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「こちらが執務室になります。すでにお待ちですので失礼のないようにお願いします」
受付のお姉さんは豪華なドアの前につくと手を離しそういった。
「あ・・・もちろんです。お任せください」
手が離れた事なんて悔しくないぞ。目にゴミが入っただけなんだからね。
そんな誰に対する言い訳かもわからないことを考えながら言い切った。
「ほんとにお願いしますよ?」
・・・コンコン
「失礼します。御剣蓮様をお連れしました。入室してもよろしいでしょうか?」
すると中から谷の湧き水のようなきれいな声で
「どうぞ」
と聞こえてきた。これだけで俺の内心は先程のビッチの手の感触などなくなり声の主への期待だけが膨らんでいった。
先ほどのビッチは、私はここまでですのでといって去っていった。
「では失礼します。」
・・・ガチャ
中に入ると豪華ではあるがくどくないバランスのとれた品のある調度品の数々があり、その中央には一際存在感を発するきれいな土下座をする女性がいた。
「申し訳ございませんが、御剣 蓮様にどうしてもお願いしたいことがございます」
「・・・え?何この状況・・・取り敢えず顔を上げて事情を説明してください」
この時、この土下座姿でも存在感を発する女性の顔へ対する興味しかなく早く顔を上げて欲しかったのである。
優しさ?なにそれ美味しいの?
「ありがとうござi「眼福でございます」・・・え?」
こちらの声を聞き顔を上げた女性はそれは美しく、そのとても大きな御胸様が零れそうなドレスを着ていた。危うく鼻から放送禁止になる液体が流れるところまで行きそうだった。
ちゃんと耐えたよ?本当だよ?
「すみません、取り乱しました。続きをどうぞ」
「・・・ゴホン。では改めまして私は、ハトホルと申します。亡くなられた直後で混乱されている中大変恐縮なのですが、お願いしたいことがあるのです」
ハトホルと名乗る女神様は一瞬躊躇したが、咳払いの後話しだした。
「御剣 連さんが生前購入された、月の住所を譲っていただけないかのお願いなのです」
「レンで結構ですよ。月の住所??・・・あぁ、あの少し前にネタで売り出された権利書ですか。しかしまた、なんであんなものを?俺も忘れていたくらいなのに」
月の住所とは、将来地球人が月へ行けるようになったらとの名目で国が販売したものだ。俺は、移住したいという気持ちはなかったものの、持っていれば飲み会の席などで笑いが取れると思い、当時の貯金全て使い果たし購入したものだった。
「実は、まさか人間が月の住所を販売しているなど夢にも思わず、私とホルスの家を立ててしまったのです。あ・・・ホルスは旦那ですね。一応子供もでき、生活が安定した頃職場復帰し、地球の様子を見ていたら月の住所が販売され始めておりました。私は急いでその住所を購入しようと思いましたが、すでに売れてしまっていて・・・今更家を建て直すわけにも行かず、あなたを待っておりました」
「そうですか。まあ死んだ身なので月の住所等本来どうでもいいのですが、月の住所をあなたに譲ると私にメリットはあるのですか?」
先ほどまで、死んでるんだからハトホルにくれてやるつもりだったが、既婚者と知った時点で優しくする気は失せていた。
「転生などいかがでしょうか?さすがにとんでもないチートを渡すわけにはいきませんが、現在の記憶を持ったまま少しの能力をプレゼントし、剣と魔法の世界へ転生するというのはいかがでしょう」
「転生ですか・・・できれば子供からやり直しは遠慮したいですね・・・生前の体で無効に転移は出来ないのでしょうか?」
内心では、異世界に転生したくてしたくてしょうがないものの、がっつくと格安条件で転生させられそうなのでなんとか、ごねてみることにした。
そもそも、現世の記憶がある時点で、乳児期の授乳で毎回生殺しを味わうなんてゴメンである。
「えーっと、肉体はすでに火葬されておりますので、同様の器を作成しそこに魂を入れる形であれば出来ます。それでよろしいですか?」
「ならそれで。あとは、どんな能力がもらえるかですね」
そう転移しても言葉は通じず、無一文で野垂れ死にになるのは嫌だ。せめて、身体能力の強化と翻訳、当面の生活費くらいは用意してもらいたい。
「あちらの世界では固有スキルが一人一つは発現するようになっております。こちらは魂に刻まれているので、変更できませんし、あちらの世界に行かなければ何が発現するのかわかりません。それ以外では、言語理解・筆記の能力、後は身体能力強化のスキルですね。スキルはあちらの世界で努力していただけばある程度増えるので、自身で努力してください。強力なスキルを努力せずに手に入れると魂の器が耐え切れなくなってしまいますので。それと、持ち物として魔法のアイテム袋と1週間分の保存食・現金と初心者用武器・防具、生活魔法、ステータスプレートでいかがでしょうか?ステータスプレートはあちらの世界に付き次第、血を一滴たらしてください。あなたの身分証明書にもなりますので」
「いたれりつくせりでありがたい。後器の容姿は少しだけかっこ良くしていただけると嬉しいのですが・・・」
そう、これ重要である。あちらの世界でブ男として君臨させられても悲しいだけである。せめて前世よりの悲願、素人童貞脱却をを果たすのだ。
「分かりました。ではあちらの世界での平均的な容姿より少し優れているよう、作成いたします。説明は以上になりますが質問はございますか?なければ執務室のドアから出ていただければそのままあちらの世界へ到着するよう空間がつながっております」
「いえ・・・行ってみないとわからないこともあるでしょう。ではこれで、失礼させてもらいます。いろいろ有り難うございました」
「はい。ではよい転生を・・・」
そうして俺は期待に胸を踊らせながら、ドアを潜った。