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殺風景な屋敷だけになったけど、借金自体はなんとかなった!!

とちょっと嬉しい気分だったのもつかの間、その後も問題が山積みだった。

借金まみれのくそ叔父が管理していた領地は、もちろんその間、顧みられることもなく荒れつつあった。

 書類を整理するうちに、叔父に無視されていた村長たちからの陳情書を何枚も見つける。

私はそのたびに隣で書類を分けているチャンドラーを見上げた。

 チャンドラーは大きなため息をついて「何度も、チャンバレン様には申し上げたのです」と言った。

 「陳情書だけでなく、実際に村長様たちがこちらの御屋敷に足を運ばれた時も何回もあったのですが・・・・」

 陳情書には、灌漑施設が壊れて水はけが悪くなり農地にダメージが起きているから直してほしい、とか、去年の洪水で氾濫した河川の修理をしてほしい、とか、素人の私が見ても、やばいんじゃないか?っていう問題ばかりだった。

 「なんで、私に教えてくれなかったの??」

私はくそ叔父がクシャクシャにして送り返してきたのだろう、陳情書を手でのばしながら聞いた。

 「チャンバレン様から、チャンバレン様にすべて任せるように言い使っておりましたので…」

そう言って、チャンドラーはまた大きなため息をついた。

 今となっては、どうしようもない。 しょうがないが、腹が立つ。

 すべて、あの金銭感覚のないくそ叔父のせいだ! 

よく3代目は家をつぶす、とか言わなかったっけ?? あ、それは前世の世界のことわざか…。


 とにかく陳情書の中でも、とくに灌漑設備もお父様がなくなった後は何も手をつけられていなかったので緊急の修理が必要らしい。 それはチャンドラーも強く言っているのでそうなんだろう。

それだけでなく大がかりな土地改良もされることがなかったので、領地全体がだんだんと土地がやせて行き、領民たちも貧困すれすれのところにいるらしい。

 

私は、本当に何をしていたんだろう、と思う。

毎日家庭教師について、領地の管理の勉強をしていたのにもかかわらず、目の前の領地には全く目を向けていなかった。

 思えば、ほとんど屋敷から出ることもしなかった。

今年はいやに暑いな~と思っていたが、領地が干ばつに見舞われているなんて、そんなことも弁護士に言われるまで知らなかった。

 お母様はご病気で領地のことは何もできないし、領地はあのくそ叔父に任されていたとはいえ、私はここまでなるまで全く気がつかなかったのだ…。

 

帳簿に載っている作物の収穫は毎年少なくなり、反対に税率は自治領の法律を逆さにとったくそ叔父のおかげで少しずつ上がっていた。

これ以上税率を上げることは無理だ。 というか、下げなければ餓死する人が出てきてもおかしくない。


 これは、一度領地を見回ったほうがいいだろう。 というか、見に行かなきゃならないだろう。

そうチャンドラーに言うと、チャンドラーは顔をしかめた。

行ってほしくないのだろうな、というのは分かった。 

相当、領民たちの恨みを買っている、ということだろう。

でも行くのにチャンドラーは反対しなかった。 領主として見に行かなければならないことは分かっているのだから。

思えば、私は街 ベルナルドには行ったことが何回もあるが、領地を見回ったことなどなかった。

まだ子供だとはいえ、もう少し領主としての自覚を持っていたら、もっと早くに問題に気が付いていたのだろうに・・・・。

そう思うと、がっくりと落ち込んだ。


 私の持っていた乗馬用のドレスはもうない。 乗馬用どころか外出用ドレスもない。

あるのは、一般の女の子が着るようなコットンのシンプルな服と、お父様が少年時代に着ていた古い型の服ぐらいだ。 あのお父様の子供服を着て馬に乗ればいいか、と思い、はっと気がついた。

 馬もないんだ・・・・。


 「馬、ないんだよね、どうやって領地を廻ろう??」

私はチャンドラーを見上げて言った。

 領主なのに、領地を回るための馬もないなんて・・・・。

そう思ったら、自然と涙がこぼれてきた。

私は唇をぎゅっと噛んで唾を飲み込んだ。

 口を緩めたら嗚咽が漏れそうだった。


 なんというか…。

私はきっとこの頃、感情の波が激しかった、と思う。

基本、私は半歩下がって物事見る、外野的な人間なのだ。

だから、あんまり喜怒哀楽が出ない人間だと思っていたのだが。

 でも、とにかく涙もろくなっていた。

まあ、状況を考えれば、涙もろくもなるってもんですよね。



 「鍛冶屋のマックのところから荷馬車を借りてきましょう。 荷馬車でしたら私が御者をしますから」

チャンドラーは私の涙を見ないふりをして言って、私の頭をしわしわの手でぽんぽんと叩いた。

 

10年ぶりぐらいで、チャンドラーにそんなことをされた。

私に家庭教師が付いたぐらいのころから、彼は執事として、一歩下がったところに立つようになっていた。

次期領主として、礼節にかなうことなんだろうけど、子供だった私にはすごくさみしい思いしたのも確かだ。

 頭をくしゃくしゃになでられて私はすごくびっくりしたが、悲しい思いが引っ込んで、暖かい気持ちがふわっと広がった。

チャンドラーはそんな私ににっこりとほほ笑んで、「明日、荷馬車を借りれるように鍛冶屋に行ってきますね」と言った。

 鍛冶屋のマックとチャンドラーは幼馴染同士らしい。 


 

マックの持つ荷馬車の馬は、結構な年寄りで、こんな年を取った馬が荷馬車を引けるのか??と思ったのだが、馬はのんびりとではあるが、確実に私たちを領地へ連れていってくれた。


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