新訳 本能寺の変 二幕
毛利攻めをしている秀吉から援軍の要請があったのは、その二日後のことだった。
「きんか。一万五千の兵を率いて、サルの加勢にいってくれ」
「上様はどうなされるのですか」
「儂は本能寺での茶会ののちに、お前の軍に合流する」
「茶会ですか」
「今、島井宗室が京都を訪れている。急ぎいかねばいつ博多に戻るやもしれぬ」
「楢柴ですね」
「左様。利休が茶会の算段もつけているゆえな」
「わかりました」
時は流れて、六月一日の夜。京都にて。
「日向守様、広瀬様より言伝を預かってまいりました」
「申してみよ」
「は。長浜城におられる、羽柴様の親類縁者につきまして、脱出の手筈が整った。とのことです」
「ご苦労。下がってよいぞ」
「は」
「皆の者! これよりわが軍は、本能寺に向かう」
「ゆくぞ!」
夜の間に光秀軍は、本能寺を包囲。
そして、彼はわずかな部下と拙を連れ本能寺へ入った。
「上様と話がしたい。起こしてはもらえぬか」
「明智様! なぜここに」
出迎えたのは、森蘭丸。
「急を要する話ゆえ、上様に直接お話ししたい」
「ですがーー」
「よい。下がれ、蘭丸」
蘭丸の背後から信長が姿を現した。
「は」
「して、何用ぞ」
「謀反にございます」
「ぬしが、か」
「羽柴殿たちも協力関係でございます」
「左様か」
「ですから、某の部下に紛れてお逃げください」
光秀に真の作戦は伝えていなかったが、彼も信長を助けたいらしい。
「是非もない」
「なぜですか」
「人生五十年。もう、儂の時代は終わりぞ」
「ですがーー」
「くどいぞ」
光秀は悔しそうに顔をゆがめた。
「では、最後になにかおっしゃりたいことはありますか」
「……次は世界を目指す」
かくして、信長は自ら本能寺に火を放ち、消えていった。今頃は拙の部下と合流し隠し通路へ向かっているはずだ。
光秀は燃える本能寺を目に焼け付けていた。
次回完結。