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Ep.4 出発 後編

 フード付きの外套を身にまとう。  

テーブルに並べられた品々——気付け薬、回復薬、砥石、ロープ、ランタンなどを左手の魔法陣に一つ一つ確かめながら収納していく。  

両手に革の手袋をはめ、立てかけてあった盾を持ち上げる。バルバの店で剣を直してもらうと同時に購入したものだ。何の変哲のない上半身が隠れる程度の円型をしたラウンドシールド。重さを感じながら両手で遊んでみる。

「悪くない」  

そういうと、同じように収納する。  

綺麗に整えられた物置。いや、ゼクスの部屋。  

数ヶ月という長いようで短い時間が終わろうとしていた。 この部屋で過ごした思い出は酔いつぶれてベッドに倒れこんだくらいか。  

そんな些細な記憶も何だか懐かしく思えた。  

ノックの後にサラが入ってくる。大きめのローブを同じく身にまとい旅支度を終えたようだ。頭にはターバンが巻かれ、角を隠している。翼や尻尾も包帯などで体に巻きつけてあるのだろう。

「大丈夫か? キツくないか?」

「キツくないって言ったら嘘になる。でもいい、これで」

サラはローブに顔を埋める。

ゼクスは心配しながらも、それ以上は追求しなかった。

「じゃあ挨拶しにいくか」  

短くサラが返事をして部屋をでる。

ゼクスは自分の部屋に思いを馳せながら、ゆっくりと床に扉の影を落とした。



「おう、はえーな。お前さんにしちゃあ」

 酒場にはゼクスが下宿していた店主デギンズが待ち受け声をかけた。その隣にはバルガス、帝国騎士団ディネール支部長のスアドも一緒に並んでいた。

「何だよお前らこそ。同じようなむさ苦しい顔並べて」

三人はお互いに顔を見合わせる。ゴツい体つき、巨漢、濃い顔と三人とも似たような顔立ちで兄弟と言われても納得してしまいそうだった。

「ハッハッ、そういうな。お前さんに少なからず世話になったんだ。挨拶ぐらいさせてくれや」  

スアドが豪快に笑う。ゼクスの肩をポンポン、と叩くとどこからか瓶を取り出した。

「俺から、ほれ、呑みすぎんなよ?」

ゼクスが受け取ったそれには『龍ゴロシ』と書かれていた。

銘酒と呼ばれている一品だ。

「いいのかよ。結構レアもんだぜ、それ」

「お前さんにはちともったいないぐらいだが、まあいいってことよ。ウチらからの選別だと思ってくれ」

「お? いい酒持ってんな、スアドさんよ」  

横から割り込んでくるデギンズ。

「少し味見させてくんねえか?」

「断る」とゼクスと攻防を始めた。

「悪いな。なんか最後まで」

「悪いと思ってんならちゃんと戻って来いや。それまで街は守っててやるよ心配すんな」

バルガスは胸を張って言い切った。二人も同じ気持ちのようで清々しいほどの笑顔を見せつけた。  

しかし三人とも強面、サラはその笑顔に少し引いてしまっていた。

「リリィさん、じゃあ行くわ。色々世話になりました」

「あなたの部屋——といっても物置だけど。そのままにしておくわ。いつでも戻って来なさい」

「お土産まってるっスよ〜?」

いつもと変わらないキャミィと陰ながら心配してくれていたリリィ。そんな二人の優しさを感じたゼクス。しかし何かが足りない。

「——ところでアイリはどこに行ったんだ?」  

そう、こんな結末を迎えたのもアイリあってこそ。この街で彼女と出会わなければ彼らともこうして別れを告げることはなかったのだろう。

「アイリ? んー、多分街のどこかにはいると思うけど。ごめんなさい、分からないわ」

アイリにアドバイスをしてからというものの、あれから帰って来ていない。何かを思いついた感じはしたけど。

「そう、か。じゃあ世話になったとだけ伝えておいてくれ」

「あら、いいの? 待たなくて」

「今生の別じゃないしな。またいつか会うだろう、じゃあ、名残惜しいが行くわ」

ゼクスは軽く会釈をするとそれに習ってサラも頭を下げる。

酒場の扉を開けると昼下がりの太陽が眩しいくらいに照りつけきた。

ゼクスは空を見上げる。目を瞑り今までのことを思い出していた。

「ゼクス、泣いてる?」

サラはフードの下からゼクスを見上げその姿に哀愁を感じた。

「バーカ、泣いてねえよ。行くぞ」

優しく頭を撫でる。

ローブをはためかせてメインストリートを歩いていく。

店前で座って店番をしているラルフに軽く手をあげる。会話は交わさない。

街門をくぐり、サラと視線を交わす。

「じゃあ行くか、サラ」

「ん。忘れ物ない?」

「フッ、今更戻れねぇよカッコ悪い」  

結局最後にアイリと会えなかった。それだけが少しばかり心残りだった。でもこれで良かったのかもしれない。言葉を交わすことなくまた旅にでる。それが俺っぽい。

なんてことを考えつつ、ノーザンラークに向けて歩き出す——



 サラがあくびをする。目がトロンとなりつつ眠気がやってきているのだろう。  夜行性のサラにとってはちと辛いスケジュールだったかと思いつつも、もう後戻りはできない。

「ゼクスーッ!!」  

後ろから——いや、街門の上から声。聞き慣れた声。  

小さく見える姿には嬉しささえ覚えていた。  

十数メートルはある門を飛び降りると走って二人の元にやってくる。

「何だよ、もう会わないのかと思ってたぜ?」

と言いつつもゼクスの顔は緩んでいた。アイリが来た、そのことに心踊っていたのだ。

「うるさいわね。ミーナに頼んでたものが今できたの。酒場に行ったらすでに出た後って聞いたから急いで来たのよ?」  

アイリは小さな箱を渡す。  

受け取ってその中身を見ると、片方だけの小さなリングタイプのピアスが入っていた。

「何だ? これ」

それをつまみ上げて眺めてみると表面に虹色の文様が浮かび上がりぼんやりと光っていた。 アイリは自分の髪を耳にかける。

「ハルモニクス。通信機よ。貴重品何だから大切にしなさい」

ハルモニクス——共振石と呼ばれる特殊な魔法石を加工したもので遠くの人と通信ができるもの。騎士時代に支給されていたこともあってそのもの自体は知っていたが、ピアスサイズまで小型化されたものではなかった。  

ゼクスはそれを左耳につけて、アイリに見せた。

「それにしてもこうなるとはね」

「何がだ?」

「弟子入りしたいって言ってきた奴が街を救って、さらに子供の面倒を見るようになってるってこと。今でも夢見てるかと思っちゃうくらい」

「悪かったな。年下のくせに大人ぶって、犠牲になろうとして、それでもやっぱ子供な奴に言われたくねえ」

「へえ、そういうこと言うんだ? また戦う?」

「ほんとにやるか?」

「——————」 「——————」

 二人の間に沈黙が流れる。  

サラは二人の顔を右往左往見回してしまう。  

すると二人は「プッ」と急に吹き出してしまい、声をあげて二人で笑っていた。  

冗談を言い合って、いつの間にか笑いあって。そんな関係にいつの間にかなっていた。

「じゃあ、な」

「うん。サラちゃん、ゼクスのことよろしくね」

「おいおい、俺が心配される方かよ」

ゼクスはそんな人たちのことを——

「じゃあ、な」

「うん、またね」  

一生忘れないだろう。

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