第3話 2人
俺が奴と交わした取り引きは偽物の存在を提示する事とそれにより出来るだけ混乱を生じさせること。
そんなのは簡単な話ではない、と考えていたが今朝の金沢 敏明殺害事件のおかげで簡単に終わりそうだ。
外の監視カメラにバッチリ写っていたしな。天路 湖々路の姿が。
だが、俺はこの時点で間違えていたのだ。この時やつを始末しておけば俺は俺の計画を成し遂げられたはずだ。
「じゃあ、湖々路ちゃんの偽物が金沢さんを殺したってこと??」
そう聞き返すのは小夜美 月琉。
周りもざわつき始める。そりゃそうだろう、いきなり自分らに化けて誰かを殺す偽物がいる。そんなふうに言われたら誰だって平常心は保てない。
その質問に対し「あぁ。」と返事をして、それでこの集会はとりあえずお開きになった。
「私、怖いです。」
花江 恵美はそう言って浅木 裕二に抱きつく。
浅木 裕二は元警察で正義感が強い。
「大丈夫さ。だが、ただでさえ狂った奴らが多いというのに偽物だなんて、困ったものだよ。」
彼女はいつも5時頃には家を出て自分の役割をしている。そんな時間1人で外に出ることも考えるとより不安なのだろう。
ここにはもう9人しかいない。なのにその中にイロモノが何人も。どうしたらこんなに気味の悪い街になるんだかな。
そんな街に偽物……頭が痛くなるよ。
そうこう考えてる内にもう暗くなってきたことに気付く、後ろにいる花江 恵美に声をかけようと振り返ろうとした瞬間強い衝撃が走った。
「私……怖いんですよ。もしかしたら今そこにいるあなたも偽物なのかもしれない。それならいっそ殺してしまおうと思ったんです。私は……悪くないですよね。」
そういう彼女の顔は悲しんでるようにも怖がっているようにも見えなかった。
時同じく椰子緒 御影と天路 湖々路。
「私の偽物が金沢さんを殺したんだよね……。偽物がやったとはいえ凄く悪い事をした気持ちになるよ。」
確かにそうであってそうでない。俺だけの知っている事実。それを言う必要はない。だからここは流そう。
「そうだ。君ではない君がやったのだ。」
天路は少し戸惑って「あぁ、そうだよね」と返す。
彼女にはなぜこのような遠回しな言い方をしたのか。まだわからないのだろう。いずれわかるのだろうか。いや、こんな事実知らないでいる方が幸せだろう。
そして、それぞれの帰路につく。今日も奴は偽物で何かを仕掛けていたのだろうか。俺の見解では偽物の確認は出来ていない。解散した後に現れている可能性もある、考えても無駄なことか。
そんな事よりやつの言っていた、出来損ない2人と裏切り者とは一体なんなのだろう。
本来、この研究都市は10箇所存在するはずだったらしい。
だが、そのうち2つ「分身」と「時間」の能力はあまりの不出来さに研究都市のいずれかに捨てられたらしい。
それとは別に「記憶」の能力の持ち主が本部を裏切り研究都市を転々としているらしい。もしこの街にいるとしたら危険過ぎる。何より俺の目的がそいつに変えられてしまったら……。
これも考えるだけ無駄な事だが、俺の中から不安が消える事がその日のうちはなかった。
───朝7時。私、天路 湖々路が支度を済ませ外へ出ると花江 恵美さんがいた。
「ねぇ、今日学校が終わったら図書館へ来てもらえる?」
今日は帰った後御影くんと約束があったが少しお話するくらいだろうと思い返事をした。