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ベルナルド家の始祖 ベンジャミン ベルナルドは前世の記憶を持っていたと、我が家に残る、ベンジャミンのノートにはある。
ベンジャミンは地球のイギリス生まれのようで、その当時の知識を生かし、モントロール王国の建国に人力を尽くしたとある。
とくにベンジャミンはもともと軍人だったらしく、世界を蹂躙していた魔物を当時この世界になかった戦略を駆使してサンクレモン家の始祖、ジュピター陛下とともに蹴散らしたそうだ、とお母様に教えられた。
だが、「前世の記憶」は諸刃の刃。 この世界にない知識は薬にも毒にもなる。
ベンジャミンはモントロール王国建国時に力を発しだが、その後は出来るだけ王家から離れ、辺境の交通の便も悪い山岳地帯のこの小さな領地を自治領として拝領し、隣接する魔の森の魔物からモントロール王国を守りつつ、あまり目立たないようにして暮らしたとある。
だが、2代目のバジルも前世の記憶を持って生まれてきてしまった。
ベンジャミンは妻に「前世の記憶」について話し、バジルにこのことを秘密にするように約束させた。
バジルの前世での出身地や時代は分っていない。 残っている肖像画や名前の感じ、彼が残したノートからして彼もヨーロッパの人ではないかな?とは思うけど。
彼は荒れた土地であったベルナルドに土地改良や灌漑設備を導入して、荒れ地だったこの地をそれなりの実りが期待できる領地に変えた。
それまでは魔物に荒らされた、誰にも顧みられない土地だったのに。
そして、3代目は幸か不幸か前世の記憶がなかった。
だが、バジルは今後も子孫に前世持ちが生まれる可能性もある、と、爵位を継いだ「前世」を持っていない3代目にも「前世の記憶」について教えた。 そして、このことをベルナルド家の秘密として、代々家を継ぐ者が後世に伝えるよう家訓にした。
そして、バジルの思った通り、その後、ずいぶん経って、5代目に前世の記憶を持って生まれた。
5代目は面白いことに魔道具をいろいろと開発した。
この世界には魔道具というものがある。 魔物の中に宿る魔石のエネルギーを使って動かす道具だ。この世界ではこの魔石が前世の世界での電気とかガスとか、そう言う感じで使われている。
もちろん5代目もベルナルド家の血統なので、魔力全くは持っていなかった。 でも、前世でどうも機械系に携わっていたらしく、彼の残したノートには魔石を使ったいろんな設計図みたいなものが残されている。
書かれている言葉の半分がモントロール語ではなく彼の前世の言葉で、私には全くわからない物も多い。 (ミミズがはったような感じで、多分中東とかそっちのほうの物じゃないか?とは思うんだけど)
でも、その設計図は、パッと見、大昔の電化製品っぽい感じがするので、地球の電化製品を元に魔道具を開発したのではないか?と思う。
それまでは、魔石が持つ力のみを発現させたような魔道具しかなかったが、媒体や機械部分をつなげ、使用範囲を広げる、というタイプの魔道具を初めて開発したのは彼だった。
この国の歴史には残ってはいないが、魔石を使う洗濯機とか、遠話器(電話みたいなもの)は、彼が元々は発明したものらしい。
ただ、発明に力を入れてばっかりで、領地のことはあまり顧みなかった人ではあるらしい。ある意味、発明狂みたいな扱いだったようだ。
彼の魔道具開発は王家にも目をつけられたようだが、本人が狂人のような感じだったのと、販売を懇意のベルナルド出身のアンガス商社1本で内密に行っていたため、事なきを得たと聞いている(そのため、歴史の本には、それらの魔道具はアンガス商会が発明したことになっている)。
そして、6代目の私のおばあ様、7代目のお父様は前世の記憶がなかった。
そして8代目の私には、前世がある。
このように、ベルナルド家では前世の記憶を持つ者がそれなりの確率に生まれてきた。
彼らは前世の記憶を利用して、ベルナルド家だけでなく多方面に貢献してきた。
そのため、その生まれ順、年齢は無視し、前世の記憶を持つ者が爵位と領地を相続することが暗黙のルールとなっていた。
もし、その時に前世の記憶を持つ者がいない場合は長子が相続し、必ずベルナルド家の秘密を守り、次代に伝えなければならない。
しかしながら、もちろん死んだくそ叔父はこんな秘密があることは知らなかった(領主じゃないからね)。
私は前世持ちとして、物心がついてから亡くなったお父様の代わりにお母様から直接教わり、ご先祖様の残したノートを読んできたが(読めないところも多々あるが)、たとえ、領主の弟といえども領主でない限りこの秘密は教えてはならないことになっている。 だって、どこでどうこの秘密が漏れるか分らない。モントロール王国は魔物を蹴散らし、魔物の土地だったところに作られた国だ。いまだに魔物はくすぶり、人々は精神的に圧迫された生活を余儀なくされている。そのような、常に半戦争状態な国だからだろうか、この国では前世で言う「魔女狩り」的なことが結構頻繁に勃発していた。
王家に認められた「魔術師」はいいけれど、それ以外のちょっと他の人と違うような力を持つ人間は、魔物として断罪されることがある。裁判もまともに行わないで。
まあ、それは文明が低いからだと思うけど、「吊るしあげ」が、ある意味エンターテイメントになっているみたいなんだよね、この世界。まあ、それは前世でもあったわけだけれど。
それはここモントロール王国の土台がしっかりしていないからなんだと私は思う。
モントロールはこの世界で唯一の国だ。
他の国々は、国とは名ばかりの、小さな町の寄せ集めで、世界的にひろがる魔の森の間にポツン、ポツンと集落を作っている。
だが、モントロールの王家、サン クレモン家はこの世界で1番魔力を持つ家系と言われ、ベルナルドの後ろにある山脈から、海に至るまでの魔の森を焼き払い、国を広げてきた。
しかし、前世の世界と比べても人々の生活レベルは低く、そのせいか厄病が時折猛威をふるい、今だに起きる魔物の襲撃におびえている。
サン クレモン王家をはじめとする貴族たちの魔力とその畏怖でとりあえず国をまとめ上げているが、その王家自体のお家騒動、貴族たちの権力争いに加え、この世界の一般の人々の生活レベルの低さ(多分、感じ的には江戸時代後期から明治ぐらいなんではないか、と思われる)が人々を圧迫していて、その不満の矛先として「魔女狩り」的なことが勃発しているんだろうと思う。
ベルナルド家みたいな辺境の、中央に全く力のない弱小貴族の場合、あまりにも田舎過ぎて、相当な派手なことをしなければ、「吊るしあげ」に会うこともないと思うが、それでも用心に越したことはない。
もし、この秘密をあの叔父が知っていたらどうなっていただろう?
代々伝えられた秘密のノートなど、お金になりそうだ、とすぐに売り払っていたのではないだろうか?
そして、ベルナルド家全体が「魔物」として「吊るしあげ」されていたのではないだろうか?