ろく
浦之ハイツは佐々浦神社から徒歩五分といった距離に構えられていた。
祭りの後だというのに、そこへと繋がる道には誰も歩いていなかった。それは言うまでもなく、自転車や自動車までもが。
それでも、街灯が幾つも配備されているお蔭で道すがらの恐怖心は殆ど無かった。
祭りの余韻に浸りつつ、肝試しへの高揚感を一層に高めつつ。
涼と志保さんが仲睦まじかったのは然ることながら、ゆーすけと理恵もここに至るまでの二週間で随分と人目も憚らずにいちゃつくようになっていた。つまり俺が孤立する時間が間々有った訳だが、そんな事が気にならない程に肝試しの事しか意識に無かったり。
下駄のカランコロンという硬く澄ました音が夜道に響き。
風の音も虫の声も一切無く、本当に静かな夜だった。
そして道なりに、向こうの方に界隈で唯一の木造物件を見付けた。
それを誰かが指差すこともなく、俺らは全員がそこに視線を向けて押し黙った。
嗚呼、何と言う事だろう。宛らに廃墟の病院でも訪れたかの様な、或いは月明かりだけが頼りの山林の淵へと向けて更に更にと歩を進める様な。遠目に見ているだけでも背筋が凍るのに後退することが惜しまれる様な、
怖いもの見たさ。
コッ、コッ、コッと下駄の歯は慎重に刻まれ。
汗をじんわりと滲ませ。
蜃気楼の向こうを覗く様な眩暈に体幹が揺れ。
誰かの呼吸音にすら鼓動が急かされ。
後ろで喋る四人の声が次第に遠くなり。
浦之ハイツまであと何十メートルも無い所まで来た途端、
理恵と志保さんが悲鳴を上げた。
錯乱し、
涙声で。
「見てっ……。死体が……。嫌……」
涼は宥め、ゆーすけは茶化し。しかし俺らは全員が足を止めていた。
202号室のカーテンは開かれ。
窓の向こうには、
がらんどうの一室が広がっている様にしか見えなかった。
誰も居ない、けどなんかヤバい。それが俺と涼とゆーすけの見解だった。そして話し合った結果、それ以上先には俺一人で行くことにして四人は先に帰すことにした。
浦之ハイツに背を向けて四人を見送って。
誰かが見ている。
背筋がぞくりと震え。
汗が一層に溢れて。
後悔が頭の中を打ち鳴らし。
振り向きざまにカメラに収めて全力疾走で逃げ切る。それ以外のアイディアが浮かぶ余裕も無いままにポケットからスマホを弄り出した。
そして振り向いた。
誰も居ない。
けれども、カーテンが、閉っていた。
まだ誰かに見られている。
灯りが一切点いていない部屋から誰かが見ている。
理解するのに何秒も費やし。
押し寄せる絶叫を喉元で押し殺し。
途端に鳥肌が全身を覆い。
俺はスマホを握り締めたまま、浦之ハイツに背を向けて一目散にその場から逃げた。息を呑んだまま、窒息しそうなくらいに必死に走った。
そして涼たちと合流した時、俺はなんとなく謝っていた。
もう、誰も見ていなかった。