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私はいま、屋敷の工房にいる。
1年前に屋敷の敷地内に鍛冶用の工房を作った。
鍛冶の練習を始めた当時、工房は屋敷の地下にあったのだけど、魔鉄の生成にはどうしても太陽がいるので、温室みたいな工房を庭に作ったのだ。
屋根がすべて大平貝製で、光がさんさんと降り注ぐ。工房の右半分には、直系1mもある光属性の魔石のレンズ。
これがとにかく高かった…。魔鉄剣1本の値段だった…。
でも、このおかげで、大量の魔砂を魔鉄に生成出来るようになった。
今も、レンズの下には、真っ赤に溶解した魔砂が大きな石瓶に入っている。
私は石瓶を心持ち斜めに動かし、溶解した魔砂の銀の部分(=魔鉄部分)をべつの容器に流し込んだ。こうやって、魔鉄部分と真っ黒ないらない液体部分を分けるのだ。
そのあと、魔鉄を刀の形の型に入れ、成形する。
そして、手のひらサイズのレンズが装着された、テーブル大の携帯炉(足に車輪が付いていて移動可能)に刀を照らして少し柔らかくしながら、金づちで鍛錬していくのだ。
ただ、冬場は太陽の光が弱まるので、生成に時間がかかる。
今は11月も終わり。
やばい、1カ月の期日はもうすぐだ・・・・。
注文された両刃は、何度も何度も火入れをし、鍛錬し、普通の物の3倍近くの大きさ、重さになっている。
それでも、頼まれた重さの4分の3だ・・・・。
柄も作らなくちゃならないし、さやも作らなくちゃならない。
剣も研ぎを入れなければならないし、もちろん意匠も・・・・・。
やべ~~よ。どうしよう??
私は11月の肌寒い季節なのにもかかわらず、上はタンクトップ、下はつなぎの上の部分を腰に巻いて作業をしていた。
つなぎはこの世界にはない。 前世の記憶を思い出して特別に作ってもらったものだ。
これが、非常に作業に適している。 楽だ~~。
そして、頭にはねじり鉢巻きをして、汗が流れないように止めている。
ってのは、鍛冶仕事、鉄を溶解するので冬でも暑いのです。
でも、だからこそ、恰好がどこかの親父っぽくなってしまうのはしょうがないですよね?
ねじり鉢巻きでは抑えきれない汗が、額から流れる。
私はそれを腕で拭いながら、「も~、しょうがない!」と叫んでいた。
重さ、4分の3、これが私にできる限界だ!!!
今から研ぎ入れて、柄つくって、さや作って、意匠を彫刻して、ってやってももう間に合わない!!!!
もう、知らん!!!
私は、そのやたらと思い魔鉄剣を持ち空中に振り下ろした。
「重さは4分の3だけど、持った感じもよい剣だよ! もう、研ぎ入れちゃう!!!」
そうひとりごとをつぶやいて、魔鉄剣を作業台に置いた。