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私は何点か魔鉄の剣やナイフや防具を作ってみた。
不思議なもので、私自身が剣を握るからだろうか? 防具より、剣のほうが作りやすい。
第一、全身を覆う防具を作るには手に入れられる魔鉄が少なすぎる。 いまだに磁石で地味に集めているのだから・・・・。
それに、面白いことに私にとっては鉄を鍛錬するより、魔鉄のほうがずっとやりやすい。
自分の思った通りの形に剣が形成されていくのを見るのは楽しい。
ほとんどの作業を屋敷でやるようになった私は、一人、夜に黙々と作り続けた。
マックさんも魔砂を魔石レンズで溶かし、何本かナイフや剣を作った。
私たちはこの魔鉄がどういう性質があるのかまだよく分かっていなかったので、何人かマックさんやチャンドラーのお知り合いの猟師さんや冒険者サンたち、そしてもちろん自分たち自身も使ってみることにした。
この世界には魔石剣というものがある。魔術剣士と呼ばれる人たちが使うもので、恐ろしくお値段が張るといわれている。 1本買うのに家一軒分のお金がかかるらしい。
剣のグリップ部分に魔石が組み込んであって、魔力を持つ人の力を剣から発生させるのだ。
もし火属性の魔力を持っている人なら、火属性の魔石を組み込んだ剣を使うと、剣から炎が出るとか、まあ、そういう感じだ。
魔石剣から魔術を発生させるためには持主の魔力、剣に魔力を伝える魔石、そして魔術を発生させる詠唱が必要だ。
相当の魔力がある人でない限り、攻撃魔術を発生させるためには媒体が必要だ。 その媒体の一つが魔石剣である。
剣術使いでもあり、魔力もある、となると、軍お抱えの人間がほとんどで、一般の冒険者などにはいない。だから、私は魔術剣士も魔石剣も見たことがない。
この話はすべてはマックさんからの受け売りだ。
ただ、魔力を剣に通させるので、剣がもろくなりやすく、そのため硬度を高めて鍛錬しなければならず、相当の技術がいるといわれている。
普通の鍛冶屋ではまず制作は無理で、それ専門の特殊な鍛冶道具がいるそうで、モントロール王国では王都に何軒か制作できる鍛冶屋がいるくらいなんだそうだ。
でも、私の作った魔鉄の剣は魔力がある人が使うと、もしかしたら魔石剣のような効果が出るんじゃないか、と、マックさんは言った。
魔力を吸収するんだから、魔力を放つこともできるんじゃないか?ってことなんだけど。
でも周りに魔力を持っている人がいないので、ベルナルド支社のギルド長に内々に誰か、魔力持ちの人に試してもらえないか、打診した。
ギルド長はつてを頼って、ほんのちょっとの火属性の魔力を持つ女性を領外から連れてきてくれた。
彼女の魔力はあまりにも小さくて、魔道学校への入学には至らなかったらしく、そのまま普通の主婦として暮らしているらしい。
その彼女の元へマックさんに行ってもらった。
彼女にナイフを持ってもらったら、ナイフの先が赤くなり、高熱を持ったそうだ。
そのまま肉を切ったら、切るというより焼き切るといった感じで、力を入れなくてもふわっと肉が切れてしまったという。
その人は火属性の魔力を持っているから、こういう形で現れたんだろうとマックさんは言った。
魔鉄はどうも属性がないらしく、魔力を持つ人の属性が反映されるんではないか?とも。
他に魔力を持つ人間が近くにいないから確かなことはわからないが、私はほぼ100%の確率で全属性なんだろうと考えていた。 だって、魔石みたいに属性の色が付いてないもん、魔鉄。
その女性は詠唱なしで魔術が展開したことにびっくりしていたそうだ。
普通は詠唱しないとだめなんだって。 いや~、びっくりだね。
その上、相手の放ったどんな魔術も相殺してしまう力がある、吸い取ってしまう、というか。
それにしても面白いのが、どうも私の作ったナイフのほうが魔力の伝道がいいみたいなんだよね。 マックさんの作ったものでは魔術が小さく出るらしい。
その上、相手の魔術の吸収も半分ぐらいの確率らしい。これは魔物狩りに行ったギルドの冒険者たちがチェックしたそうだが。
「なんでそんなに違うわけ?」
「それは俺が知りたい」
マックさんはいい大人なくせにぶーたれて言った。
マックさんも理由は全くわからないらしい。何本も魔鉄で剣を打ち、いろいろ試してみたらしいのだが・・・。
マックさんは何度も私が魔鉄を打っているところを見に来て、私のやり方をチェックして、同じ材料を使って同じように何度も打ってもやはり、駄目なものはだめだったらしい。
「でも、それでも、普通の剣としてきちんと使えるし、半分でも魔術を相殺出来て、いざ大変!ってときには剣から全属性の魔術も出せるわけだし、普通の剣よりはずっとすごいじゃないですか!」
ジーンはがっかりしているマックさんの背中を叩いて言った。
とりあえず、できた魔鉄剣、数本はマックさんのお店に置いてもらい、すべてマックさんの工房で作っているという形で売り出すことになった。
でも、マックさんの鍛冶商品のMマークを入れるのではなく、私のは「律」という銘を入れて。
「律」、私の前世の名前。
これはただの感傷だよな~。
でも、自分のブランドを作るとなったときに、なんとなく自分の前世の名前が浮かんだんだ~。
と、ブランドの名前は作ったはいいが、肝心の商品数がとにかく少ない。
私はどう頑張っても1週間に1本ぐらいしか剣を作ることができない。
それに、この剣がどのような作用をもたらすかも分らないという、不安もある。
なので、マックさんとチャンドラーと相談して、制作した魔鉄品の目録を作り、売り先は懇意にしている猟師さんや冒険家さんたちなど、武器や魔法にある程度免疫のある人だけにした。
マックの剣はマックの鍛冶屋の刻印「M」が入り、私のは「律」というこの世界にはない漢字の刻印が入る。 その上、、一本一本にナンバーを打ち、目録には剣の形状、ナンバー、買主のディテールを入れ、買主には魔鉄剣のことで何かあれば必ずこちらに連絡するという、条件で売るのだ。
それで、魔鉄の性質を継続してチェックできる、というわけだ。
それでも、どうもあの猟師さんやギルド関係者から話が漏れているのか、噂を聞いて、売り出す前から、内緒で売ってくれないか?とか、マックのところには問い合わせが結構来ているらしい。
でも、値段はどうするんだ?
魔石剣が家一軒なら、魔鉄剣はもっとしてもいいんじゃない?と思うのは、私の頭が会計士状態だからだろうか??
マックさんはそれに対して一つの提案を出した。
「もちろん、うちの店でも売れると思いますが、こんなに特殊な剣だ。 ここベルナルドだけでなく、全国的に売り出しても相当な需要が見込めると思うんですよね。 ここはひとつ、全国に販売網を持つアンガス商会に連絡付けてみてはどうですか? 売り込みですよ、売り込み!」