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ガサっ


ばさばさという鳥の飛び立つ音が続き、うっそうと生える草のなかから黒い影が見えた。


 「イノシシ型の魔物、レッドボアです。レベル3、単体でも相当力がある」

チャンドラーが声を低くして私につぶやく。

私たちは体を低くして、剣に手をかけた。



 魔物と目があったとたん、魔物は口から火を吐いた。

その火の玉は私とチャンドラーのちょうど真ん中あたりに着地し、ドン!という火薬のはぜたような音を出した。

 チャンドラーは剣を両手に持つと、じりじりと魔物に近づく。

魔物は、私とチャンドラー、両方を目でとらえ、どちらに攻撃するか見定めているようだ。

 アッと思った時には、魔物は私のほうに突っ込んできた。

 レッドボアは牙に魔石が宿る。 火の玉を吐いたということは火属性の魔石が宿っているはずだ。

しかし、レッドボアは、肉も売れる。 毛皮も売れる。いいとこどりの魔物だ。

ただ、向こうもレベル3、ぼやぼやしていたらこっちの命も危ない。

 私は突っ込んでくる魔物を体をひねってやり過ごし、回り込んで振り返るようにして剣を魔物に打ちおろした。

 「ブキッー!」

 魔物は叫び、力技で私の剣を引きずるように背から引き抜くと、森の中に一目散に走り出す。

私の剣は魔物の血に濡れ、持ち手がぬめった。

私はそれを無視して、魔物を追いかける。

チャンドラーと私は全速力で魔物のあとを追う。

 草や蔓に足を取られないように、足先を高く上げて走る。

初めのころは腿が筋肉痛になったこの走り方も、最近では慣れた。

 魔物は気が狂ったように、けもの道を走り抜ける。

チャンドラーが先を走り、私はチャンドラーの後を離れ、脇の草むらを走った。チャンドラーと並行に並ぶように走る。

 魔物は私が付けた傷が広がっているのだろう、だんだんと足が遅くなっていた。


私は胸ポケットからナイフを取り出すと、魔物に向かって思い切り投げた。

 

「ギ!」

ナイフは魔物の尻にあたり、後ろ足のバランスが崩れ、魔物は転んだ。

魔物はすぐに立ち上がると、追いついたチャンドラーに向かって火を吐く。

その火はチャンドラーの腕にかかり、チャンドラーの革製の肘当てが焦げる匂いがした。

魔物はチャンドラーと対峙する。魔物の目に力が入るのが分かる。

 レッドボアは火属性だから、飛び道具は火だけだ。

ただ、本体も力が強く、体当たりされたらこっちの内臓が潰れる。

 魔物は大きく跳躍すると、チャンドラーに牙を向けた。

チャンドラーは腰をかがめ、その跳躍の真下に入り込み、剣を突き上げた。

剣の切っ先が魔物の腹をかすめる。

 私は、そのすきを狙って、飛び上がって魔物の首に向かって剣を振り下ろした。

 ガッという音で剣が魔物の首の骨に引っかかる。

魔物は最後の力を振り絞って、首から私の剣を引き抜こうとする。

私は、その力に引きずられて膝をついた。

剣が首の骨に引っかかり、抜けない。

チャンドラーはすぐに形勢を立て直すと、重い両刃を胴に振り下ろした。

 チャンドラーの剣は、骨に引っかかることなく、魔物を真っ二つに切り裂いた。


 はあ、はあ、はあ、はあ、


私たちの荒い息の音しか聞こえない。


魔物は息絶え、草むらに体を倒している。

私は引きずられた膝に付いた汚れを払った。

「顔に血が付いてますよ」

チャンドラーがこちらを見ながら言う。

「多分、走っているときに枝でひっかいたのかな」

私はほおを袖口でぬぐいながら言った。 手にはべったりと、魔物の血が付いている。

 私は魔物のそばに座り、お祈りを唱えた。

 「王の座の名のもとに、天に召しませ」

額を人差し指でトンと叩き、胸を叩き、そして魔物の額を叩く。

チャンドラーも私の隣に膝をつき、同じ動作をする。

その後、チャンドラーは立ち上がると、魔物の4本の足を紐でくくり、それを肩に担いだ。

 「匂い消しのハーブを焚くね」

私はポケットからハーブの束を取り出すとそれに火をつけた。血のにおいを消す煙があたりを漂う。

 「血の匂いは他の魔物を引き寄せます。」

 「分っているよ」

私はそう呟いて、さやから剣を抜き、血でぬめる剣を握りしめた。

魔物を背負っているのはチャンドラー。 だから、私が周りを警戒しなければいけない。

 私たちは足早に魔の森から出るべく、歩き出した。



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