一二話 進む展開
――なんかさぁ。ちょっと展開が暗くないっすか? 昨日の話だって、それは違うでー、こころ。あ、そうですねー兄さん。で終わっていい話じゃない。僕だったらそうなってた。僕の恋愛はラブコメっぽいもっとポップで明るい感じでいくわ。
――なにがいくわだ、リング。まだ薬師寺いろ葉と話してもない分際で。
――それはミドルくんも同じじゃん。
ようやっと昼休みになった。いつも通り集まって教室で田中鈴木と弁当を食べる。
「そういえば、昨日の子は今日は来ないの?」
雑談の最中、ミニトマトのヘタを取りながらこっちに顔を向けて鈴木が聞いてきた。
何となく、教室の扉を見てみる。いる様子は、ない。
「今日は来ねぇみてぇだな」
ミドルの言うことを聞いたのか、それとも昨日のことでもう嫌になっちまったのか。
「……」
ま、それならそれでいいさ。
気を取り直して弁当の最後に残った白飯を食べきる。
「ちょっと行ってくる」
弁当箱を片付けて、二人に言い残して立ち上がる。さて。おい、リング。ラブコメっつうか、お望み通りここから明るい展開にしてやるよ。
――え? なに? まさかお風呂場に入ってキャー! ってなりに行くとか?
違ぇよ。学校からどこまで行くんだそれ。そうじゃなくて、美咲の所に行くんだよ。
教室を出て、美咲のクラスを入り口から覗いてみる。と、よし、いた。美咲は机を合わせて友達らしきやつらと飯食って笑ってた。
美咲はふと、こっちの方を見て、目を少し見開いた。オレに気付いたらしい。手招きしてみると立ち上がってくれた。と思ったら、オレの方を揃って見てきた友達たちと何かわちゃわちゃ話し始めた。声を落としてるのか何を言ってんのかは聞こえないがやたら盛り上がってるな。一人立ってる美咲は苦笑してる。なんか、首筋がそわそわするっていうか、いたたまれねぇな……。
――帰ったら?
ここで帰れるか。
やっと美咲がこっちに来た。「オッス」と手を上げると、向こうも「オッス、一樹くん」と手を上げ返してきた。廊下に出る。
「飯食ってる最中に悪いな」
「それはいいけど。どうしたの? 一樹くん、もう昼食べたの?」
「ああ、それはもう食ってきた」そういえば、こころを見習うならオレも昼飯に誘ったりするべきなのか? ……まあ、いいか。それはひとまず置いとく。「実は誘いたいことがあるんだ」
「ん? ん、んん……」
美咲はよくわからん微妙な反応をした。オレから誘われるってことにあんま乗り気じゃねぇのか? ……いや、だがここで言わない手はねぇ。ああ、いざ口にするってなると少しばかり緊張するな。
「あー……美咲、美咲さん?」
「美咲でいいよ」微笑まれた。
「今度の休み、オレと遊びに行きませんか? 二人で。つまり、デートってやつなんだが」
「あはは」
美咲が声を上げた。なんだ? 断るってことか?
「こうしてデートに誘われるってのは初めてだけど、なんだか恥ずかしいね。でもよかったよ。あたしの方から誘わないといけないのかな、と思ってたからさ」
美咲は後頭部に手を当てながら言った。そういうことか。
「別にそちらさんから誘ってくれてもよかったんだぜ? そうするのに足踏みするような性格でもないんじゃないのか?」
「おい、それってもしかしてあたしががさつ、みたいなことを言ってるのか?」
睨みつけてくる美咲に今度はオレの方が顔を反らして苦笑が浮かんで、軽く追い払うように手を振っていた。
「いやいや、まっすぐ一直線というか、そういうふうじゃないかと思ってよ」
「……そんなことないよ。それにさ、あたしだって誘うより誘われる方が嬉しいじゃないか」
美咲はニッと白い歯を見せた。
「ま、そう言ってくれたらオレとしても甲斐ってもんがある。……が、一応聞いとくとOKってことでいいんだよな?」
「うん、いいよ。で、デートって言ってもどこに連れて行ってくれるの?」
「それは、あー、まあ、……考えてねぇ」
「えっ? 行きたいところがあるから誘いに来たんだろ?」
「いや、誘うってことばかりに気がいってて、考えてなかった」
「なにさ、それ。まったく、しょうがないなぁ」美咲に手を腰に当てられて呆れられた顔をされた。
「いや、待った。……。じゃあ、街だ。街のほうに出よう。駅前で待ち合わせ。それでどうだ?」
口から出任せに言ったが、街の駅前ならなんでもあるし、なんとかなるだろ。
「いいよ。それじゃあ、あたし、まだ昼食べないと行けないから、戻るけど。その前に、待ち合わせの時間とか詳しいことを教えて欲しいから、連絡取れるように交換しとく?」
美咲はスカートのポケットから携帯を出してきた。
「ああ。頼む」オレもポケットに手を突っ込む。たまらなくいい気分がした。




