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とにかく、その秘密は本当にベルナルド家の当主とその妻しか知らないので、そんなことを知らないベルナルド家の弁護士は最初、16歳の小娘が領地を管理することに難色を示した。

 が、実際に私と遺産相続、借金の返済計画、資産運営等々の話し合いを進めて行くうちに、私の管理能力に驚愕したらしい。

 私が、叔父が適当に処理をしていた領地の会計を計算しなおし、その書類を出したら超びっくりしていた。 やばい、やばい。

 16歳でそんなことができるってないよね、やっぱり。 私は前世と合わせるとすでに結構な年・・・・・・。 このくらいはできます。

 もちろん、私は小さなときから、この領地を管理するための教育を家庭教師から受けてきたことも多大に助けになっていた。

 成人の17歳には後1年あるが、あのくそ叔父よりはずっとまともな管理ができるはずだ。


 とにかく、一番最初にやらなければならないことは借金の返済だった。

ほっておけばほっておくほど利子がついて雪だるま式になる。




 「売れるものはすべて売らないと…」

そう言った私の言葉に、チャンドラーは情けないような困ったような顔をしてうなずいていた。

まあ、没落貴族ってのは、そんなもんだろう、と、私なんかは思うけど、チャンドラーにとっても苦しいものなのかな、やっぱり。

 売らなくていいんなら、そりゃ助かるが、今年分の領地からの収入はすでに国への税金とくそ叔父の生活費に消えていた(まだ年も半ばだというのに!)

 なので、限定相続に指定されていない領地はもちろんのこと、屋敷にあるもの、家具から、美術品、洋服から、しまいには屋敷についているシャンデリアやステンドグラス、内門の鋳造製の飾り門さえも売り払うことにした。

 チャペルにあった、先祖代々の美しいレリーフのついた大理石製の十字架も、先祖代代伝わる銀食器も、ベッド、リネン、カーテン、私の生誕祝いの、高位魔術師の加護を受けた記念の銀刺繍が施された産着も、何もかも。 

 お母様が気分がいい時に趣味で作っていた刺繍を施したハンカチさえも売ることになった。

 これには、私もちょっと情けなかった…。





 我が家の金銭的状況をよくわかっている弁護士さえも、この「全部売ります!」計画が進むごとに蒼白になっていった。

お母様は 

「先祖代々のノートに、どうすればいいか書いてないのかしら? お父様は何か大変な問題が起こったら、ノートを見るように、と言っていたけれど」

と、今更ながらのことを言っているし。

 私はお母様を図書室にある秘密の扉の前につれて行った。

その作りつけの本棚の脇に隠れるようにしてある秘密の扉の中に、先祖代々の前世ノートが隠されている。

 私も何度もそのノートを読んだけれど、お金がない時にどうすればいいか、なんて書いてなかった。

私はノートをお母様の前でパラパラめくりながら、

 「ベルナルド領が敵や魔物に攻め込まれたときに、敵を閉めだす法や、魔物の森を封鎖する方法なんていう物騒な方法は書いてあるけどね」

と、始祖ベンジャミンが書いたモントロール語と英語交じりのノートを読みあげた。

 「結局、どうやって、ないところからお金を作り出すか?なんてことは書いてないんだよ、お母様。 売れるものをすべて売って借金を返すしかないよ。」

私のその言葉に、母は大きなため息をついた。


チャンドラーはオークションハウスの人間が私のワードローブの中をチェックしている部屋から私を連れ出し、隣のほとんど家具の無くなった私専用のリビングルームにきて、私に小声で訴えた。

 「エミールお嬢様、魔道具のコンロや洗濯機はしょうがないとしても、いくらなんでもドレスさえも売り払うのは、貴族としてまずいのではないでしょうか? 王宮に上がることもあると思いますしパーティーに呼ばれることもあると思います。 最低限の貴族としての装いは必要かと・・・・」

 「貴族…? 領地もまともに管理できていないのに、貴族?? チャンドラーは貴族ってのがどういうものだと思っているの?」

私は半ばあきれながら言った。

 この世界の上流社会的な考え方は、私のような小市民の記憶がある人間からすると、全く信じられない。

 結局、貴族=知事、みたいなもんでしょ。 役割的には。

実際に領地の管理の仕方とかを家庭教師から習った時も、その考えを強くしたんだ、私。

 領民から税金を集めて、国に半分収め、あとの半分は領地へ還元するってのが、仕組みじゃん。



 「でも、チャンドラーの言うことは一理あるのよ、エミール」

やさしい声色でお母様が話を継いだ。

 「お母様・・・」

メイド頭のジーンに付き添われてお母様が部屋のドアのそばで立っていた。

 「あと1年もすれば、あなたも年ごろになるのだから、パーティーに呼ばれることも多くなると思うわ。 その時にメイド服のような格好で参加することはできないでしょう?」

 私は、ギュッと握りこぶしを作った。

 「お母様、私にはパーティーに呼んでくださるようなお友達も、目にかけてくれるような親戚もいないんですよ、知っているでしょうに。 もうすでに、我が家の状態は貴族社会でもうわさになっているでしょうし、なおさら、そんな家の人間を笑い者にするならまだしも、親切心で呼んでくれる方なんていませんよ」

 その言葉に気の弱いお母様は黙ってしまった。

 

 そうやって、周りの人々を巻き込みながら、私はすべての家財道具を売り払い、私たちには寒々とした屋敷だけが残った。

 こんなところに何人もの使用人を置いておくことはできない、あたりまえだけど、お給料、払えないし。

 なので、私はすべての使用人に暇を出すことにした。

 自分たちの暮らしもままならないだろうに、使用人なんて、どこのお姫さまだっての。



昔だったら舞踏会でも開けるような、屋敷の大ホールに使用人たちを全部集め、私は皆に今の状況を説明した。

 「いきなり暇に出されて困る、という人もいるでしょう。 地元には仕事が少ないとは思うのですが、アンガス商会に仕事の紹介をしてもらえるように頼んでおきました。 今まで本当にありがとう」

状況をうすうすわかっていた使用人たちは、頭を下げた私にうなずき、納得してくれたようだった。

各自に次の職場に持っていくための紹介状を手渡し終わった私に挨拶をして、一人、二人と荷物をまとめ、屋敷を出ていく。


 使用人のいなくなった屋敷を後に、執務室で仕事をしていた私を女中頭のジーンは訪ねてきた。

 「エミールお嬢様、私は御給金がなくてもここにいたいのです」

ジーンは涙を浮かべて小声で言った。

 「私の母もここの家政婦で、私はここで生まれました。 私はここを離れたくありません」

ジーンはそう言って泣き崩れた。

 「でももう私たちには御給金を払うどころか、自分たちの食事も満足にできるかできないか、の状況なのよ。 私もジーンと離れたくはないけれど・・・。」

 私はふくよかなジーンを抱きしめた。

 お母様が熱を出した時も一緒になって看病してくれたジーン。

 いつも「内緒ですよ」、と言いながら、台所からクッキーを持ってきてくれたジーン。

 小さい時から一緒だったジーンとは、私だって離れたくない。

 「お嬢様は、畑仕事だってしたことないじゃないですか。 私がいれば奥様とお嬢様の食いぶちぐらい、御屋敷のベジタブルガーデンでなんとか出来ます」

そう言ってジーンは私の背中をやさしく叩いた。

 「でもそれはやっぱり駄目よ…。ジーンにこれ以上負担をかけることはできない・・・・」

私は暖かなジーンの抱きしめられてもなお否定の言葉をつぶやいた。

 「私もお手伝いしますよ」

低いかすれた声が後ろからした。

 「チャンドラー! 」

私は思いもかけず滲んでしまった涙目を後ろに立っているチャンドラーに向けた。

 「鼻つまみの冒険者だった私を先先代が拾ってくれました。 それから30年、ベルナルド家に仕えてきました。 今、やっと本当のご奉公ができる時だと思っているんです。先先代への恩返しです」

そう言ってチャンドラーは胸に手を当て頭を下げた。

 忠誠を誓う礼だ。


 私は、前世の記憶があるとはいえ、16歳の子供。

お母様が体が弱かったこともあり、私は学校には行かず家庭教師からすべてを学んでいた。

ほとんどこの屋敷の敷地から出たこともないし、知識はあるが、実践的にはどうしていいかわからなない。

 この世界は地球とは全く違うし、私がこの世界で働けるのかもわからない。

とりあえず、多少の食料は食糧庫に保存されていた分があるから、それをお母様と二人で食べて行けば、バランスよく食べることはできないであろうが、何カ月かは持つとか思っていた。

でも、実際病弱なお母様と二人で大丈夫か、とひどく不安だったのだ。

 それだけではない。 私はベルナルドの領主でもある。

領民の生活を守らなければならない。

 出来るだけそのことは考えず、自分ができる、目の前のことをひとつずつこなしていこう、とは思っていはいたが、少しでも考えればあまりの責任の重さにつぶされてしまいそうだった。

でも、二人がいてくれれば、これほど心強いことはない。

 私は二人に頭を下げた。 忠誠を誓う礼、胸に手を当てて。


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