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恐怖は絶望を彩る

「バ、バカな。あの炎神が炎負けした?」


 普段は炎神の事をアホ脳筋と呼ぶ水の女神様は驚愕を隠しきれなかった。なんだかんだ言いながら、彼女は炎神の実力を信じていた。力で負けないのは勿論ことながら、炎で負けるなんて考えもしなかったことだった。それ故に、今そこで焼け焦げたのが炎神だとは信じられなかった。


「さて、小虫が一匹消えたか。後ろ三匹はどうしてやろうか?」


 彼?の不敵な笑みに、彼女達はゾクリと恐怖に背中を舐められる様な感じがした。一歩、また一歩と徐々に彼女達に近づくたびに恐怖の色が強くなっていく。それはまるで、蛇に睨まれたカエルのようだ。


「こ、ここは一時撤退するわ!

 嵐神は炎神の回収!土神と私であいつを食い止める!リリー!」


「もう終わってる。こっちの準備は出来ている。」


「ならば炎神も任せたわね!各々、自分の仕事のことだけ考えて!」


「わかりました!」


「まかせるのじゃ!」


 恐怖に負けないようにできる限りの大声で指示を出した。いくら思考が停止していたからといっても、彼女達は女神様だ。指示と同時に一気に動き出した。


「こいつら、なんで私に指示にが聞こえるくらいの大声で指示してんだ?お前らのこれからの動きが丸わかりなんだが。馬鹿すぎないか?」


 もう、彼?の言っていることなど、彼女達は聞いてる暇はなかった。  水神と土神が彼?を足止めするために大量の水と土を頭上に召喚し、休むことなく彼?へとぶつけた。さらに、気休め程の土の障壁を彼?と自分たちとの間にいくつもはりめぐらせる。

嵐神と呼ばれた女神様は風を使って、炎神をリリーと呼ばれた女神様の前まで吹き飛ばす。落下ダメージが入らなように直前に空気のクッションを作る。


「こっちは回収できたぞ!」


 嵐神が彼女達の攻撃の音に負けないくらいの大声で目的を達した事を伝えた。


「なら撤退するわ!一度下に降りてから体制を立て直す!全員私の近くに集まって!」


 嵐神が炎神と気絶している主神の女神様を両肩に担ぎ上げ、後ろの方でリリーが炎神の傷を治していた。幸い、炎神はまだ生きをしていた。体が他の神より丈夫だった事と、攻撃が炎の攻撃だった為、少しはダメージを軽減できたようだ。もし、他の神様だったら先程の一撃で上半身は吹っ飛んでいた。


「全員集まったわね!それでは行きます!」


 彼女達の足元に魔方陣が浮かぶ。そして、一瞬にして消えてしまった。






 彼女達が現れたのは、下界のとある神殿の最下層だった。広さは東京ドーム1こ分くらいだ。ここは、この世界の何人にも踏み込むことのできない場所。言わば、下界に作った仮の神界というものだった。しかし、上の神界とは違い、明かりは少なく暗い。さらに言えば、地面はゴツゴツしているので、正直女神様がいるような場所ではない。それでも、万が一の事を考えて作ったこの場所を使うことになろうとは彼女達ですら考えつかなかった。



「はぁ。はぁ。何なんじゃ、あの化け物は。」


 土神がそう呟くと、全員がその場で黙ってしまった。何だ?と言われても彼女達は誰一人彼?の事は知らない。逆にこっちが聞きたい内容であった。


「そんな事よりも、今はリアリー様と炎神の容態の方が重要です。リリー大丈夫なのですか?」


 このままでは、話が何も進まないと思った水神が無理やり話題を変えた。


「主神様の方は大丈夫。炎神の方も傷は深いけど多分大丈夫。」


 それを聞いて、一同がホッと一安心した。今、彼女達を失った場合、あの神を撃退するのは完全に不可能だ。しかも、実質誰一人として命を奪われていない。これだけは唯一の救いと言えよう。そう思い、少し気をぬいたその時だった。


「カー!カー!」


「「「っ!?」」」


 突然、自分たちの知らない声が鳴り響いた。嵐神、土神、水神が主神達を背にかばうようにして警戒態勢にははいった。しかし、辺りは暗く、見通しが悪い。その声が何処から響いてきたのかわからなかった。そのままじっとしながら意識を集中する。


「上だ!」


 自分たちの頭上で何かが動く音がした。そして、天井を見るとそこには一匹の真っ黒い鳥がいた。足は三本あり、普通の鳥に比べて大きい。もし、日本出身のものがいれば、その鳥がカラスだということに気付けただろう。


「・・・何?、あの鳥。」


 二つの目でこちらを睨んでい鳥は、体の色が黒い分、余計に不気味だった。


「あの鳥はどうやってここにきたのかしら?」


 やっと理解が追いついてきた水神はまともな質問が浮かび始めた。そう、本来ならここは神しか入れない空間だ。鳥が入れるわけが無い。しかし、ここで彼女達は気付くべきだった。今、自分たちに起きている状況を考えれば、あれが何のかがすぐわかったはずだ。


「道案内ご苦労、八咫烏。」


「カー!」


 すると、後方から恐怖を呼び覚ます声が彼女達の頬を撫でた。一気に血の気が引いていき、体が動かなくなる。


「まったく、バカな小虫どもが作戦を教えてくれたお陰で、隠れ家まで潰すことができるようだ。」


 彼?は彼女達の前で初めて笑みを見せ、こう言った。


「黄泉の国を見たことはあるか?虫ども。」


 慈悲を感じぬその笑みは、彼女達に絶望を植えつけるには十分すぎた。


「う、うわー!」


 嵐神と呼ばれた女神様はもう、正気を保てなかった。その場を飛び出し、必死に逃げる。その姿は女神様と呼ぶには程遠いものだった。


「これ以上無様な姿を私に見せるな。」


 彼が横一線に手を振った。それにより、生じた糸ほどの細さ風は、嵐神の首を捉えた。そして、ポロリとそれを地面に落とした。さらに、そのまま体も地面に落ちるように倒れた。彼女の最後の表情は恐怖で飾られていた。


「こいつ、この程度の風でやられるとか、本当に嵐神か?内の愚弟の爪の垢の方が強いぞ。」


 彼?は呆れた様に言うと、今日何回目かのため息をついた。


「さて、せめてお前らは一撃でやられないようにしないとな。だいたいお前らの弱さは分かった。簡単に死ねると思うなよ。」


 その時、女神様達は思った。ああ、今逃げ出していれば一撃で葬ってくれたのになぁ、と。

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