誰もが言葉を失った。


 観衆の視線の先には、役目を終えたが未だに神々しく輝いている、女神様から賜ったとされている一振りの剣、『聖剣』。


 そして──


 『聖剣』に負けない存在感を示し勇者パーティーのリーダーであり今回の主役でもある『勇者』












 ──ではなく、黒いローブを羽織っていてとんがり帽子を深々とかぶっている魔法使いだった。


 誰もが言葉を失った。

 今日という歴史に残る一ページの中で唯一静寂が王都を支配した瞬間だった。




 ♢♢♢♢♢




 そしてパレードから一か月後。

 世界を恐怖で支配した魔王を討伐したことにより世界にその名を轟かせた、勇者、聖女、戦士、魔法使いの四人で構成されている少数精鋭のパーティー ──勇者パーティー。

 

 誰もが畏怖の念を、憧憬を抱かずにはいられない存在。

 もしも自分が勇者パーティーに属しているならば、なんて夢を抱く人が後を絶つことがない。それほど勇者パーティーに属しているということは栄誉あることなのだ。


 だから勇者パーティーに入りたいと思っている人々は星の数ほどいても抜けたいと思っている人はいるはずがないのだ。


 「俺は勇者パーティーから抜ける!!」


 ──そう、彼を除いては。


 彼の名はライ=オルクス。またの名を魔法使いライ。

 勇者パーティー所属の魔法使いをやっていた人物だ。


 「もう俺は自由に生きていくって決めたんだ!!」


 「君はまだそんなことを言っているのか...」


 ライは気迫のこもった目で目の前に座っている人物を見ている。

 その視線にさらされている人物は「また始まった」 と呆れ口調で返事をしている。


 ライの眼前に座っている人物──壮年で逞しい体つきの男。勇者パーティーの後ろ盾となり魔王討伐を支えてきた人物。ガルジア王国の国王陛下だ。


 「今度こそ絶対に抜ける! もう決定事項だ!」


 「なんで君はそんなに勇者パーティーを抜けたがるんだ」


 「じゃあ逆に聞くけど、なんで俺がそのままパーティーにいたいと思ってるんだ?」


 もう何度もしてきた質問を再度ライに問うた国王に対して、ライはどうしてそんな質問をされるのか理解していないような反応を見せた。


 「ライ、私は君にパーティーを抜けてほしくないんだよ」


 この言葉だけを聞く限り国王はライのためを思ってこんなことを言っているかのように聞こえてくる。


 だがこの後に続く言葉をライは容易に予測することができた。


 「「だって聖剣の持ち主だから」 だろ?」


 ライは国王の言葉に被せながらそう言った。


 世間一般では聖剣の持ち主は勇者ディアンであるというのが共通認識として知られている。だがこれは事実であって真実ではない。


 魔王討伐を祝したパレードで国王は聖剣とその持ち主を大々的に発表した。もちろんライはそれを断ったのだが、国民(たっ)ての希望だったため仕方なくそれを受け入れた。


 その結果は沈黙だった。

 それもそうだろう。誰もが聖剣の持ち主は勇者であると信じて疑わなかったのにもかかわらず、実際は魔法使いだったのだから。


 それまでのお祭り騒ぎが嘘のように冷え切ってしまった。

 何とも言えぬ状況を切り抜けるために国王はライに頼み人々の記憶に魔法をかけ、聖剣の持ち主は勇者であるという風に錯覚させた。


 二人は同じことを考えていたのか何とも言えない表情をしていた。


 「それに今回の魔王討伐に助力してもらった各国への挨拶もまだ済ませてないし、それに魔王軍の残党もまだいる。そんな中で君にパーティーを抜けられると困るんだよ」


 国王の言う通り、ライを除いた他のパーティーメンバーはすでに魔王軍の残党を討伐すべく、既に王国を発っていた。

 国王は一刻も早くライにそこへ合流してほしいのだ。


 「嫌だ。俺は勇者パーティーなんかとは無縁の一般人になりたいんだよ!」


 ライは大声を上げて自分の願いを口にする。

 自分の願いを決して曲げないライに対して国王は頭を抱えるばかりだ。


 「なぁ、国王。勇者パーティーって四人だと思うか?」


 突然ライがそんなことを言ってきた。

 勇者、聖女、戦士、魔法使いの四人で構成されているパーティーなのだから当然そうだろう。だがライの答えは違った。


 「勇者パーティーは三人と一人だ」


 「は?」


 ライの言っていることが全然理解できない。彼は何を言っているんだろうか。


 「まずはフィーリ。あいつディアンとかアリスには回復魔法を使うんだよ。聖女様だからね。でも俺にだけは使ってくれないの。俺が死にかけてるのに顔を真っ赤にしながら「あの、その、まだ心の準備が...」 とか言って。結局最後の最後まで俺だけ回復薬(ポーション)を使ってたよ。知ってるか? あれめっちゃマズいんだぞ」


 「...え?」


 「次はアリス。あいつは戦士だからディアンとかフィーリを守って戦ってたよ。聖女のフィーリは分かるとしても、勇者であるディアンを守って魔法使いである俺を守ってくれないの。勇者よりも弱い俺を。知能が高い魔物とかは束になって俺を狙ってくることがあった。そんな時は「頑張れ!」 の一言だけ」


 「...は、え?」


 「そしてディアン。あいつはモテる。許さん」


 「...」


 国王はライの言葉を聞いて唖然としていた。

 それほどひどい内容だから──ではない。ライが盛大に勘違いをしているからである。


 「...ライ」


 「何だよ」


 「...っ、なんでもない」


 国王はライに言おうと口を開きかけたが結局言わなかった。いや、言えなかった。


 ガルジア王国第二王女にして聖女フィーリ。

 自分の娘であるフィーリはライに対して恋愛感情を抱いているということを。


 彼女は母親に似て大胆な性格をしているが、こと恋愛においてはかなりの奥手かつ無知なのである。


 昔──といってもライたちと旅をしている頃の話だが、国王が何かあったときのために緊急用の通信魔道具をフィーリに渡していた。


 そしてある時、連絡が入ってきた。何か起きたのかと急いで出てみると──


 『私、ライさんに初恋を捧げてしまいました!』


 これである。


 話を聞いたら、魔物の襲撃にあってしまいライに助けてもらったとのことだった。


 その際にライは自分がケガをしているのには目もくれず、フィーリを落ち着かせるために抱きしめながら耳元で名前を囁いてくれたらしい。


 国王は魔物の襲撃について詳しく説明してほしかったのだがレヴィアが嬉々としてライについて説明してくる。


 一国の王女である自分の娘があまりにもチョロいことに国王は悩んでいたが、素性の分からないどこぞの馬の骨なんかよりは断然ライのほうがいいためそこは目を瞑ることにした。


 それからというもの事あるごとにフィーリからの連絡が入ってきた。


 そして次は戦士アリスだ。

 彼女の素性は国王によって隠されている。なぜなら彼女は"護りの一族″の生き残りであるからだ。

 

 護りの一族というのは流浪の一族であり、その固有スキルは誰かを守るとき能力が跳ね上がるというものだ。しかも数が多ければ多いほどその効果は上がる。


 国を、国民を護るものとして喉から手が出るほど欲しい人材だ。

 護りの一族は魔王によって滅ぼされたとされており、生き残っているのはアリスただ一人だった。アリスは戦争の火種になるには十分な存在だ。


 そしてアリスの、護りの一族のスキルには条件がある。その条件とは自分と同等かそれ以下の実力の者を守るときにしか発揮されないらしい。


 その判断基準は身体能力や魔力などといった総合的な能力で測るらしい。

 つまりスキルが発動しないということは自分よりも格上であるという証明になる。


 『ライにだけは発動しなかった。あいつは私よりも、勇者よりも強い』


 魔王討伐が終わった後、アリスは国王に向かってそういった。


 そのような事情があるためライに対してそのような態度で接していたということをライは知る由もない。


 国王はそれらを知っているため仕方がないと思う反面、さすがに不憫すぎるのではないかとライに同情している自分もいる。


 そしてディアンに関しては──


 「そしてこれが一番ひどい話だが」


 国王の思考を遮るようにさらに話を続ける。これ以上の話があるのか、と国王は身構えて話を聞く姿勢を見せる。


 「──魔王との対決の時、俺さ、六魔将と戦ったんだよ」


 「いや。みんな戦っただろ?」


 「みんな戦ってたよ。他の三人は魔王と三対一、俺は六魔将と一対六で」


 「...」


 六魔将とは魔王に次ぐ実力者たちで、三人集まれば魔王と同等と言われている。それを一人で相手取るということは相当嫌われているか信頼されているかの二択である。


 ライの場合は後者であるが何も知らない彼にとっては違うのだろう。

 ここまで来ると国王も嫌われているのではないか、と心配になってきた。...本当に大丈夫だろうか。


 「...勝ったんだよな?」


 「まぁ、結果だけ見ればそうなるな」


 どこか遠い目をしながらライはそう呟いていた。


 「しかも六魔将と戦い終わってボロボロの俺に対してディアンのやつ、「魔王倒すには聖剣でとどめを刺すしかないらしく手伝って」 って無邪気に笑ってきたんだ」


 「...」


 「あれはトラウマだよ...」


 国王はディアンから「ライが魔王を倒したんだよ~」 と軽い口調で報告を受けていた。だからてっきりみんなで協力して最後の一撃がライの攻撃で倒したものだと思っていた。

 そもそも魔王と対峙した際に六魔将軍もいたという事実を今知った。


 国王は今ならばライの言っていた〝勇者パーティーが三人と一人〟という言葉の意味が理解できる。


 「...」


 「...」


 二人の間には何とも言えない空気が流れていた。

 それを先に破ったのは国王だった。 

 

 「...ライ。パーティー抜けていいよ」


 「...ありがとう」


 こうして魔法使いライは静かにパーティーを抜けた。

 


もし好評でしたら連載も考えております。

ブックマークや☆☆☆☆☆→★★★★★など、評価していただけたら幸いです。


よろしくお願い致します。

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