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癒しの女神と日本人と

癒しの女神リリー。

 彼女は元人間の日本からの転生者であった。生まれは1993年3月8日。高校生の時にこちらの世界に勇者として連れてこさせられた。当時は、彼女の他に後5人の仲間がいたが、魔王との戦いの際に、皆彼女を残して死んでしまった。それは、こちらの世界では1000年前に起きたと言われる、初めの魔王討伐の記録にも記されている。一人、生き残った彼女は自分の癒しの力を惜しみなく行使し続けた。だが、その過労がたたり、23歳という若さで世を去った。

 しかし、実際はその働きと魔王討伐の功績により、彼女を女神と崇める者が増えた。ついに彼女は人間から女神へと昇格をしたのだ。リリーという名は、彼女の梨々香という名前がこちらの世界風に(なま)ったものだ。故に、彼女にだけ他の女神とは違い、名前があるのだ。



「どうして、私の本名を知ってる?」


 彼女の静かな声の質問は辺り一帯をゆっくりと歩きながら、彼?の耳へと届いた。


「私がどこの神様かは知っているだろ。ならば、私がお前を知っているのは当然だ。」


 さも、当たり前の事のように答える彼?に彼女はさらなる質問を続けた。


「どうして、どうして今なの?」


 これが、彼女の今まで人生を表すの言葉だった。

 彼女は、いや、彼女達は元の世界に帰りたかった。自分を心配しているであろう、母や父、学校の友達が何度も、何度も夢に出てきたはその意思を強くしていった。しかし、現実は残酷だった。彼女の大切なものを奪っていった。仲間だった親友を失った。初めて話して、仲良くなった仲間を失った。好きになった仲間を失った。その人を取り合った仲間も失った。そして、帰れるようになった時にはもう、誰も彼女のそばには居なかった。もう、帰る意味すら失った気がした。そんな現実から逃げるように仕事に奔走した。過労で倒れた時はやっとみんなに会えると思った。

 しかし、現実は彼女を逃してはくれなかった。目覚めた時、そこは死後の世界ではなかった。どこまでも、白い世界。こちらの世界に来る前に会った美しい女神様がいた場所だった。そこには、来る前に会った女神様の他に4柱の女神様がいた。この世界で暮らしていた人は皆知っている有名な女神様達だった。彼女達はこう言った。貴方には女神になってもらうと。その時、彼女は自分の運命を悟った。もう、彼らには会えないのだと。彼女は自分の運命を呪った。

 そして、1000年の月日が流れた。また、勇者を召喚すると事になった。あの悲劇を繰り返すのかと思ったが、もう彼女にはどうでもいいことだった。だが、今回の現実はまた違った物を彼女に見せた。元の自分の世界の人を主神が呼んだ時、その世界の神様が混ざっていたらしく、今攻撃を受けていると連絡が入ったのだ。現地に駆けつけると、そこには懐かしい服装をした子たちと、一人異彩を放っている男子がいた。初めは、自分たちが優勢かと思われたが、炎神が一撃でやられてから状況が変わった。そして、最後の攻撃も失敗におわり、またも自分だけが残された。しかし、不思議とあの時ほどの悲しみはなかった。どちらかというと、喜びの感情の方が強かった。だってやっと、自分を殺してくれる相手と出会ったのだから。

 そんな時だった。唐突に自分の本当の名前で呼ばれたのだ。それは、彼女の心の中にあったいろんなものを呼び覚ました。仲間の記憶、この世界での自分での人生、そして帰りたいという気持ち。その込み上げてき思いが口から飛び出したのが、あの質問だった。


 彼?は、そんな彼女の考えを見透かしたようにこう答えた。


「今帰れば、お前と一緒に飛ばされた仲間に会えるぞ。」


 言葉を失った。今、自分に込み上げてきたもの全てが押し返された感じがした。彼?の言葉が頭の中で何度も何度も何度も反芻した。すると、それに押し出されたかの様に目から涙が溢れてきた。


「まあ、運が良かったな。つい先程、この世界で死んだ者の魂を回収できた。私はこの世界でやることが済んだら、こいつらを私の世界の因果律に戻さなきゃならない。それでだ、私は案外忙しくてな。そんな事をやる暇があまりなくてな。誰かに任せたいんだが、誰がいいかな~?」


 わざとらしく話す彼?の言葉は彼女の心を決心させるには十分だった。


「私、帰ります。いや、帰りたいです元の世界に。その作業も私にやらしてください。」


 彼?は初めて優しい笑顔を彼女へと向けた。

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