第10話「生前の流派」
「……ここからは、私が貴方のお相手を致します」
私はシェスカさんを隅へと運び、男と向き合った上でそう言った。運んでる間に攻撃して来ないとは、戦いに面白みを求めるタイプなのか単に甘いのか。盗賊でなければ、割と好印象な行為である。
だが盗賊は盗賊である以上、その行為が善意とは限らないのもまた事実。私はそんな事を考えながら、口角を上げて言葉を続けた。
「初めまして、盗賊の御頭さん。私はリーサと申します。良ければ貴方のお名前を聞かせて頂けませんか?」
「あぁ?可笑しな奴だな。この状況で悠長に名前を聞いてくるとはなぁ。良いぜ、気に入った。教えてやるよ」
男はそう言いながら、持っていた斧を地面へ突き刺した。そして親指で自分を指した後、こちらを見下したような笑みを浮かべて言った。
「――俺様の名はオーグだ。盗賊が名乗りを要求される日が来るとはな。ハッハッハ、上玉な嬢ちゃんは肝っ玉だが据わってるのか?それとも現状を把握出来てないただの馬鹿かだなぁ」
「ただの馬鹿と思われるのは心外ですね。これでも私、《《洞窟に入る前に魔力を消耗しているんですよ》》。無造作に乗り込んで来なかった時点で、馬鹿という線は消えると思いますが?」
私は洞窟の中にずっと居た彼らなら、今の私の言動を聞いて好機と思うだろう。『子供だから言葉を滑らせた』などと思われるのは心外だけれど、それでも魔力を消耗した理由を理解すれば早い話だ。
「嬢ちゃんが、さっきの魔法を俺様たちに浴びせたってのか?」
「だとすれば、どう致しますか?貴方の体格であれば、私程度の子供に本気を出すまでも無いと思いますが」
「ハッ、あの魔法を使った奴がどんな奴かと思えば……まさか嬢ちゃんみてぇなガキだとはなぁ。こいつは驚いたと同時に――屈辱だなぁ!!」
「……!」
男……オーグはそう言いながら、地面に突き刺した斧をまた手に取った。振るわれた斧の勢いは、シェスカさんと戦っていた時よりも鋭いように思える。それを感じた私だったが、斧の範囲とオーグとの間合いを冷静に判断する。
空を切った斧は、勢い良く地面に割れ目を作っている。その様子を眺めながら、私はオーグに言う。
「不意打ちとは、やはり盗賊は卑怯な方のようですね。まぁその程度の速度であれば、私に通用する事はありませんけどね」
「大きく出たもんだな。これで本気だと思われたんなら、屈辱を通り越して侮辱だなぁ!!!」
「礼節を軽んじるつもりはありませんが、人間同士の舞台に上がって無い貴方に侮辱を語る資格はありませんよ」
「――ぐおっ!?」
振り下ろされた斧を持つ手元を狙い、シェスカさんが使っていた短剣を拾い上げて刺し込む。多少の血が返って来たが、私が次の動作に移る前にオーグが私から距離を作って離れ出した。
「このガキッ!!!」
「あら、『嬢ちゃん』とは呼んで下さらないのですか?」
「ぐっ、調子に乗るんじゃねぇぞガキがっ!!!」
オーグはそう良いながら、血が垂れる手を押さえながら後ろへと下がる。その途中、足元にコツンと当たる物体に視線が動かされる。そこには、オーグの背後にある道具の中で異質な気配を漂わせていた道具があった。
それは恐らく、今回の盗みの標的となった道具であり、私がメシアさんより貰い受けるはずだった武器だった。その武器の見た目を見た瞬間、家から持ってきた剣にそっと手を触れた。
「――!!」
「へ、仕方ねぇ。これを使うとするか」
「……るな……」
「っ!?」
気が付けば私は、抜刀する寸前にオーグとの距離を詰めていた。そんな私の行動に驚いたのか、オーグを目を見開いて私を見ている視線が重なる。だが私は既に移った行動から変える、という選択肢が頭に無いらしい。
これは衝動的に、そして咄嗟に出た判断の動きだ。何故そんな行動を取ったのか。それはその武器が、私を呼んでいるような感覚になったからだ。
「……それに、触るなっ……!」
「――ぐわぁぁぁぁぁっ!?」
私はそう言うと同時に剣を抜刀した。抜刀した剣をそのままオーグへと振り、追い討ちのように振るったばかりの剣で足に突き刺す。
逃げる隙を与えないようにした結果、どちらも深手と呼ばれる類の傷を付ける事が出来た。私は足元を転がるオーグから離れ、目の前にある武器を見つめる。
私はその武器を手に取りながら、小さく呟くように言った。
「お待たせ。私の半身……やっと一緒に戦えるね」
「その剣が、なんだってんだ!たかだか剣を取られた程度、どうしてここまで血を流さなきゃならねぇんだ!こんちくしょぉぉぉがぁぁぁ!!!」
「たかが剣?いいえ、これはただの剣とは違うものですよ。ですがそうですね……恐らく初見である貴方も居ますし、この剣と私が出来る技を見せると致しましょう」
私はそう言いながら、持ったそれを腰に添えて突撃の姿勢を取った。直線的な範囲がオーグと私の間に見え、そのまま腰に添えたそれを少し抜く。
それと同時に瞬間的に距離を詰めた私は、薙ぎ払うようにしてオーグの首に狙いを定めて振るった。
「――抜刀術、一閃。如何でしたか?と言っても、もう貴方は死んでいますけどね」
オーグの身体を通り過ぎた私は、振り返らずにそう言った。気付いた時にはもう遅い、というのがこの技だ。私は思い出したくない記憶を思い出しながらも、やがて血の付いたそれを振り払って武器を収めた。
「あぁ、言い忘れていました。この武器は刀と言いますので、両手剣と一緒にしないで下さい。それではおやすみなさい、盗賊のオーグさん。地獄でまたお会いしましょう」
倒れたオーグの横を通り過ぎ、壁に背中を預けて座っているシェスカさんの元へと戻る。私は自分よりも大きいシェスカさんを抱えながら、洞窟の外へと向かうのである。




