新訳 本能寺の変 終幕
翌日、堺にて。会合衆により徳川家康のもとに、本能寺の一件が伝えられた。
「服部をここへ」
「すでに」
家康が呼び掛けると、どこからともなく黒装束の男が現れた。
「すぐに三河へ戻るぞ」
「伊賀越えの準備は整っております」
「さすがじゃ。では、行くぞ」
「御意」
そのころ。羽柴秀吉の陣にて。
「羽柴殿は、なにを読んでおられるのですか」
「おねからの手紙じゃ」
「戦場にいる亭主を心配なされているのですね」
「まったく。ワシにはもったいないくらいじゃ」
そのとき、あわただしく兵が入ってくる。
「なにごとだ」
「毛利家の伝令をとらえました」
「書状は持っておるか」
「もっていました」
「それを渡して、下がれ」
「は」
「こ、これは……」
「何が書いてあるのですか?」
「上様が……明智……討たれ……」
「織田様が討たれたのですか!?」
「そう……じゃ……」
「これは……好機ですぞ!」
「じゃが、毛利が……」
「私にお任せください。すぐに和睦をまとめてまいります」
「うむ……頼むぞ……官兵衛」
「今すぐに」
秀吉は官兵衛に交渉を任せると、顔をほころばせた。
「しかし、明智殿も人が悪い」
秀吉はその白紙の書状を燃やした。
十日後。中国大返しを成功させた秀吉と光秀の軍は、山崎の地にて激突した。
そして、光秀の軍は敗退。
今は拙と共に林の中にいる。ここで家康の救援と落ち合う算段だからである。
と、そこへ三人の忍が現れた。彼らは服部半蔵の部下たちだ。
「明智様ですね?」
「左様」
「半蔵様の命を受け、助けにまいりました」
「恩に着る」
「では、着物をお着替えください」
着替えと聞いて、光秀が困惑している。
「あなたは、ここで落ち武者狩りにあったことにしますので」
「わかった」
光秀が着替え終えると、忍の一人がその着物をもって言った。
「では、隊長あとは頼みます。」
そういうと、その忍はどこかへ行ってしまった。
「では明智様、これよりは天海とお名乗りください」
「天海?」
「明智光秀はここで死んだのです。そういう筋書きです、天海様」
「……わかった」
かくして、本能寺の変は終結したのであった。
本能寺の変 完結。