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男の申し出に同意したケインはモール内の避難民から作業員を選び出した。

12歳のクロードは力仕事からは外されて、万が一のために見張り役を任される。

モール内に形成された避難民のコミュニティは周囲を取り囲んでいたゾンビの群れが一掃されたせいか明るい雰囲気が漂っていた。

その光景にケインはほっとした笑みを漏らす。

男はマリオと名乗った。北から来たという。


「マリオ……、真理央か。

 俺は健、ケインと呼ばれてる。こっちの二人は政保(マサイアス)蔵人(クロード)


ケインから紹介された二人は手を挙げて答える。


「それで君は北から来たということだけど、北の方はどんな塩梅(あんばい)なんだ?」


「今、政府は弘前城を拠点として反攻作戦の準備を進めている。

 北海道の制圧が終わり次第こちらに向かうだろう」


ゾンビの発生が元旦だったのと過疎が幸いして青森はほとんどゾンビの被害を受けていないし、それに加えて寒冷による体脂肪の凍結でほぼすべてのゾンビが凍り付いていた。

この僥倖を見逃さず、春の雪解けまでに防衛線を構築して北東北と北海道を安全地帯化するのが政府の基本戦略なのだという。


「……ガソリンの採り方を教える。ついて来い」


マリオの指示でモール内のゾンビが台車に載せられて運び出される。

地面に降ろされた死骸を前にしてマリオが作業手順を説明していく。


「……やることは難しくない。

 足をロープで逆さ吊りにして滴り落ちる体液をバケツで受けるだけだ」


その言葉の通りにゾンビから黒いタール状の液体が滴り落ちている。

最初に吊るされた死骸からタールが抜けきった頃にはモールの外壁は吊るされたゾンビの死骸で覆われていた。

バケツの中の液体を布で濾す。

濾過を数回繰り返すと黄色がかった透明な液体がバケツの中に溜まっていた。

クロードやケインが鼻を近づけて臭いを嗅ぐ。


「ガソリンだ……」


一瞬、全員が静まり返る。


「……やった!」


ケインが天を仰いだ。

喜びが爆発する。

歓声に包まれた。


マリオは顔色を一つ変えずガソリンをポリタンクに移していく。

数時間後、モール内の電気設備が復活した。モール内が歓喜で沸き立つ。

そしてそのさまを外から見ている者達がいた。


「……襲撃に失敗したと聞いて来てみたらこれか」


「へ、へぇ……」


頬髯男がつぶやくとモールを襲った暴走族のチームリーダーは恐縮したような態度を示した。

チームリーダーを殴り倒して頬髯男は立ち上がる。


「奴らたんまりと物資を貯め込んでやがるじゃねぇか。

 ……独り占めとは気に入らねぇ。

 あいつらに東北連合の恐ろしさを思い知らせてやろうじゃねぇか」


頬髯がバイクに跨り、進軍ラッパを吹き鳴らす。


「ぶっ壊せ!」


「おう!! ヒ~ィャッハー!!」


口々に奇声を上げてイグニッションを入れた。

マフラーを抜かれた数十台のバイクが一斉に咆哮を上げる。


「行くぞォゥ! やつらに地獄を見せてやれェィ!!」




「……珍走団が」


モールを包囲して爆音を上げる暴走族にクロードは悪態をつく。

彼らはケインの指示でマリオと共にモール内のバリケードを確認して回っていた。

暴走族による示威行為が夜通し行われたせいで誰もが寝不足を抱えている。

消音機を抜いた数十台のバイクが立てる爆音は暴力的なまでにすさまじい破壊力を持ち、腹に響く重低音のせいで寝付ける者など誰もいない。



爆音がゾンビをおびき寄せた。

五感が衰えているゾンビであってもここまで酷い騒音を起こせば否が応でも気がつく。

一晩中奏でられた地獄のような音の洪水はゾンビを招き寄せる餌となっていた。

モールを取り囲んだ暴走族たちは逆に自分たちが取り囲まれていることに気付いて見境を無くす。


「逝く時は一緒よぉぉぉぉ!!」


クルマでバリケードを突破してモール内に次々と侵入してくる。

ゾンビの群れも雪崩れ込んできた。


「……お前はここにいろ」


腰をかがめて跳躍するとマリオはバリケードの向こうに消える。

それはクロードが声をかける暇すら与えらえないほどの短い時間だった。

「マリオ」と言いかけて言葉を飲み込む。

そこで気を取り直すとクロードは天井のダクトへと入り込んだ


天井裏に張り巡らされたダクトから下を覗き込むとゾンビと暴走族が血みどろの抗争を繰り広げているところだった。

モール側はバリケードの向こう側で封鎖が壊されないように対処している。

意外なことにマリオは暴走族との戦いで追い込まれていた。

ゾンビの動きに助けられてはいるが、暴走族との戦いでは今一つといったところ。


「……なんだこりゃ」


思わず声が出た。

噛まれたら即アウトの対ゾンビ戦闘で絶対的強さを見せたマリオがつまらないパンチを貰っている。

……それでもピンチに陥らないのは適度にゾンビが増えていっているせいか。


やがて暴走族は頬髯男一人だけになった。頬髯以外はすべてゾンビの仲間入りを果たしている。

マリオは肩で息をしながらなんとか調子を整えようとしていた。

その様子を見て頬髯男はにやりと笑う。


「どうした? そんなもんか?

 ゾンビ相手と違って、生きている人間相手には随分と使えねぇ拳法のようだなァ?」


泥仕合のような殴り合いの果てに男がマリオを嘲笑した。

男が釘バットを大上段に構える。

とっさの判断でマリオの掌底が男の顎を狙ったが一瞬だけ間が遅れた。

頬髯男が勝利を確信して笑む。

クロードの手を離れたスパナが男の背中に叩きつけられた。


鈍い音。


掌底が顎にめり込む。


浮き上がった男の身体がフロアに叩きつけられた。


どんっ!!


顎髭男は事切れていた。

その瞬間、ゾンビの頭が次々と爆発する。

緊張感の切れたマリオは地面にへたり込んだ。




  ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡



「……行くのか?」


ケインが名残惜しそうな目でマリオを見た。


「……ああ」


角材に毛布を巻いて作った天秤棒でガソリンの入ったポリタンクを担ぎ上げる。

マリオは背筋を伸ばすとモールの外へと続く出口に目をやった。

皆の視線がモールの外へと向く。


「ゾンビの駆除は教えた通りに罠を張ればノーリスクで行える。……じゃあな」


マリオがモールの敷地を出る。マリオの視線の先にはクロードがいた。


「なぁ、あんた。俺も連れてってくれよ」


一瞬だけ立ち止まったマリオがクロードを見ると、ここぞとばかりにクロードはまくし立てた。


「あんたの拳はゾンビ相手には最強だけど、人間相手ではそうでもないんだろ?

 ここはひとつ俺と組もうぜ。なあ?」


「……こっちだ」


クロードが右手でスパナを軽く振って見せると男は再び歩き始めた。




これでひとまず完結です。

この後マリオは路上に放置した、V8の追跡用PCパトロールカーに燃料補給して路上を爆走するんですが、

続きとか二次とかを特にご希望の向きにははなろう限定のセルフサービスでご自由にお願い。

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