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オーク材を使った大きな王座。

王座には美しいベルベットの座面も、金彩も、宝石も使われていない。

唯一、ツタの文様が繊細に彫刻されている。

使い込まれ、黒光りするその硬い王座に、きらびやかな金刺繍を施した赤い豪華なローブをつけた若い男が座っていた。

 男の銀髪は腰まで長く、後ろに1本にまとめられている。

その目の色は薄い青で、表情がなく何を考えているか分らない。

右の手の甲には10cmほどのツタの文様が浮かび上がっている。

右手の指をひじ掛けにタップしながら、左手はその表情のない顔を支えている。


 「皇太子殿、私がキャスへ、ですか?」

アンリは床に膝をついたまま、頭をあげ、王座に座っているディンをまっすぐに見た。

アンリは真っ黒の礼服に身を包み、手にも白い手袋をしている。礼服はハイカラーで、首元の文様も少ししか見えない。

 アンリの文様を目のあたりにすると機嫌が悪くなるディンなので、出来るだけ文様は隠すようにしていた。

 モントロール王国、第一皇太子、ディン マルセル サン クレモンは、薄いくちびるをうっすらとあげて、「視察だ」といい、隣に立っている太った男から書類を受け取ると、それをアンリの足元に投げた。

 「執務もほとんどせず、遊んでばかりだというではないか。 なら、キャスへの視察はぴったりだろう」

ディンの言葉に、ディンの横に立つ太った男がくすりと笑った。

 「宰相、快楽と欲望の町、キャスはアンリにピッタリだと思わないか?」

ディンは隣に立つ太った男に言った。

 「南洋の真珠とも呼ばれていますから、見目麗しいアンリ様にピッタリかと」

宰相は恭しく答えた。


 「キャスは南洋の玄関口だ。 冒険者の出入りも多い。 街はギルドとカジノ、売春街で成り立っている。それをうまく舵を取っているのが私の盟友でもあるキャスの領主 アングル公爵だ。 彼には二人の年頃の妹がいる。会ってこい」


 アンリは立ち上がり、一礼して謁見室を出た。

王が生きているにもかかわらず、ディンが王座に座るようになって、ずいぶん経つ。

自分の両端を歩く騎士の服装は、白地に肩に竜の金刺繍。 白騎士団。ディン派だ。


 やっと自分の執務室に戻ると、白い騎士たちは慇懃無礼に例をとるともと来た道を戻っていった。

 執務室には、いつもの通りテランスとコーエンが待っていた。


 「なんでこの時期にキャスに視察に行けと?」

テランスの言葉は、まさにアンリが言いたい言葉だ。

 「アングル公爵の妹御たちは年頃だ。 それと見合わせようって云うんじゃないのか?」

アンリがボケたように言う。

 「あほか! 陛下の様態が悪くなったからに決まっているじゃないか!」

コーエンはそう言うとアンリの頭をはたいた。

 1週間ほど前から、父親である国王陛下の様態が急激に悪化した。

アンリも見舞いに行ったが、誰が呼びかけても反応がない状態だった。

医者は、魔道具の力をもってしても、長く見積もってもあと1カ月と言っていた。

 「陛下がお隠れになった時に、アンリが王都にいると面倒ってことか」

テランスは言う。

 「それか、暗殺計画か。」

コーエンはそう呟いて、「いや、それはないか。 お前を殺せる人間はいないしな」と続けた。 

「お前の魔力が勝手に体を治療してしまうからな~」

アンリはそのてランスの言葉に大きくため息をついた。

 そう、自分はそれ相当な事がなければ死ぬこともかなわないのだ。

アンリは、自分に向けられた過去の数々の暗殺失敗の記憶を頭の隅に追いやった。


「だがアングル公爵は独自の軍を持っているという。 それも腕のいい冒険者が多いという話だから暗殺はなくとも、拘束、幽閉なんかはあり得るんじゃないか?」

テランスはつぶやいたが、

 「だが第2皇子を幽閉したら、騒ぎが起こるだろうから、無理か」

と、続けた。

 「だとしても気をつけるに越したことはない。 供は黒騎士団から連れていけるのか?」

コーエンが言う。

 「いや、白騎士団直々だそうだ」

アンリは大きなため息をついて言った。

 「ディンのやつ・・・・」

コーエンは敬称を省いて言った。

 「奴の考えていることはお前から王位継承権を奪おうってことだけだ。 護衛が奴の息がかかっている白騎士団なら、いろいろ工作もできるだろうさ」

テランスの筋肉な脳でもわかる、その単純さ。

「だから、俺は立太子しないと言っているじゃないか!」

アンリは小さく叫ぶ。

「お前の意思は関係ない。 その文様がそうさせるんだ」

コーエンは左の頬まで続いている文様を見上げて言った。

「ただの先祖がえりだって。 それも制御できないし」

「しかし、もう制御できるじゃないか」

コーエンはアンリの吐き出された言葉に小さくつぶやいた。



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