桶狭間の戦い 裏話
裏話。
今川の大軍が押し寄せていると聞いて、軍議は揺れていた。
「籠城するべきです」
「野戦に持ち込むべきです」
「降伏するしかありません」
皆好き勝手にいいよって……。
「上様!」
「いかがいたしますか」
「ご決断を!」
「少しの間、一人にしてもらえるか」
ゆっくり考える時間がほしい。
そうして一人で考えていると、誰かが入ってきた。
「誰じゃ? 一人にせーー」
そこにいたのは、
「なんじゃ。そうけちけちするでないわ」
「何用じゃ」
「そなたに策を授けようと思ってな」
「策じゃと?」
「妾の父を誰だと思っておる?」
「美濃の蝮……」
「作戦は以上。どうじゃ?」
「それしか、ないか」
そう、今川に勝つにはそれしかない。
「がんばるのじゃぞ。うつけ」
つらい戦いになりそうだ。
「……にしても、お主の妹は本当に……」
部屋を出る時に、あいつが何かを言っていた気がする。冷静になると、今更ながらにそう思った。そして、授けられた策の非情さも身に染みてくる。
だが、立ち止まってはいられない。軍議の再開だ。
「作戦が決まった」
「本当ですか? 上様」
「籠城じゃ」
「上様!!」
「千の兵をもって、準備をさせよ」
「は!!」
しかし、そこに残ったものがいた。
「正気なのですか、上様」
「不満か? 恒」
「いえ、ですが……」
籠城といったのは、今川の間者を欺くための芝居。
「安心せい。真の策は別にある」
その後。四千弱の兵が戦場へと向かった。
「鷲津砦と丸根砦が落ちました。兵たちも全滅です」
作戦とはいえ耳が痛い。
「上様、いかがするつもりですか」
「…………」
「上様!」
「善照寺砦まで軍を進める」
「…………」
「皆のもの、準備にかかれ」
これも作戦のうち……残された兵たちよ、すまぬ……。
善照寺砦について、しばらくののち。
誰もが予想しなかっただろう作戦を皆に告げた。
「中島砦へ、軍を進めるのじゃ」
「上様! いくらなんでも、それは……」
「儂に逆らうのか」
「滅相もございません。ですが……」
「とにかく、とにかく、軍を進めるのじゃ」
自分に言い聞かせるように、
「軍を進めるのじゃ」
自らが先陣をきって進む。
そうすれば、皆ついてくるしかない……。
偵察部隊から報告が来た。
今川軍がこの砦に向かっているらしい。
あやつの作戦通りの動きだった。勝つためにはこのままいくしかない。
「今川の本陣へ奇襲をかける! 皆の者、我に続け!」