お話に来た(物理)
光が晴れると、そこは一面が真っ白い世界だった。辺りに人の気配は無く、自分しかいないのではないかという感覚に陥りそうなる。しかし、目の前にはちゃんと自分以外、誰かいる。そう、この世界に自分を連れてきた張本人だ。
「・・・こ、ここは一体?」
クラクラする頭を押さえながら立ち上がろうとする。しかし、吐き気が催しとっさに手が口に回り、前かがみになる。すると、目の前から声をかけられた。
「おいおい、お前はあの世界の巫女なんだろ。神に仕えし者が神界に来たくらいで気分悪くするなよ」
呆れた様に言うその者に視線を移すと、先程まで見えなかった顔がよく見えた。中性的に近いが、男だとすぐわかる。しかし、今まで会ってきた男とは少し違った感じがした。
「なぜ、私が巫女だと?」
初めて会うはずの人物のはずだが、相手はまるで自分を知っている様だった。その事が真っ先に頭に引っかかり、口から漏れてしまった。
「そんなものは見ればわかる。お前は明らかに肉体がないに近い。その為、余った肉で体を構成している。だから、肉体が年齢と釣り合わず幼児化している。あの場所にいた事から察するに神に献上したんだろ。年齢は魂から見るに70歳くらいだな」
当たり前の事の様に語る彼に、彼女は一層警戒心を強めた。
「あなた、どこの者?そんなことまで知っているなんて。そんなこと、極一部の人しか知らないはず。」
そう、彼が言う通り彼女は巫女で見た目と年齢が釣り合っていない。実際は72歳だが、体の年齢はおよそ12歳なのだ。成長しなかった訳ではない、ちゃんと第二次性徴も超えたし胸も膨らんでいた。身長も今より高かったし、声ももっと大人びていた。だが、彼の言う通り彼女は体を神に献上したのだ。人類の為に。30歳ころから毎年少しずつ、献上していき今ではこんなに小さくなってしまった 。しかし、こんな事を知っているのは神殿の一部トップ達だけだ。しかも、その人達全員彼女の部下だ。それ以外の人はいないはずだった。つまり、こいつはこの世界の一端を知っている。その時点で只者ではない。
そして、なにより一番気になるのは彼がここを神界の言ったところだ。
「ここは、本当に神界なの?」
辺りをキョロキョロ見回しながら聞くと、彼は笑いながらその問いにだけ答えた。
「なんだ?もしかして、緑あふれる桃源郷とでも思っていたのか?」
彼の自身のある口ぶりからして、信じられないが本当に神界なのだろうと悟る。
「どうして、私を?」
「交渉材料かな。」
交渉材料?彼は何を言っているのだろうか。初めは彼の言っている事がわからなかったが、ここで誰と交渉するのか?という疑問が頭に浮かんだ時、答えがわかった。
「あなたまさか神に対して」
「何者だ!」
彼女が言葉を言い終わる前に、誰かに遮られた。
「ここは、神の領域!人間風情が来ていい所ではない!」
上空からした声へ顔を向けると、そこにはサハラン教の者なら知らぬ者がいない存在がいた。人間の様に見えるが、背中からは一対の光る翼が生え、頭には輪っかの様な物が浮いている。
そう、天使だ。
しかも、ただの天使ではない。サハラン4熾天使の一翼、第3熾天使コロニエル。天使の中でも最上級の天使だった。
「ああ、ああ!コロニエル様!」
体が無条件反射で跪き、手を重ね神への祈りを捧げる形へと変わる。
「ん?貴様は確かシミラー様の巫女。」
コロニエルは突如自分に祈りを捧げた彼女を見て、思い出したかの様に呟いた。
「そうでございます!サハランシュテイン神殿の巫女、ガナシャと申します」
まさか、サハラン教の象徴天使の一人に名前を覚えていられるとは思っていなかった彼女は嬉しさに自然と涙零す。
「ふむ、なるほど。これは神の思し召しか。」
コロニエルは腰に差した剣を引き抜くと、それを彼女へと向ける。
「あの、コロニエル様?」
「死ね。」
「・・・へ?」
気づくと、目の前に青い炎を吹き出した剣を持ったコロニエルが自分めがけてその剣を振り下ろそうとしていた。
「ーーー!」
そして、そのまま声を出すこと無く剣を振り下ろされた。
「おいおい、止めてくれよ」
しかし、その剣は彼女に届くことはなかった。彼女の前に現れた手が剣を掴んでいたのだ。
「なっ!?」
この事に一番驚いたのは、コロニエルだった。全力ではないが、そこそこの力を込めた剣を素手で止められたのだ。
「まあ、あの世界の炎神よりはましか」
燃え盛る剣を片手で掴みながら、何事もなかった様に話す彼は尋常ならざるものを感じさせた。
「それでも弱いがな。」
彼が剣を剣先まて撫でると、炎が全て彼の手の上へと移る。
「返すぞ。」
そして、その炎をコロニエルへと打ちつけた。その衝撃でコロニエルが後方に飛ばされた。
「大事な交渉材料なんだから、壊すなよ。まあ、今の反応からして使えなさそうだがな。」
ガナシャは目の前で何が起きているか分からなかった。突然コロニエルに死ねと言われ剣を振り下ろされたかと思ったら、ここに自分を連れてきた男が防いだ。それでーーー
「おい、そこにいると死ぬぞ。どうやら、あいつはお前の方にご執心の様だ」
もう、何が何だかわからない。一番わからないのは、ここまで自分が尽くしてきた相手に死ねと言われたことだった。
「ほら来た」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ」
自分に纏わりついていた炎を吹き飛ばすと、怒気を吐きながら突っ込んでくる。
「時間もないし、さっさと終わらすか」
コロニエルは正真正銘全力の力を侵入者である彼に放った。
「神より賜わった、この剣と炎!人間如きが防ぎきれると思うなよ!」
彼を飲み込む青い炎はコロニエルの怒鳴り声に呼応しながら大きく強くなっていく。
「死ねぇぇぇぇぇ!」
「この程度じゃ、防御せずに当たっても死なねぇよ」
彼はいつの間にか手に握っていた刀を振った。対して力を込めてなさそうに見えたその一撃は、コロニエルの炎を真っ二つに切った。
「・・・なっ、あ?」
目の前の現実が信じられず、もう言葉すら出ないコロニエルはその場で固まってしまう。
「じゃあな。」
そして、いつの間にか後ろにいたその男は炎を切った刀でコロニエルの首を切り落とした。浮遊力の無くなった翼の生えた体は下に落ちていき、ガナシャの目の前にごちゃりと音を立てて着地する。
「・・・・。」
静かにそれを見るガナシャから、先程までの喜びは嘘の様に消えていた。ガナシャは落ちて来たそれに対して特に何も感じることは無かった。




