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口から血を流し、腹を異様にへこませた状態で。
俺が坂下を見ていると、女が俺を見た。
「ひっ!」
俺は弾かれたように振り返り、走り出した。
足の速さには自信があった。
おまけに生まれてこのかた経験したことがないようなテンションで走ったためか、俺の走りはいつもよりも速かった。
必死だったのだ。
ところが階段を駆け上がって甲板に出たところで、後ろから服をつかまれた。
振り返ると女がそこにいた。
なんだかの強い欲に満ちたぎらぎらした眼で俺を見ている女が。
俺が全ての力を振り絞って甲板を蹴るのと、女が服を引っ張るのが同時だった。
双方の強い力に負けて、服がびりびりと破れてしまった。
後ろからの強い力が急になくなったので俺はつんのめりそうになったが、なんとかこらえて走った。
走りながら振り返ると、女は服の切れ端を持ったまましりもちをついている。
――今だ!
俺は文字通り全力で走った。
そしてそのまま海に飛び込んだ。
海面から顔を上げると女が船のへりから俺を見おろしているのが見えた。
しかし追ってくるようすはない。
俺はクルーザーまで泳ぐと乗り込み、ロープを外して波の上を走らせた。




