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足掻く女神は無力を知らず

 目の前に死が訪れたと分かった時、人ならどうするだろうか?走馬灯を見る?それとも、家族の顔が浮かぶ?もしかしたら、頭が真っ白で何もできないかもしれない。では、神ならどうだろうか。神の記憶量は絶大だ。そんな、一瞬で自分の記憶を見るなど不可能だ。では、家族の顔?目の前でその一人の絶望に満ちた顔が転がっている。では、何もできないか?いや、なまじ精神力がある分、恐怖の感じ方が比ではない。死を知った神はここまで無力なのか気づくが、そんなものは意味ない。どうせ、今から死ぬのだから。


「さて、じゃあ始めようか。どちらが先かな?」


 もう、なにも反応はできなかった。ただただ彼?の言葉が頭に反芻する。その分、言葉を聞いてから理解するまでにちょっとした時差が生じる。

 しかし、理解をすればするほど恐怖が増すだけだった。彼女達は、人形の様に動かされるのを待つだけの存在となっている。彼?が一歩、また一歩と近づいてくる中、横から炎の塊が彼?に向かって飛んで行った。


「ん?」


 しかし、その炎は彼?の動きを止めるのには至らなかった。たくさんの炎が彼?に当たるが、まるで弱風に当たっているとしか思えない。たが、その炎を見た途端、彼女達の心に一筋の光が現れた様に思えた。


「「炎神!」」


 2柱の神の声が重なった。そう、この炎は先ほど彼?によって体に大穴を開けられた炎神だった。


「お前ら、なにやってやがんだ!」


 炎神は、ただ殺されるのを待っていた彼女達を叱咤した。まだ、本調子ではない体を無理やり支えながら立ち上がる。


「私らが諦めたら、この世界はどうなるってんだ!そんな事も忘れたのか、脳なし眼鏡!」


 炎神の言葉が、水神の心にぐさぐさと刺さっていく。そうだ、自分達がここで死んだら、この世界はどうなる。様々な困難を乗り越えてきた人間達や、緑生い茂る碧い森、透き通った水。皆が世界を良くしようと努力したこれら全てを、こんな簡単に壊されていいいのか?断じて否だ。

 自分達の背負っているものに気づかされた彼女には既に恐怖はなかった。水を頭から覆いかぶさる様に体全体にかける。ずれた眼鏡を直し、体に気合をいれなおした。


「そうよ、私達はこんな所で諦めていけない。大事な子供達がいる世界を!」


 もう、決心はついた。それは、彼女だけではなく、土神も一緒だった様だ。既に、攻撃の準備はできていた。彼女の手に自然と力が入る。先程までと違い、頭は冷静なのに体は熱に満ちている。


「炎神、土神、もうこうなったらあれを使うしかないわ。さっきの攻撃を見る限り、あいつはアホ脳筋と同じく、炎系統を司るの神ね。そうなると、私のやつでしかあいつには効果がないわ。だから、二人とも援護をお願い。でも、あいつと戦う場合、アホ脳筋よりも土神の方が相性がいいわ。だから、アホ脳筋は後方に下がっていて。その代わりにあなたはあいつの炎の動きを読んで。できるわよね?」


「やはり、お前とは後で決着をつけなきゃいけないようだな。俺がその程度の仕事ができないとでも思ってんのか!」


 炎神からアホ脳筋に呼び方戻った事にイラっとしたが、いつも通りの彼女に戻った為、炎神の顔は嬉しそうに笑っていた。


「なに、ニヤニヤしてるの?気持ち悪いわね。」


 炎神は先ず始めに彼女から潰そうかと思ったが、何とか耐えた。


「リリー。嵐神はあなたの力で治せる?」


 少しの沈黙した後に、彼女は答えた。


「無理」


「・・・やはり、そうなのね」


 リリーは癒しの女神であって、生死を司る神ではないのだ。いくら、怪我をしてようと生きてさえいれば、望みはある。だが、死んでしまっていてはどうしようもない。しかし、ここで何を言っていても始まらない。水神はそうそうに頭を切り替えた。


「なら、リアリー様をお願い」


「それは、余裕。」


「よし。じゃあ行くわ!炎神!土神!子供達の未来の為に!」


「了解じゃ」


「朝飯前だぜ!」


 水の女神様な素早く作戦を立てる。シンプルな作戦だが、応用が利きやすい。今の状況では最善の作戦だろう。それに、この作戦には先程と違いちゃんとした切り札があった。


「ワシが近接で囮をやる。お主は後ろであれの準備を頼むのじゃ。」


 そう言うと、土神が前へと飛び出した。彼女の両手両足が段々と彼女の司る物へと変化していく。


「子供達の為だぁ?別の世界の子供さらってきて良く言うわ。盗人猛々しいとはこのことだな。」


 彼?は手の上に炎の球を作ると、それをまっすぐ向かってくる土神へと投げつけた。


「右に避けろ!」


 炎神が叫ぶと、土神は右に飛ぶ。それと同時に、彼女が通るはずだった場所に炎の球がぶつかり、爆発を起こす。爆風で一瞬蹌踉(よろ)めくが、何とか体勢を立て直す。そして、また彼?に向かって走り出す。すると今度は彼?が四つほど炎球を放った。


「右!後ろ!左!右前!」

 

 しかし、その攻撃も炎神の的確な指示で全て躱されてしまう。


「めんどくさいな。」


 彼?は突然攻撃を辞めた。何か意図があるのだろうということは土神にも分かっていた事だが、もう自分を止める事はできなかった。そして、彼?へと渾身の一発を放った。


「近接戦闘をするなら、せめて武術くらい学べ。」


 だが、その攻撃は彼?には届かなかった。どういう原理かは、わからないが右手を掴まれたと思ったらそのまま一回転して地面に叩きつけられたのだ。


「さて、先ずはお前から始めるか。」


 そして、彼?が土神に手を触れようとしたその時だった。水神のいる方向から、大量の水が飛んできた。しかし、彼?はそれを避ける事なく受ける。勿論の事ながら、彼?にダメージが入った事はない。たが、今回の狙いはそこではなかった。


「うおっ。地面が。」


 突如、足が地面に沈み始めた。実は、既にここは土神によって水を含むと泥濘むような土に変えられていたのだ。


「ここで、おとなしくしておれ!」


 そして、彼?の足を沈めたままもう一度土を変化させる。この世界で最も硬いと言われるアダマンタイトだ。


「水神!」


「後は任せなさい!」


 土神が大声で彼女達を呼ぶと、待ってましたとばかりに、水神は彼?を倒す切り札を出現させた。


「炎殺しの聖水」


 彼女が出した水は血のような赤い色をしていた。

 炎殺しの聖水

水の女神が持つ炎神を殺す魔法の一だ。

 なぜ、水の神がそのような能力をもっているのか?答えは簡単で、それは各女神への抑止力の為だ。例えば、炎神のような戦闘に強い神が暴れた場合、誰がそれを止めるのか。普通に戦っても、もしかしたらこちらが全滅するかもしれない。そんな時の対処の為に存在するのが、神を殺す事ができるこの魔法なのだ。この魔法は相手の神の属性を無効化し、その神を破壊する力をもっている。そして、この魔法は1柱の神につき1属性もっている。水の女神は炎神のを、炎神は土神のを、土神は嵐神の属性を、嵐神はリリーのを、癒しの女神リリーは水の女神の属性を持っている。しかし、それには致命的な欠陥があった。この魔法は構成に時間がかかる上に、その間は一切動く事ができない。なので、これは女神達が連携を取らないと使えない物なのだ。ただ、その分、威力は強大だ。これ一発で神を破壊するほどに。そして、この魔法はこの世界にいるもの全てに適用される。もちろん、彼?も例外ではない。

 真っ赤な水が槍の形になり、彼?へと飛んでいく。


「なんだあれは?」


 そんな事を知らない彼?は槍に向かって10個ほどの炎球を投げつけた。しかし、全てが当たると同時に霧散した。


「「「いっけーーー!」」」


 彼?の攻撃を受け付けない赤い水の槍を見て、彼女達の目が希望に満ちたものへと変わった。


「まったく、騒がしいな。たかだか、炎を無効化出来ると言っても構成は水。これが切り札になると思っている時点で、こいつらは本当に私が何を司る神か気づいてないんだな」


 水の槍が、彼?へと迫っていき彼女達が勝ちを確信した時だった。


「災害:干ばつ」


 彼?は背後からまばゆい光を放った。そして、その光に照らされた水の槍は、突然霧散した。


「え?」


 一瞬、何が起きたかわからなかった。槍が彼?に当たると思った途端、目の前から消えたのだ。


「ああああああああ!」


「っ!土神!」


 今度は土神の悲鳴が響いた。彼女を見て、水の女神達は目が離せなくなった。土神の四肢がパキパキと音をたて、ヒビが入り、今にも崩れそうだった。


「なんじゃ?これは?」


 彼女は自分の四肢がどうなっているのか、理解が追いついていなかった。それはそうだろう、自分の四肢が崩れていく様子など、どうやって想像するというのか。


「まったく、本当に騒がしい虫どもだ。」


 彼?はまるで何もないような感じで、アダマンタイトの拘束から足を抜け出した。


「そ、そんな、、バカな」


 水の女神はそれを見て、さらに驚いた。彼?がアダマンタイトの拘束から抜け出しことではなく、アダマンタイトの地面にも大量のヒビが入っていることにだ。彼?はあの一瞬の光で土神の四肢とアダマンタイトの地面を同時にボロボロにしたのだ。


「どういう原理だ。あれは。」


 今度は炎神が信じられないような声を上げた。先程の光の原理がさっぱり見当がつかないのだ。あの光に当たったもの全てが破壊されるという効果であるなら、自分達も当たっているのにダメージを受けていない説明がつかない。それに、そもそも彼は炎を使っていた。あの光と関連性が見出せないのだ。


「まあ、近くにいるし。こいつからでいいか。」


 彼?は動けなくなった、土神に再び近づいた。


「たしかお前は土神だったな。」


 すると、土神の周りを半円球の形の土で覆わせた。


「お前を燃やしたら、どんな鉱石ができるんだろうな?」


 彼?は先程と同じようにニヤリと笑った。そして、土神は彼がこれから何をしようとしているのかに気づいた。


「や、やめるのじゃ!やめ」


「点火。」


 彼?は土神の入った炉に、数億度を超える火をつけた。


「ギジュアーーーーーー!」


 もはや、悲鳴とも言えない声が炉から抜け出して、辺りにこだまする。熱の逃げ場がないそこは、空気がないのにも関わらず、延々と火が燃え続けた。


「アッギャッアグャーーー!」


「ああ、そうそう。予めにお前には死ぬまで意識を失わないように、呪いをかけてあるからって言っても聞こえてないか。」


 その地獄絵図を黙って見ることしかできない、3柱の神。一歩、また一歩と後ろに下がっていく。顔を恐怖の色に染めて。

 そこで、彼?がこちらへと振り向いた。


「何逃げようとしてんだ?」


 まさに、一瞬だった。瞬きをしたら、もうそこには彼?はいなかった。


「ガッ!」


「これ以上、反抗されても面倒だ。さっさと、終わらすか。」


 もう既に、彼?は水の女神の後ろにいた炎神の顔を掴んでいた。


「今度はいつまで、耐えらるかな?」


 ジュワッという音と共に彼女が真っ黒に染まり、人型の炭素の塊となった。しかし、彼女にはまだ意識があった。


「火で死ねなくなる呪いをかけてやった。灰となって粉々になっても死なないかもな。」


 そして、彼?は手を離した。立つことの出来ない彼女はそのまま地面に叩きつけられて粉々に割れた。


「さて、次はお前なんだが。覚悟は出来てるか?」


 すーっと涙が頬を伝った。それが、何に対しての涙なのか彼女にはわからない。ただ、悲しいというのだけはわかった。そして、それは下の方からも流れていた。独特の匂いを放つそれは、女神のものとは思えない。


「うわっ、汚なっ!いくら水の女神だからって、出し過ぎだろう。お前、汚水の女神か?」


 彼?は正直近づきたくはなかったが、ここで終わらせるということはない。少し、浮かび上がると彼女に近づいていく。


「いいこと思いついた。お前には少し寝ててもらうか。私の本命への復讐をしなければいけないからな。」


 彼?が水の女神の額に指を当てると、そのまま彼女はピシャッと音を立て、うつ伏せに倒れた。


「おい、そっちに倒れんなよ。顔から直接汚水にダイブしたぞ」


 彼?は触りたくなかったので、力を使って彼女を浮かび上がらせた。


「さて、私に反抗したこいつらの処分は終わったが、お前はどうしてほしい?戻りたいなら、元の世界に戻してやるぞ。和泉(いずみ)梨々香(りりか)。」


 彼?はリリーと呼ばれていた女神を本名で呼んだ。


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