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それから、2年後。


*** 

 「これが噂の律印・・・・」

 銀色のきらめく細めの剣を見つめる目が8つ。

全員がかっきりとした黒い制服に身を包んでいる。

肩の部分にはフェニックスの金刺繍が光る。


 ここは王都、黒騎士団の練習場。

モントロール王国には騎士団が2つある。

黒騎士団と白騎士団。 

騎士になれるのは、貴族だけ。

だが、その訓練は熾烈なもので、一般の軍隊にも勝るといわれる。

その黒騎士団の騎士たちが、練習場の片隅で、ごちゃごちゃ、何かをやっている。


 いかつい黒騎士団の若い騎士たち4人は律印入りの一本を含む3本の剣を見比べていた。


 「どうやって手に入れたんだ?? 今は予約注文さえも受け付けてないって言うぞ」

「そうだ、そうだ! あまりの注文の多さに、後3年は無理って聞いているぞ! 偽物なんじゃないか?」

 「実は、俺の叔父がベルナルドで村長をやっててな、律印が全国的に有名になる前にすでに予約を入れていたんだ。 それを頼みこんで、頼みこんで、頼みこんで、最後は俺が黒騎士団の騎士だから、本家の誉れ、ってことでなんとか回してもらえたんだ」

 律印の剣を持つ若い騎士は得意そうに言った。

 「いくらした?」 もう一人が言う。

「それは言えないよ」

「噂では、投げナイフが700万カム(=700万円ぐらい)って聞いたぞ」

「まあ、ナイフはそんくらいの値段だろうな。 剣はもっとさ。 料金は親父に生前贈与って形でなんとか頼んだんだよ」

男はその細い剣をいとおしそうになでた。 剣のさやも魔鉄でできていて、装飾の唐草模様がきらりと光る。 そのさやにも「律」の刻印とナンバー89の文字が見える。 ナンバー89=89本目の剣だ。

 「おまえの領地は羽振りがいいからな~。俺のとこみたいな貧乏貴族じゃ、律印どころかM印も無理だよ」

 一人の男がそう言って、目の前に並んでいるMの刻印が入っているもう1本をうらやましそうに見た。

 「やっぱり、ローム製やセス製のものより、M印のほうが性能がいいのか?」

もう一人の男がたずねる。

 「ロームやセスは、魔石剣だったら一流なんだろうが、魔鉄剣は今一歩だよ。まだM印のほうが魔法の吸収力がいいぞ。 でも、魔鉄はやっぱり律印が一番だろうな」

そう言って、律印の持主は、剣さやから外しを練習場に向けてふるった。

すると、バキバキっという音を立てて剣から落雷が起きる。

剣を振った騎士の魔力の属性は光と水。 だから雷だ。

 おおお~!と3人は大声を上げる。

「お、やっぱり刃が折れない! 幻の律印だ!」

「すげ~な~。ほしいな~~。」

4人は律印の剣を囲んで、雷を落としても全く変わらない、きらめく銀の剣を見つめた。


 「おい、ホーランド、 お前、ずいぶん魔力が強くなったんじゃないのか?」

 「団長!」

4人はピッと敬礼すると、団長と呼ばれた大男の前に並んだ。

 同じ黒の制服に肩にはフェニックスの刺繍。

だが、制服は着くずれ、喉もとから中の白いシャツが見える。

そのシャツも首元のボタンは外れてて、筋肉質の肉体が見え隠れしていた。

 髪の毛も制服と同じ黒、瞳の色も黒。

その瞳がきらりと若い騎士の持つ細身の剣に向けられていた。

 「すごいサンダーだったな」

団長と呼ばれた大男はゆっくりと4人の若手の騎士のところに歩いてきた。

 「いえ、自分はこんな大きな魔術を放つ魔力はありません! 魔鉄剣です」

律印の魔鉄剣を持つ騎士がそう言って、魔鉄剣を団長に差し出した。

 「へ~、これが、噂の幻の律印。はじめてみた」

 団長と呼ばれたテランスは、その細い優美な剣を受け取った。

右手を包んでいた白い手袋をはずし、じかに剣の柄を握る。

その右手の甲から手首にかけて20cmほどのツタの文様が浮き出ていた。

 「ずいぶんと軽いな。 上品な作りっちゅうか、力で押す剣っていうより、速さで勝負的な剣なんだな」

そう言って、団長は剣をさやから抜き、練習場に向かって振った。

 いきなり、ご~っという音とともに、火炎砲ののような炎がほとばしった。

「うわ!」

それを見ていた4人の騎士が一斉に声を上げる。

「でかい!」

 炎を出した団長もびっくりしている。

 「すげ~威力だな。 詠唱もなしで。 魔石剣でもこんだけの炎、出せねーぞ、俺」

4人は興奮して叫び声をあげている。

 「それにしてもすげ~な~、刃も割れないし」

団長はその細い剣をじっくり見つめた。

刃こぼれもなく銀色にきらめく剣は、それだけで美術品のようだ。

「セスのところの魔鉄剣は、何度か魔術を放ったら折れちまったんだよな」

テランスは思い出したようにつぶやいた。

 「団長、セス印を持っていらっしゃるんですか?」

一人の騎士が聞いた。

 「持ってたんだけどよ、数度魔力を通したら、割れちまったんだよ」

 「そうなんですよね~。 連続してなが~く魔力の媒体として使えるのは律印にだけなんですよ。 魔術の防御なんて律印は100発100中ですよ」

律印の持主は得意そうに言った。

 「なら、俺が魔術をかけるから、受けてみせてよ」

団長はそう言って、律印を騎士に投げるとそれにめがけて詠唱を始める。

 「ええ~~! 団長、ちょっと待ってくださいよ!」

その若い騎士は持たされた律印を持ちながらも団長から逃げるように駆けだした。

それを気にせず団長はファイヤーボールを騎士に投げた。

 「うわ~~!!」


 その炎の玉は見事に律印に吸収されていった。

 「すげ~な~」

テランスはその魔力吸収の軌跡を見て、つぶやいた。

 いきなりこの国でも有数の魔剣士と呼ばれるテランスの一撃を受けた若い騎士はびっくりして地面に座り込んだままだ。

そのそばにテランスは立つと、

「おい、その剣、貸せ!」

と言って、腰を抜かしている騎士から剣を奪い取った。

 「団長~~、頼みますよ~~」

団長の足元で泣きつく騎士を足蹴にして、テランスは律印を手に入れた。



 「結構、剣としての切れ味もいいじゃん」

テランスは一人、室内練習場で藁人形を切り裂いて言った。

スパッと藁人形は肩から腰にかけて、真っ二つになっている。

 「でも、俺にはちょっと軽いかな。 もう少し重くてごついほうがいいんだが」


 「それにしても面白いよな~。剣として使おうとすると魔術は発動しないんだな。 セスの魔鉄剣の時も思ったが、詠唱なしで魔術が展開するってどういうことだよ。 もしかして、剣に意思が伝わるのか?」

テランスは自分の言った言葉にびっくりした。


「剣に意思が伝わる?? それに魔術の吸収も・・・。 でも、これは・・・」

 テランスはじっと剣を見つめて一考すると、急ぎ足で室内練習場を後にした。



 「分りました。 あなたの筋肉な脳みそをフル回転して考えたんでしょうから、私も調べてみますよ」

 紫色の長いローブを頭からかぶった小柄な男がテランスを見上げて偉そうに言った。

 「相変わらず、嫌味な奴だな。 人を馬鹿にしやがって。 政治にかかわるやつはみんなねちねちねちねち・・・」

 「別に好きで政治にかかわっているわけではありません。 私は魔術師です。 政治家ではありませんから」

小柄な男はそういうと、テランスが持っていた律印を奪い取る。

 テランスは名残惜しそうにその剣を見つめながら、大きなため息をついた。

 「そういいながら、政治にどっぷりつかってんじゃんか」

小柄な男はテランスの言葉を無視して、自分のフードをはずしメガネをかけなおして、律印のさやを見る。

小柄な男の金髪の細い毛が邪魔なのか、白い手で耳にかけた。

その右手の手の甲にもツタの文様が浮き出ている。

テランスのものと違い、ツタは何本も絡まりながら手の甲中に広がり、手首を超えて、ローブの中まで続いている。

 「しょうがないじゃないですか、私が動かなければアンリはどうなりますか。」

そう呟く魔術師に、テランスは小さなため息をついた。

 「それにしても繊細な意匠ですね。 唐草文様。 制作者は魔術師ですか?」

「いや、制作者についてはよくわからん。 でも、確かにツタ柄を基にした唐草文様を使うってことは魔術師なのかもな。 だが、俺が言いたいことはそうじゃない。 もし、この剣が持主の意思を反映するのであれば・・・」

「そうですね。 そんな夢みたいなことがあるとは思えませんが、調べてみる価値はあるでしょう」

そう言って、筆頭魔術師 コーエンは律印をローブの中にしまった。


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