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「……暴走族め」


クロードは短く舌打ちをした。

封鎖した入口をセダンが突き破ってモール内に飛び込む。

後に続いてバイクとゾンビが雪崩れ込んできた。

もはや玄関のバリケードは意味をなしてはいない。

バイカーが追い抜きざまに手斧を振るうとゾンビの首がポトリと落ちた。


「イ~ッ、ヤッハ~!!」


手斧を振り回しバイカーが叫ぶのを見てクロードは「馬鹿か」と思った。

モールに群がったゾンビどもを外から駆除してくれたら少しくらいは物資を分けてやったかもしれないのに。


「あ~あ。人類はこのまま自滅するのかな~」


思わず愚痴が漏れる。

ゾンビ自体は単体ではそれほどの脅威ではないのだ。

それだのにゾンビ発生時点で「ヒャッハー!!」に走る莫迦(バカ)が続出した所為(せい)で今のこの状態になった。


「アホか」としか言いようがない。


ゾンビの仕業に見せかけた殺人やゾンビに人間を殺させる殺人ショーなどが横行して一気にゾンビが増えた。

死因がどんなものであれ、死体はすべてゾンビとなって蘇る状況下で人類は最悪の選択肢を選び続けていく。

避難所は内部から崩壊し死者の津波に次々と呑み込まれていった。


この未曾有の事態を国連常任理事国を含めた核保有国は、自国他国を問わずゾンビの密集地帯に核を撃ち込むことで乗り切ろうとしたが、

核爆発による放射線を浴びて死亡した生存者がゾンビとなって蘇ることになり、ゾンビの数をただ増やすだけに終わってしまう。

そういった世界状況においても火葬文化の日本は「唯一」と言ってもいいくらい平穏を保っていたが、中国が日本に向けて発射したICBMによって事態は一変する。


そしてこれを或る者は「逝く時は一緒よ♡♡♡」という中国の意思表示だと言った。


これに対して北朝鮮が中国へ報復の核攻撃を行う。

この時、最後の平壌放送が「日本に代わっておしおきよ♡」と声明を出した。

ICBM発射後、DPRK(北朝鮮)の国土からは動く者が消えたのは地下シェルターに生存者が避難したからではないかと噂されている。


だが、それでも日本はゾンビの大発生が世界でも遅かったために事態への準備をある程度には整えることが出来ていた……のだが。


「……クロード、こちらケイン。暴走族の相手はゾンビ達にさせる」


無線の向こうからケインに呼びかけられた。

インフラ崩壊によって携帯は既に使い物にならなくなっている。

12歳のクロードに出来ることはショッピングモールの吹き抜けから階下の一階を監視することだけだ。


……頼むから二階へのバリケードは破ってくれるなよ。


祈るような気持ちで階下(した)を覗き込む。

階下(した)では暴走族がパティスリーから持ち出したパイをゾンビの顔に叩きつけて遊んでいた。ふざけてゾンビ相手に鬼ごっこをしている者までいる。


「……真面目にやれよ」


クロードの額に青筋が浮かぶ。


奇声を上げてショーケースにバットを叩きつけていた暴走族の脚に矢が突き立った。

バイクから転げ落ちた暴走族の周りにゾンビが集まってくる。


 <自主検閲により削除された模様>


事切れた暴走族がゆらりと立ち上がった。

近くにいた元仲間のバイカーににじり寄る。

破壊活動に夢中になっている暴走族はそれに気づかないで押し倒された。

クロードは思わず目を背ける。

モール内のあちこちで地獄絵図が繰り広げられていた。


「ダイナミック入店なんかするからだ。この莫迦野郎ども……」


クロードは陰鬱な気持ちに沈む。


状況の不利を悟った暴走族たちは散弾銃を乱射しながら逃げ出していく。

サイドカーから身を乗り出した暴走族の腰にクロスボウの矢が刺さり、暴走族がモールの床に落ちる。

バイカーは仲間を見捨てて走り去った。ゾンビの群れが床に落ちた男に群がっていく。

結局、暴走族は仲間の多くを失って何も得ることなく撤退していった。


今、ショッピングモールの一階にはお食事中のゾンビが無数にうごめいている。

正直、呆れるしかない。


「……あいつら一体何をしに来たんだ???」


言葉を喪って呆然としているクロードの目に奇妙な光景が映った。

ガラス扉を破られた正面玄関の入り口にハードレザーのライダースーツに身を包んだ一人の男が立っている。

男が歩くたびに散乱したガラスの破片がブーツに踏まれて砕け散る音が辺りに響いた。


「お……、おいっ、あんた!」


モール内に立ち入ってきた若い男にクロードは思わず声をかけてしまう。

男は無手で手には何も武器を持ってはいないのだ。

そんな男に背後からゾンビが迫る。

咄嗟にクロードは叫んだ。


「後ろッ!」


男は無表情のまま自分の肩口に喰らいつこうとするゾンビの額を、振り向きもせずに人差し指でトンッと突く。

ゾンビは後方に仰け反る。

数秒後、ゾンビの頭は音を立てて弾け飛んだ。

クロードは呆然として男を見る。

男は少し首を傾げるとクロードに目を遣った。

男とクロードの視線が絡み合う。


数瞬の後、無言で男は歩き出した。


じゃりっ……じゃりっ……ガラスの破片が男の足元で粉々になって音を立てる。

音に誘われたゾンビの群れが男を取り囲むと無表情のままの男を呑み込んでいった。

クロードは思わず右手で目を覆ってしまう。


「……いったい今日は何の日なんだ?

 さっきの暴走族といい、今の男といい、何がしたかった……えっ?」


思わずつぶやいたクロードの唇が途中で動きを止めた。

ゾンビの群れに異変が生じている。

ありえないことにゾンビ同士が戦っていた。

ゾンビにゾンビが襲い掛かり、襲い掛かったゾンビに別のゾンビが襲い掛かる。


何が起きているのかとよく見れば、若い男が人差し指でゾンビの額を突いていた。

額を突かれたゾンビは周囲のゾンビに見境なく襲い掛かっていく。

しばらくするとゾンビ同士の大乱闘になっていった。

どのゾンビも男には目も()れてはいない。

ゾンビ同士で争っている。

クロードは目をむいた。


「……なんでッ! ……なんでッ!! なんでゾンビ同士で共喰いしてんだよッ!!!」


クロードの叫びが木霊するが、階下のゾンビは気に留める様子が全くない。


「……こちらケイン。ゾンビ同士がいきなり共喰いを始めた。

 クロード、何がどうなっているのかわけがわからん。そっちから何か見えるか教えてくれ」


「こちらクロード。ケイン、男がゾンビと素手で戦っている。

 男に人差し指で額を突かれたゾンビが周りのゾンビに襲い掛かって共喰いに走ってやがる」


「はあっ!? 何だそれッ? そんなのありえないだろォッ!!」


無線機の向こうでケインが民謡の歌い出しのような声を上げて絶句する。

その間にも内ゲバの音に引き寄せられたゾンビの群れがモールの内と外から続々と集まってきていた。

男は共喰いするゾンビの合間を縫うと、集まってきた新手のゾンビの額を指先で弾いていく。

あっと言う間に一階は共喰いをするゾンビであふれかえった。

もしやと思ってクロードが窓際に駆け寄ると、モールの周辺にゾンビの姿は無かった。

駐車された自動車が(まば)らに点在しているのみで周辺には動く物など何もない。

……ゾンビすらも含めて。


「こちらクロード。ケイン、屋上のマサイアスに連絡してくれ。

 こっちから見た限りではモールの周辺にいるはずのゾンビがまったくいない」


「わかった。マサイアスに確認させる」



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