お話にきた(強行)
この世界の最高位の神殿サハランシュテインはサハラン十二神の中の最高神シミラーを祀る場所である。その権威はこの世界のどの国も逆らう事が出来ないとされており、神聖な場所であるこの神殿には平民のみならず一国の王でさえ、中に入ることは許されていない。この中に入るには重大な事がない限り無理だ。周りを囲う壁はまるで城壁の様に高く、頑丈だ。その為、この神殿そのものを見たものは少ない。しかし、その大きさに似合わず、この神殿に住む人間はとても少ない。一説には100人を超えた事が無いと言われている。
唯一、門がある場所は24時間常に衛兵がおり、衛兵一人の強さは王国騎士団数百師団分の猛者達だ。全員が敬虔なサハラン教徒である。しかし、訳あって前線から離れた物が多く、若い人は少ない。そして、その日の朝の警備が偶然にもその衛兵の中でも一番若い17歳の少女だった。
「ふぁーむん」
可笑しな欠伸を周りに響かせる様に欠くと、朝の静けさもあって辺りにこだました。いつもの彼女なら、人前などでは決して見せないはしたない姿である。しかし、早朝ということと周りに誰もいないという状況下であったの為、遠慮なく欠伸した。眠い目を擦り、無理やり目を覚まそうとする。今日は午前中までが担当なので、午後はがっつり寝るつもりだ。
「ふぁーむん。」
またも、欠伸が口から漏れる。どうせ、こんな神聖な場所に乗り込む様な人などいないのだから、少し寝てしまおうと思ってきた。そして、ちょうど太陽が横から現れた時、光と一緒に何やら影が彼女の目に差し込んできた。
「・・・・・。」
先程まで欠伸を欠いていた表情とは一変し、厳しい冷徹な顔になる。その影はそんな彼女の構わず、そのまま神殿に近づいてくる。
「何者だ?」
彼女の間合いに迷わず入ってきた影に余計警戒心を強める。その影は彼女の質問に答えずそのまま近づいてくる。腰に差した剣に手をかけ、攻撃態勢を整えた。
「それ以上近づけば敵と見なす!」
しかし、その影は止まることなく近づいてきた。そして、彼女は居合の様に鞘から剣を引き抜いた。抜刀と攻撃を同時に行い、なおかつ素早いこの攻撃は彼女の十八番の一つだった。目にも止まらぬ早さの剣はそのまま彼の首に吸い込まれる。
「取った」と思ったその時、にわかに信じられないことが起きた。目の前から影が、煙の様に消えたのだ。当たりどころの失くした剣はそのまま空を切る。
「なっ!?」
あまりの驚愕にさっきまで眠ろうとしていた目が見開かれる。必死に彼の姿を探すが見つからない。
「っ!?」
だが、首に衝撃が走り彼女の意識はそこで途絶えた。地面にうつ伏せにドサリと倒れ、影がそれを見下していた。
「居合か。悪くはないが、まだまだ遅い。私の国からすれば中の上くらいか」
弾丸すら切ることができる居合術を極限まで極めた者がいる日本からすればまだまだ甘い方だった。
「さてと、じゃあ話し会いに行くか」
影はそのまま神殿の中に入っていく。これが、この神殿始まって以来の侵入者である。
「であえ!であえ!侵入者だ!」
日がそこそこ登った頃、新入りの様子を見に行った衛兵が彼女が倒れているのを発見した。彼女の周りに、彼女の者ではない靴跡が幾つか残っていた為、侵入者が入り込んだと気付いたのだ。だが、その時にはすでに遅かった。その侵入者は既に神殿の中にある一番際奥の礼拝堂に入り込んでいたからだ。
天上にある天使が描かれたステンドガラスから漏れる神々しい光が、中央にある神をかたどった象に差し込んで、まるで今降臨したかの様な臨場感を生んでいる。
「さて、ここまで来れば。大丈夫かな。」
侵入者はその神の象に触れ様と手を伸ばす。しかし、
「お止めなさい!!」
後ろから響いた女性の声に止められた。首だけを声のした方向に向けると、そこには一人の幼い少女が立っていた。
「それは、神聖な神の象!あなたの様な者が触れていいものではありません!」
剣幕を背後に携えながら怒鳴る彼女の声が辺りに響き渡る。それに気付いた衛兵達のこちらに向かってくる音が神殿内を闊歩する。しかし、侵入者はそれに動じず目の前の少女に呟いた。
「ちょうどいい。お前を連れて行くか」
「何を、」
言っていると言おうとしたその時だった。侵入者はそのまま神の象に触れ、そこから出た眩い閃光が彼女の視界を塗りつぶした。
そして、光が消えた時にはそこにはもう誰もいなかった。少し経ってから駆けつけた衛兵は、そこにいるはずのこの神殿の最高位の巫女がいなくなっていることに気付いた。




