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あのくそ叔父が死んでから2年、 3回目の夏がやってきた。

屋敷の畑には夏野菜がたわわになり、収穫に大わらわだ。

 最近はお母様も少し外に出て、私たちを外で眺めるようになった。

屋敷の畑は日差しの強い南側にあり、お母様のお部屋からだと見ることができない。

一人で寝室で寝ているのがさびしいのか、最初は寝椅子を外に運んでもらって、日陰から私たちの作業を眺めてたり、貸本屋からある理由で無料で借りている本を読んだりしていた。

 外に出て新鮮な空気を吸っているからだろうか、少しでも太陽にあたっているからだろうか、最近、お母様の体調も良くなっているような気がする。 発作もあまり起こしていない。

 このまま、元気になってくれればいいのに・・・・。


 お母様も本当は私たちを手伝いたいみたいなのだが、やはり強い日差しの下に出るとくらくらするらしい。

 私は日に焼ける体質ではなく、焼けると真っ赤にはなるが黒くならない。

その代わりにそばかすがいっぱい出る。

 お母様はそんな私に古いカーテンを使って帽子を作ってくれた。

私はそれをかぶって毎日作業をしていた。



 太陽が真上に来ている3時間は、あまりの暑さに畑仕事ができない。そんな暑さの中、作業をしたら日射病になってしまう。

 そんな時はお母様のいる木陰に行き、隣に座ってお母様とおしゃべりをする。ジーンが一緒に座るときもある。時々、お母様は読んでいらっしゃる貸本を私たちに朗読してくれた。


 私はお母様が使っているメガネを手にしてくるくる回しながらお母様の朗読を聞いていた。

このメガネは、お母様のお母様(=私の祖母)の形見で、珍しい光魔石でできている。

 この世界にはガラス、というものがない。

窓にはめられているガラスは前世のガラスとは違い、大平貝という貝を薄く縦割にしたものが使われている。私はこの世界で海をまだ見たことがないからこの太平貝の実物を見たことはないが、幅が1mぐらいある巨大な透明の平たい貝なんだそうだ。

前の世界でガラスを使うような物のほとんどをこの世界ではこの貝で作られるらしい。 もちろんメガネもそうだ。

ガラスとこの太平貝の違いは、太平貝のほうにはうっすらと縞が入っているぐらいだ。 だからメガネにもうっすらと縞がはいるんだが、かけ続ければその縞にもなれるそうだ。

 だが、お母様の持つこのメガネは貝製ではない。これは魔石でできている。

光系の透明な魔石で、暗いところでも明るく見える特徴がある。

幼い時から本が大好きで、そのせいか近眼になってしまった上にひどい鳥目(暗い所でよくものが見えない)のお母様のためにおばあ様が特別に造らせたものだという。

 家の財産をすべて売っぱらった時、お母様はこのメガネも売り払うようにおっしゃった。

でも、体の弱いお母様の楽しみと言ったら、本を読むことと刺繍をすることぐらい。このメガネは必須だ。

 だから、このメガネはお母様の手元に今でもある。


 お母様が朗読してくれていた話はこの国の有名な英雄伝の一つで、ジーンも好きな話だ。

前にも書いたが、この国の文盲率は非常に高い。 ジーンもなんとか簡単な単語が分かるぐらい。きちんと文字を教育をされる人間のほとんどは中流以上の階級の人間で、それもたしなみのためのものがほとんどだ。

専門性を追求するような学問に就きたい場合、王都で学ばなければならず、専門の本も王都でしか手に入らない。 

 本屋自体も数が少ない。 というのは、本自体が高価だからだ。

その代わり、貸本屋というのが各村にある。 難しい話の本や専門書なんかは全くないが、万人に好かれる、英雄伝、ロマンス物、冒険談なんかをたくさん扱っている。

 貸本は、もちろん本を買うより安いが、とっても安いわけではない。

 でも、私たちは無料で貸本屋から本を借りていた。というのは、お母様が貸本屋用に写本をしてあげる代わりに、本をただで借れるようになったからだ。

 文盲率が高いこの世界、文字を読むことができても書くことができないという人も結構多い。

お母様は高価な本を、大きなはっきりとした文字で写本して貸本屋に渡している。 

この世界には印刷技術もあることはあるのだが、どうも活字というものがないらしい。だから、ガリ版みたいな感じの手作り感あふれる印刷物がほとんどだ。

そのガリ版も材料が少ないのか、ベルナルドのような辺境になると、貸本屋の本は手書きの写本のことが多くなる。 

 母のこのささやかな内職は貸本屋も喜んでいる。 高価な本を写本して、何冊も貸し出せるんだから。



 いま、お母様が借りている本は、この国を建国したサンクレモン王家の始祖、ジュピターと魔物の対決の話だった。 これは物語半分、史実半分といった内容で、まさしく英雄伝という感じだ。

 モントロール王国は元々魔の森に覆われた、魔物が多く住む、人間が住むにはなかなか厳しい土地だった。

肥沃な土地、温暖な気候でありながら、非常に危険な魔物が群れを作って巣食っていたため、人間は海岸沿いに小さく固まって暮らしていたらしい。

 そこにジュピターが生まれる。

生まれながらの大魔術師と言われ、魔物を追い払い領土を拡大し、今のモントロール王国の基礎を作った。

 ちなみにベルナルドがあるここはモントロール王国の辺境と言われ、魔物の森に隣接している。

山脈を越え、森の奥深くに行くと魔物の巣がある、と言われている。


 私はお母様の朗読を聞きながら、地面に土を盛り、磁石で魔砂を集めていた。

これは今ではもう私の癖みたいなもので、暇があるとちょこちょこと魔砂を集めている。

魔砂だけはいっぱいたまっていて、樽に何個もある状態になっていた。

今では私だけでなく、村の子供たちも遊びのついでに集めてきてくれたりして、屋敷に持ってきてくれる。

 どうも私の壮大な実験を鍛冶屋のマックが面白おかしく領民たちに話しているようだ。 

あの、私に小石を投げ付けた少年も、実は私に知られないようにしながらも集めてくれているらしい。

私の髪の毛はちゃんと役に立ったようだった。 あの髪の毛はお金に変えられ、少ないながら、彼らの食費になったと聞いた。

あの親子も、なんとかあの悲惨な年を超えることができ、今年はそれなりの収穫が望める状態だと村長から聞いている。


 それにしても不思議なもので、この畑でもずいぶん魔砂を集めたのだが、なぜか湧くように魔砂が出てきて、集めつくすということがない。

 魔砂ってどうやって出来ているのだろう?? なにもないところから生まれているのかしら?


 私は、手で集めた小さな黒い土の山に磁石を突っ込み、そっとそれを引き揚げた。

磁石の先にはきらきら光る砂が連なるようにひっついてくる。

 そしてさっきの土の山のてっぺんに窪みを作って、その魔砂を落とした。

黒い土の上にきらきらの花を咲かせたような感じに魔砂は落ちた。

 そこに何気なくお母様のメガネで太陽の光を集め、魔砂に充てた。

 「レンズって太陽の光で火を起こせるんだよね、確か」

私はジーンに言った。

 「お嬢様、危ないです!」

ジーンはそんな私の行動を見て大声で叫んだ。

 「光の魔石で太陽光を集めると爆発するんですよ!」

 「へ?」

私はメガネで集まった光の先を見た。

その強い光は煙を出して魔砂を焼いている。

魔砂はどんどん溶け、銀色の溶液が浮かび上がってきた。

 「あれ??」

私たち3人はその様子をじっと見つめた。

 「普通、光の魔石の光が集まった先のものは爆発するんですが・・・・」

ジーンはそう呟いて口をつぐんだ。

 銀色の溶液はどんどん膨らみ、膨張ラインを超えて、土の山から流れ落ち、冷めながら固まった。

土の山のてっぺんには真っ黒なヘドロのような液体が残っている。

 「融けて、分離したんだ・・・・」

私は冷めた銀色の魔砂の塊を手に取った。

 「これを鍛錬したらどうなるんだろう??」

その小指の先にもならない小さな銀色の塊は、私の手の中できらっと虹色に光った。


 ちなみにメガネのレンズで集めた光を、手先がくるって土の山に向けたら、土の山が小さく爆発しました・・・。

土は私の顔にブハっとかかりましたよ。


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