陸
「佐々浦の神社でワリと大きめの祭りがあるらしいんだけどさ、再来週の日曜に。誰か一緒に行かん?」
そんな言葉を口走っていたのを今でも覚えている。確か、七月初旬の事だった。仲良くなって間もないばかりの友人たちと学食の白いテーブルを囲んでランチを取りながら夏休みの予定を話し合っていた最中の何気ないワンシーンとして。
同席していたのはゆーすけと涼と理恵の三人だった。別段理由は無かったのだけれど、この四人で集まって何かすることは多かったような気がする。とは言っても大体が、俺が一人暮らしをしていたアパートに集まって飲み会をしていた程度だった気がしないでもないのだが。ちなみに酒の調達係はいつも涼だった。アイツは当時からスーツを着せれば新卒に紛れても違和感が無いくらいに大人びていて、年齢確認をされる事がなかったのだ。
それで、真っ先に俺の話に賛同の声を上げたのが涼だった。元々の行動力に加えて、高校からの付き合いの彼女を楽しませたいという単純な理由が並べられた。「涼の彼女を見てみたい」という理由でゆーすけと理恵も自然と参加する形になった。
この四人の中で恋人がいたのは涼だけだった。ただ、雰囲気だけで言えばゆーすけと理恵の親密度の上がり具合も中々に早く。もしこの企画が祭りだけだったら今頃は二人で揃って幸せになっていたのかもしれない。
しかし俺は、悪意も無く好奇心だけで提案を続けた。
「でさ、その近くに心霊スポットが有んだけど、少し覗いてみねえ? アパートの一室で他の部屋には普通に人が住んでるらしいんだけどさ」
悪意が有ったとしたら、涼が絶対に話に乗って来るだろうという公算有りきで話した事だろう。場の盛り上がり具合も加味すればゆーすけと理恵も断ることは無いだろうと踏んでいた。
そして案の定、三人とも賛同した。現場の話をすればする程に三人の不安は拭われた様で、終いにはゆーすけが「どうせなら中に入って記念撮影しても問題無さそうだな!」とまで言っていた。セルカ棒を誰が持ってくるとか、そもそも霊は写真に写るのかとか。気が付けば祭り以上の盛り上がりを見せていた。
本当にそんな心構えのまま。少しずつ気持ちを高揚させながら、俺らはその日を迎えた。