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しばらくして振り返ると、もう船に女の姿は見えなかった。
――助かった。
そのままクルーザーを港まで走らせた。
港に着くまで俺は考えた。
このことを警察とかに通報しようかどうかと。
いや、こんな異様な話、誰も信じてくれるはずがないのだ。
坂下の死体のことも考えたが、坂下の死体を取りにあの船に再び乗り込むなんてありえない。
いろんな思いが頭の中を掛け巡り、一つの結論に達した。
なにもしないという結論に。
港に着きクルーザーを停泊させると、俺は車に乗り込んだ。
家までの帰途の間、俺が考えていたことはただ一つだった。
あの女は今でも船の中にいて、誰かに熱い抱擁をしようと待っているのだろう、と。
終




