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今でもなぜかその日のことをよく覚えている。
朝から蝉がミンミン鳴いていて、開け放った窓からはそよとした風も入らず、昼食を前に座っているだけなのに背中に汗がたらたらと流れていた。
上質の薄い麻でできたサマードレスが皮膚にはりつき、朝の訓練の汗をすっかりきれいに拭いたのにもかかわらず、ひどく不快だった。
お母様はこんな夏日はなおさら起き上がることができず、まだ寝室で休んでいたんだっけ。
私は目の前に置かれたオレンジジュースを飲みながら、窓の外に広がる真っ青な空をぼ~っと眺めて、ただ、その日のスケジュールのことだけを考えていた。
真夏ではあるけれど、私には夏休みはなかった。普通、貴族や裕福な家庭の子弟ならば王立学校に入るもので、学校に行っていればもちろん夏休みはあった。 だが、私の住む、ここ、ベルナルドはモントロールの端も端、その上魔の森を有する山脈に囲まれた辺境にある上、お母様も病気がちで、私の後見人である叔父 チェンバレン卿も私が学院なんかに行こうが行くまいがどっちでもよい、という感じだった。
なので、これ幸いと私は学校に行っていなかった。
だいたい、王立学校なんて、貴族同士や金持ちどものつながりのための、はっきり言ってネットワーキング的なコネ作りのためのような学校だ。そんなところに誰が行くか。
前世ではそれでなくても人間関係で苦労した口で、こっちの世界でも周りに同い年ぐらいの人間が一人もいなかった私が、そんな、ひと癖もふた癖もあるような貴族階級や金持ちのおぼっちゃま、おじょうちゃまたちと、寮生活なんて、考えただけでストレス性胃炎になると思った。
もし私に魔力があれば魔道学院へ強制入学だったのだが、私には魔力がないのでそれも無く。
一般的には魔力を持つ者=貴族と思われているが、実際は、魔力が強い人間が昔から貴族に取り立てられたから貴族の中に魔力を持つ者が多いだけで、ベルナルド家みたいに代々なぜか魔力を持つ者が生まれない、魔力の魔の字もない家系もある。
その反対に強力な魔力を持つ家系もあり、その筆頭は王族だ。 王族はほとんどすべての人間が魔力を持つと聞く。
だが、魔力の遺伝はどうも劣性遺伝のようで(私の前世の知識から考えるに)、魔力を持つ人間はだんだん少なくなってきているようだった。
もちろん、たまに普通の人からも魔力がある人が見つかることがある。
そういう魔力を持つ平民も強制的に魔道学院へ入れられる。その後は、魔術師として王宮お抱えとなるらしい。
だが、私自身はラッキーなことに魔力もなく。
なので、私は屋敷に家庭教師を呼んで勉強していた。
家庭教師だから、夏休みも何もない。 それだけが家庭教師の難点っていえば、難点。
(は~~、このオレンジジュースを飲み終わったら、家庭教師が待つ図書室に行かなければ・・・。)
そんな中を、いつもは冷静な執事のチャンドラーが息を切らせて小走りにダイニングルームにやってきた。
「チェンバレン卿がキャスでお亡くなりになったという連絡が!」