話し合い(戦闘)
「「「シミラー様の為に!」」」
背中に羽の生えたいくつもの天使が、一人の男に手に持った槍を突き刺しにいく。しかし、その槍は全て彼に当たる前に融解する。
「なっ!ば、ばかな!」
「天使の槍を溶かすだと!?」
「人間風情にそんな事が!?」
各々が驚愕の表情を作る。そして、それが最後の表情となった。彼が刀を一閃振るう。それにより、ポロポロと降り始めた雨の様に首が落ちる。
「めんどくさいなぁ。こんな奴らがいくらかかってきても傷一つ付くわけないだろ。さっさと、主神が現れよ。」
落ちた天使の首を踏みながら、嫌々そうに話す彼は血で化粧した刀を振り上げる。
「よいしょっ!」
空を切ったその一撃は奥の方で控えていた天使達を斬り刻む。
「これ以上刀を汚したくない。早く現れないかな。」
刀をカチャカチャと振り回していると、彼の方に一本の槍が飛んできた。
「よっと」
それを軽く刀で弾く。飛んできた槍はそのまま後方に飛び、ガナシャの前に落ちる。
「きゃ!」
ガナシャは突然飛んできた槍に驚いた悲鳴を上げる。先程から彼が戦っている天使の槍でさえ、彼女からしたら伝説級の武器だ。そんな物で攻撃されたら、こんな小さな体はひとたまりもない。
「ちょっ、ちょっと!交渉材料ならもっと丁重に扱ってよ!」
意図して飛ばした訳ではないのはわかっていたが、先程の戦いぶりからして彼なら今の槍をもっと別の場所に打ち落とせたはずなのだ。
「知るか。勝手に避けろ。」
しかし、そんな彼女の文句さえ一刀両断する。今まで、そんな事をされてこなかった彼女からしたら少し感に触る物があった。だが、結局は守らればかりなのでそこまで大したことは言えなかった。まあ、その危ない目を受けているのは彼のせいなのだが、そこにはまだ気づいてい。
「ああ、それと一つ忠告しておくぞ」
「な、何よ」
「その槍に少しでも触れるとお前死ぬぞ。」
「っ!?そんな物を私の前に落としたの!?」
よく見ると、先程まで光り輝いていた槍を弾いた彼の刀がボロボロに錆びて、今にも崩れそうになっている。まさかそこまで危ない物だとは思っていなかったガナシャはその槍を中心に大きく弧を描いて前に進む。
「おい、前に出てくるな。その槍の持ち主が来たぞ。」
「ーーえっ?」
彼が目線を向けている方を見ると、そこには一人の男がいた。二本のピント生えた髭が特徴的だった。しかし、その男を見た瞬間、ガナシャは恐怖に震えた。
「バ、バ、バ、バーバライク様!」
そこにはサハラン十二神の中でも起源の四神と呼ばれる神、バーバライクだった。
「なんだ、やっとお出ましか。」
「貴様が侵入者であるな」
バーバライクは何かを見定めるように侵入者の男をジッと見ている。
「貴様、ハキヤの手の者であるか?」
バーバライクが何か恐れと不安が含んだ感じで質問する。それに気づいた彼はニヤリと笑いながら答えた。
「さあな?まあ、ここまで来れる様な奴なんて限られてくると思うが?」
「そうか、ならば」
バーバライクは右手をこちらに向ける。彼の手は灰色の火山灰の様な色をした霧が蠢いていた。
「死んでもらうしかないのである。」
バーバライクの右手から放たれた霧は大きく膨らむと、凄い勢いで彼へと襲いかかる。
「なんだあれは?」
その霧を避けながら彼は一人の天使の死体を蹴って、霧へとぶつける。すると、その天使の死体は一瞬にして骨へと変わり、粉々になって消えた。
「なるほど時間促進系。いや、あれは風化かな」
「ほう、我輩の能力に気づいたであるか。その通り、我輩の司るは『風化』。全ての生物が行き着く最後。抗うことのできない流れ。そして死にかけに見せる一瞬の儚く消えかけの命。その至高の美こそが我が能力である!さあ、我輩に貴様の最後を見せるのである!」
霧は様々に形を変えながら彼に迫っていく。彼が時々、火の玉をぶつけるが、霧に当たると立ち所に霧散する。
「無駄である!無駄である!無駄である!」
段々と彼を追い詰めていき、逃げ場がなくなっていく。
「フィナーレである!」
まるで、津波の様に押し上げられた霧は彼を囲う様に包む。もはや、逃げ場などなかった。
「一瞬の美を!」
全方向からまるで血に飢えた獣のように、一気に霧が彼を食らった。グササーという奇妙な音が周りに響く。
「やったのである。」
もはや勝利を確信したバーバライクは、最後の彼を見ようと霧へと近づいていく。
「楽しみである。どうはっているがふっ!」
突如、霧から手が生えた。その手は彼の首を掴むと、ギリギリと閉めていく。
「ば、ばかな。貴様、どうやって?」
バーバライクは苦しみに顔を歪ませながらその手の先を睨む。すると、その霧の中からまるで何事も無かったかの様に彼が出てきた。
「なんだ、気づいてなかったのか?」
彼は手から先程とはまた違った刀を一本出した。
「よく見てな。」
その刀を霧へと突っ込んだ。そして、数秒後に引き抜く。そこには、先程とはなんら変わりない刀が光り輝いていた。
「なっ!ど、どういう事である!」
「どうもこうもないだろ。なんで、自分の能力が変えられている事に気づいてないんだよ」
彼は呆れた感じでため息をついた。しかし、バーバライクにはさっぱり種がわからなかった。
「いいか、時間の流れってのは因果律で一つ一つ決まっているものなんだよ。それを乱すということは因果律を乱という事だ。だったら、話は簡単だ。その乱れた因果律を修正すればいい。そうなったら、お前の霧はただの灰色の霧になる。まあ、あいつを巻き込まない様にこちらまで誘導するのには苦労したが、ここまで簡単に引っかかるとはな」
簡単な事の様にスラスラ話す彼に、バーバライクは空いた口がふさがらなかった。因果律の修正?彼は何を言っているのだ。そんな事を出来るのは神しか・・・
「ま、まさか、貴様!」
何かに気づいたバーバライクは突然暴れ出す。しかし、彼の手はビクともせず、そのまま首を絞め続けている。
「おいおい、暴れるなよ。そうだ、お前に聞きたい事があったんだ。」
「ぐっ、は、離すのである!」
暴れるバーバライクの耳を口元まで持ってくると、こう呟いた。
「なあ、風化せずに消える一瞬の命は美しいか?」
「なっ!」
彼の意図に気づき、更に激しく暴れる。
「私がもっと美しい物を見せてやるよ。」
彼はバーバライクの体に何か細工を施した。
「さて、後が楽しみだ。それまでお前には眠ってて貰うか。」
クキッという音と共に、バーバライクの意識はそこで奪われた。




