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以前はこの屋敷にも図書室があり、それなりの本がたくさんあった。
私は、何度も火入れをして失敗した魔石の塊を手に図書室の空っぽの棚を見上げた。
なんか、鍛冶関係の本でも残っていたら、と思ったのだが、やっぱりすべて売り払らわれていた。
まあ、当たり前か。。。。
この世界、本の値段が異常に高い。
ってのは、文盲率が高いから。 あんまり文字を読める人がいない。 文字が読める人ってのは、ある程度のお金か地位がある人たちなのよね。
だから、本もそういう人たちに合わせてお高く作られている。表紙も革表紙だったりして。
この世界、基本的に娯楽が少ないと思う。
TVもない、ラジオもない、文字も読めないから本も読めない、ってなると、娯楽は本当に少なくなる。音楽とかも楽器は高いから、歌だけ、とか、そういう感じ。
「私も娯楽がほしい!」
ちょっと叫んでしまった。。。
っていうか、娯楽をしている時間がないってのが、正直なところだけど・・・・。
我が家に残っている本らしきもの、と言えば、代々の前世持ちの領主が残した何冊かのノートだけ。
これは、初代ベンジャミンからはじまって、前世持ちはできるだけ覚えている前世について、かきとめることになっているのだけど、使われている文字がモントロール語だけでなく、前世の言葉で書かれているところもあったりして、私には読めないものもある。
ベンジャミンの文字は英語なのはわかる。 きれいな字とは言い難く、その上英語が得意でなかった私には英語部分は完璧には理解できない。でも、彼のノートはモントロール語でも書かれたところも多いので、それを読んで英語部分も想像して、なんとなく理解できているような気がする。
2代目バジルになると、モントロール語+英語もあるんだけど、多分、フランス語とか、ドイツ語とか、そういう言葉なんだろうな?っていう文字も入ってくる。 アルファベットの上に点がついたりしているから。
こうなると、私には手も足も出ない。
そして、5代目リーアのものになると、もう、何語なのかさえ分からなくなる。 モントロール語以外はまったく読めん!ミミズが貼っているような、アラブ系っぽい感じ?
もちろん砂鉄の作り方なんてのは、このノートにはかいてありませんでした・・・、多分。
とりあえず、週1の鍛冶屋の弟子入りは、もちろんちゃんとやっている
実は、結構鍛冶屋の仕事、楽しかったりするんだ。 これがある意味娯楽と言えるほど。
真っ赤な鉄が私の力で形を変えていく。それが単純に面白い。
領地の運営の不安とか、お金がないこととか、そういうことも金づちを持って鉄をカンカンと叩き続けていると忘れてしまう。
私はまだ鍬とか、そういうなんていうの? 技術がなくても形だけちゃんとしてれば役に立つようなものの制作や剣みたいなものしか作っていない。でも、楽しい。
実際に自分の作ったものを使ってもいる。ジーンも畑仕事に重宝するわ、と言ってくれているし。
実は、マックから道具を借りて、屋敷の中にも小さな鍛冶工房を作ってみた。場所だけはたくさんあるからね、うち・・・・。
それにしても魔砂、なんとかならんもんかな…。
手に持った魔砂の塊に「なんとかなってよ」と話しかけてみても、もちろん答えはない。当たり前ですね。
異世界で魔法なんかがあるファンタジーな世界なのに、やっぱり石はしゃべらないのね~~。