起
高校生のころ塾の講師が「太く短い人生か細く長い人生かどっちがいいか?私?私は太く長くいきる。」と言ったのを思い出した。
私はというと現在、細く短い人生の途中にいるように感じる。
30年生きてきて男として何一つなせていない。
普通に生きることですらできなかった。
生まれ変われるのであれば同じ人生はごめん被るだろう。
ある3月の終わり私は死ぬことになった。
家に帰宅途中胸を刃物で刺される。
痛みと出血。
失われてゆく体温と意識。
呼吸は激しくなり息苦しさとゆっくり細くなってゆく。
満足ゆく生き方ではなかったが、
これからのことを考える必要がなくなるだろうとひそかに安心していた。
視界が暗くなってゆく・・・。
目が開く。
しらない空気の香りがした。
草原なのか。
視界には緑色で背の高い植物がびっしり生えていた。
私は仰向けに倒れていたようだ。
思考をめぐらしてみても記憶と現状とにつながりが見出せず困惑している。
さっき刺されて意識を失ったはず。
つまるところ死んだのではないか。
だが今は生きている。
しかし、ここは一体どこなのだろうか。
ぼんやりと空だけを眺めていた。
空だけは記憶に残っていたものと相違なかった。
瞬間心臓が跳ね上がる。
視界に異質なものが飛び込んできた。
条件反射で飛び起きた私は視界はそらさず警戒する。
逃げ出さなかったのは向こうが動かなかったからだろう。
生き物なのか物体なのか、攻撃してくるのかそうではないのか。
情報と観察が脳を一瞬で駆けた。
それは180センチくらいの大きさで重量感のある人間の形をしていた。
男性のようにみえた。
服は着ていない。
髪は短く逆立っている。
顔は西洋人のような東洋人のようなよく分からないつくりだ。
色はよく焼けて白い色のラインが胸に横向きで引かれている。
原住民のような野生の雰囲気を漂わせていた。
「おい。言葉わかるか?」
「えっ?」
「お・れ・は・お・ま・え・だ!」
彼は俺を指差しながら聞きとりやすくゆっくりそう言った。