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「ケインだ。
クロード、マサイアスに確認を取ったがやはり屋上から見える範囲内ではゾンビの姿が確認できないようだ」
逡巡の後にクロードは聞き返した。
「……それはつまり、周りのゾンビはみんな階下に集まっているってことか?」
「……ああ、一階でパジャマパーティーの真っ最中ってことさ」
「なんてこった……」
ケインの指摘にクロードはうめく。
その時、階下から連続して謎の爆発音がする。
驚いたクロードが下を覗き込むと、ゾンビの頭が続けざまに音を立てて破裂していくところだった。
頭が吹き飛んだゾンビが次々と倒れては動かなくなる。
……ゾンビは脳を破壊するか身体から脳を分離すると死ぬ。
「……ということはあいつら死んだのか?」
不意に言葉が漏れた。クロードの腰が抜ける。
「……へへっ。……凄ぇ。助かりやがったぜ」
「おい、どうしたクロード。こちらケイン、何があった?」
無線機の向こうからチームリーダーであるケインの声が響くが、安堵のためか、クロードは指が震えて答えを返せない。
それでもなんとか送信スイッチを押して回答する。
「こちらクロード。下のゾンビは全滅した」
しばしの絶句の後、勢い込んだケインの声が響く。
「……おいっ! それは本当かッ1!」
「ああ、本当ぅ……」
……ふと階下を覗き込んだクロードはライダースーツの男と目が合った。
次の瞬間、男は階段に設置したバリケードを飛び越えてクロードの目の前に立つ。
「ひっ!!」
「おいッ! クロード!! どうした!? 何があった!!?」
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「おいッ! クロード!! どうした!? 何があった!!?」
クロードの横で無線機ががなり立てている。
男はトランシーバーを一瞥すると無言のまま器用にも階下へと飛び降りた。
クロードは腰が抜けたまま這いずって階下が見渡せる位置まで進む。
男はゾンビをモールの外に運び出そうとしていた。
「クロード! 大丈夫か!?」
駆け寄るケインとマサイアスにクロードは男の方を指さしてみせる。
階下を覗いたケイン達は声も出ないほどに驚いていた。
「なんだこりゃ、ゾンビがみんな死んでやがる……」
黙々とゾンビの死体を外に運び出している男に話しかけるべくケイン達がバリケードを越える。
ケイン達の動きを見て、いまだ震えの止まらない下半身をなんとか動かしてクロードも後に続いた。
下に降りると一階のゾンビは全滅していた。
死体を運び出している男にケインが話しかけた。
「あ、あんたは一体……?」
男はケインの問いかけに目もくれず、ゾンビの両足を掴んで外へ引き摺って行く。
引き摺りだされる首のないゾンビの残骸からどろりとしたタール状の黒い液体が漏れだして地面に細い筋を作った。
「……あっ、おいっ」
男の放つ空気にのまれながらもクロード達がなんとか男の後をついていくと、モールの外に出た男は駐車場の真ん中に立ち止まる。
「何をするつもりなんだ?」
ケインの質問には男は無言のまま、胸ポケットからオイルライターを取り出すと、地面に落ちていた枯れ枝に火をつけてゾンビの死体に放り投げた。
一瞬でゾンビが燃え上がる。
「……なッ!?」
「……ガソリンだ」
言葉を喪ったケインに向かって男はぼそりと話す。
男の声は思ったよりも高く澄んでいた。男の外見との落差に思わず困惑が広がる。
「ガソリンだって!?
おい、あんた、いったいどういうことなんだよ!」
思わず声を上げたクロードに男は答えた。
「……死んだゾンビの体液はガソリンの代わりになる」
「なんだって!?
じゃああれを絞れば発電機が動かせるのか!?」
ケインが悲鳴に近い声を上げて男に問いかけた。
「……どういうことかはわからないが、死んだゾンビの体液は品質が高い。
精製するといい燃料になる」
「じゃあ……」
「俺はガソリンが欲しい」
男はケインに向き直るとそう告げた。
「……あ、ああ。それはいいが」
「ならガソリンを精製するのを手伝ってくれ」
「……わかった。いいだろう」