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インセイン・ルーザー 1

海外的ブラックジョークというか、過激表現大好きな作者が書いたものです。

劇中に放送規制されるような海外スラング等を沢山発する部分がありまして、その部分のルビの振り方がかなり特殊な部類になると思います。読みにくいかも知れませんが(使用ブラウザのFirefoxでは表示がちゃんとできてなかったので)、もし好みに合いましたら最後までお付き合いを。

どこからか、少女の苦悶くもんにうち震える声がはかなく響いている。

地面一面におびただしい血が広がり、天井で規則正しく並んでいる電灯を写していた。時折、どこからか滴る血液によって波紋が広がり、見る人を戦慄せんりつさせる光景をつくる。

空気に漂うのは、流されたばかりの苦い血の臭気。臓物が発するむせかえるような腥臭せいしゅう。死後垂れ流れ始めた排泄物はいせつぶつの悪臭。それら激しい汚臭は渾然こんぜんとなって鼻をき、肺腑はいふをえぐるばかりか、頭蓋あたまの奥の働きさえおかしくさせる。

一息で涙と悪寒と吐き気をもたらすほどの、悪夢のような死臭が、狭い狭い地下道に充満していた。

——そこにはあわれな死体があった。

地面に仰向けになって死んでいる。まだ学生こどもだった。突きつけられた不条理の前に為す術もなく屈してしまった、恐慌と無念の表情をかおに張り付かせている。死因は明らか——だが、普通ではない。少年が傷をかばうようにして手で抑えている致命傷は、あまりにも凄まじく恐ろしいものだった。少年の左半身は袈裟懸けさがけに深々と引き裂かれている。裂かれた断面からは、白い真珠のような骨のつぶらな断面がのぞく。まだ湯気の立つ暖かでグロテスクな内臓がこぼれ、そこ

からのりのように粘りのある真っ黒な血が今も滴っている。その死に方は狂気の沙汰だった……

——そこには恐ろしい死体があった。

大きくひび割れた壁の下で、道の隅に沿うように崩れ落ちている死体が見える。彼は砕かれた胸を支点にくの字になって反り返って、目を背けたくなるほどの死にようだった。折れた肋骨ろっこつの幾つかが、衣服ジャージと身体を突き破って胸元から飛び出している。その鋭利な骨から滴る血はどす黒く、内臓が潰れているようすが見て取れる。顔は生前の名残を失うほどゆがんでおり、親しい者も一目でわかるかどうか。頭部は壁と衝突した際にか砕け、夥しい出血によって血塗れ。目元と言わず鼻腔びこうと言わず穴という穴から血を噴き出したような凄まじい痕。口腔こうくうからは喉をひっくり返したとでもいうような、飛び出してしまった舌が長く垂れ下がり地面を舐めている。言うなれば、トラックにでも轢かれたかのような凄惨な事故現場——だが、車両など入る隙もないこの地下道の道幅がその考えを否定させる。かと言って爆発物特有の化学物質の臭いなどはなく、燃え尽きたあともない。何を用いたかは謎だが、人間を死に至らしめるほど激しく打ち据え、軽々と吹き飛す力とは……その弾みで叩きつけられた地下道の壁面にひびを入れるほどの力とは……

——そこにはおぞましい死体があった。

打ち砕かれたレンガと、コンクリートの破片をぶちまけられる半壊した地面の上に、大きな花のように咲き拡がった人間の肉塊が見える。頭上から、デタラメな怪力によって、圧し潰されたとでもいうのか……そう考えさせられるのは、そのおぞましい肉花の花軸に、犠牲者の粉々に砕かれた頭蓋と飛び散った脳みそ、それに乱れた毛髪が収まっているからだ。そのうえ、犠牲者にはかつてあったはずの身長というものが全く無くなっていた。肉体を支える骨という骨のすべてが、潰されればこうなるというのか……全身の肉という肉が、地面の上でだらしなくたるみきって押し拡げられているのだ。圧し潰された肉体は身につけていた衣服を挟み込んで、あたかも地層のごとき層を織り成していた。剥き出しの脂肪と筋と血管が色なす鮮やかな真紅の花弁と、血を吸った衣服が黒く変色してあたかも枯れたかのような花弁をみせる。それらが方々に、それぞれがいびつな楕円を描いてグロテスクな花冠のようにひしゃげて拡がる——まさに死を咲き誇っているようだった。

激しい恐怖とともに問いただされる……人間の身体とは果たしてここまでもろいものであったであろうかと……




「魔法とは——勇気と希望!

魔法とは——愛と平和!

魔法とは——夢へと導く奇蹟の力!

魔法とは——君自身!

君は選ばれた——この世界に選ばれたんだ! 世界の平和と、みんなの笑顔のために戦う——魔法少女に!!」

鬼気迫る笑顔でささやく、奇妙な小動物。例えるなら——不細工なマスコット。

初めて絵を描く人が、万人受けをめざして可愛いマスコットをつくろうとしたかのような。張り切って考えたが思うようにうまくいかず、どこをどう改善したらいいかも分からなかったかのような。ただ迷走したあげく途中で疲れたからめんどくさくなって、すぐ仕上げたとでもいうような。丸っこいだけのかたちに、可愛さのすべてが詰まっているとでも主張しているような見た目。あえて動物として見るなら……猫……

そんな得体のしれない恐るべきものに向かい合うことを余儀なくされた——少女。彼女はまともに話すこともできないぐらい恐慌に陥っていた。泣きはらし、胃液臭の嗚咽おえつは止む気配がない。口の端には嘔吐おうとのあとが線を引いている。少女の前の光景は異常そのもの。いつのまにか日常は陰惨な狂気そのものに変貌へんぼうしてしまっていた。今では、自分を取り巻く世界すべてが脈打つ臓腑のごとくうごめいているかのような——グロテスクな闇に呑まれる錯覚に陥っている。

ありえない……ここ日本だし!

ありえない……これ現実だし!

ありえない……あたしカンケーないし!

楽しいことをしたい(ひまな)ときにする|ちょっとしたアルバイト《イケナイこと》——その程度。

少女にとって、この地下道はそんな時に使うありきたりな場所だった。

ここは都道府県のなかで、日本有数のお金持ちが集まると言われる街。お金持ち御用達のとある名門私立学校の途中にある歩行者用地下通路(スクールゾーン)。今では成人してさえいそうな昔の地元小学生が、社会学習の一環で描いた稚拙な絵が壁いっぱいにある通路——今ではインクの溶けかかった不気味な絵のある通路。そういう理由でかは少女は知らなかったが、なぜか普段から歩く人自体が少なかった場所。今では娯楽の少ない街に住む、ちょっと悪いことをしてみたいお年ごろの非行グループのたまり場と化した場所——もう普通の人なんて滅多に通らないような場所。

ここは自由だった。危ないことも好きにできるし、危ないものも手に入る。何よりうるさい大人がいない——自由な場所だった。疑問すら抱いたことはなかった。

なのに……安全だいじょうぶって言ったの誰だよ! みんな言ってたじゃねーか! 信じてたんだぞ!

「怖がらないで……ボクはキミを助けてあげたんだ。アレは『魔族』——異世界である魔法界の支配者『デスポート』が時空間における禁を破って、この世界の支配を目論んで送り込んできた手下さ。友だちのフリをして、伝説の魔法少女である君を殺そうと近づいた悪い奴らなんだよ」

小動物の発する奇妙な猫なで声——中年の男が無理に子供の声をマネたまま、自分が子供であると信じきってしまっているような遊びでない本気の声。怖気のはしる声。

その声を聞くたびに少女は悲鳴を上げる——完全拒絶。小動物と少女との間で会話は成り立ちそうにない——永遠に。

「……ボクの名前はトルテ! 『デスポート』の魔の手からこの世界を守るためにやってきた妖精だよ! ボクは君のような女の子をずっと探していたんだよ!」

——だが、トルテと名乗った小動物はお構いなし。

少女——何を言っているか分からない。脚をばたつかせて精一杯の威嚇——これ以上近づかないで。

「いいかい、事態は切迫しているんだ——よく聞いて! 『デスポート』ヤツの望みはただひとつ、空間と時空を支配することだ。『完全なる世界』と呼ばれる、すべての現実を完全なコントロール下においた世界にしてしまおうとしてるんだよ!」

トルテ——純粋な狂気(マジメ)そのもの。

「この世界を救えるのは、もう君だけなんだ! すべての世界を救えるのは——伝説の魔法少女しかいない! 『デスポート』の悪しき野望からこの世界を救うため——伝説の魔法少女になってボクと一緒に戦ってよ!」

少女はただ耳を塞ぎ、目を閉じ、力尽きるまで喚く——そうすることによって事態は解決してくれると願って。

もう二度と、エンコーもクスリもイジメも二股も……ぜんぶぜんぶ悪いことなんてしません。もう二度としません!

だから神様、神様! お願い——助けて!

「——だから、君の名前を教えてほしいな。君の名前を、ボクが知ることでキミは契約を受け入れた証になる——さぁ! ボクと契約を! ボクと契約して魔法少女になってよ!」

少女の祈りは虚しく——予断をゆるさない会話進行。その極致。

……だが、トルテの心からのお願いも虚しく——少女には届かない。少しも聞こうとすら——いや、トルテを見ようとすらしない。

「……ボクと契約してくれないの? 喚いてるばっかりじゃなくて、ちゃんと返事しておくれよ——今も地球と人類が滅びようとしているんだよ? 君一人の問題じゃないんだよ?」

彼女は完全無視——一方的な交渉の決裂。トルテ——これだけボクは誠意を示しているのに……

「……くそおんな……よおおおお……」

微かに聞こえた——圧倒的悪意。その場の気温が五度は低下したかのような——怖気。穏やかさを歪によそおう不細工な表情は剥がれ落ち、あらわになる怪物(トルテ)の本性。

「……俺がどんだけ、この世界のこと考えてっと思ってんだよぉ……おお? それなのにお前らときたら……このきたないメスブタがぁ……」

蔑みを含んだ失望からの嘆息——ドスのきいた小声を連呼。聞き取れない。だが、少女への明確な殺意をのせた罵りとわかる。

憤怒の渋面に浮かぶ、紅い双眸そうぼうに強い強い憎しみを灯している。少女は絶句する——反射的に身じろぐ。喚くどころではない——どうにもならないという決定的予感。

トルテは少女をまっすぐに見るのをやめ、唐突に震えだした——それは生物には決してできない常軌を逸した動き。

少女は視た——視界はぼやけていないのに、どこから見てもトルテの顔を見ることができない。その超常的な恐怖。少女の脳裏に蘇る悪夢——友だちが、情け容赦無い理不尽な肉塊へと変貌させられた悪魔のような力。トルテの浮かべる殺意に抗えない、か弱い自分。自ずと導き出される答え。反射的に、素早く——

「やめて! やめて! やめて——お願い殺さないで! 契約でもなんでもする! だから殺さないで!」

不可避の死を突きつけられようとする少女の悲痛な決意。

トルテのトーンがガラリと変わる——収まる。おぞましい即興劇が再び。

「やっと決心してくれたんだね! ありがとう! これでボクの使命も果たせる! 『デスポート』の魔の手から世界が救われる! じゃあ——さっそくボクと契約を結ぼう♪ 君の名前は?」

「水城……水城・サクラ……」

「そう——サクラちゃんだね! 契約成立よろしくねッ!」

トルテの不気味な笑顔——サクラのかりそめの安堵あんど

「……じゃっ、今からキミを魔法少女にするためにその器そのものを創り変えることになるけど——魔族と戦うための必要なことなんだ。ちょっと痛いかもしれないけど——君なら耐えられる……だって——君は伝説の魔法少女だもん!」

ひょいと動かされた、しっぽ——にわかに血管が浮き出し、力こぶを作る。軽快に響く肉が張り詰める怪音——にじみ出ている醜悪しゅうあくな歓喜。パンパンにいきり立った小動物のしっぽ。

「ひッ……いやッ、いやッ、いやぁぁぁぁ——!」

少女は底なしの絶望に覆われる。

「——怖がらなくていいんだよ。ほら、いくよ? いくよ? いくよサクラちゃん。ボクの魔力を受けとるんだ!」

少女の涙ながらの訴えも、いじらしさも、痛ましさも——トルテの邪悪さ(リビドー)の前に無力。しっぽに力を込める様子が小気味よく炸裂さくれつする音となって辺りに弾ける——人智の遠く及ばない悪夢。少女の慟哭どうこくが途切れることなく続く……


……突如、彼女の携帯スマホが音楽アプリを起動——まるで壊れたラジオのように勝手に。そこから奏でられる旋律——玲瓏れいろうで、荘厳そうごんであり、敬虔けいけんな気持ちを呼び起こすハーモニー。


おお、清めらるることのなんと嬉き。

主の御姿求めて、

我がすべてを御身に委ねまつらん。

おお、いまこそ清めを。


絶望にくれるサクラも、悪夢のような存在であるトルテでさえも、この陰惨いんさんな暗がりを呑み込もうとする圧倒的な気配に息をのむ。


おお、清めらるることのなんと幸い。

主の御恵み慕いて、

我を御側近くに居らせたまえ。

おお、いまこそ清めを。


地下道を為すありとあらゆる構造物がかすかに軋み、たわみ、揺れ、ささやかなささやかな振動を創る。

無音に近いその振動は、やがて地下道の構内のすべてに伝播でんぱし、たゆまず反響し続け、やがて増幅され音となって人の耳に届く。

その音は、地下道をはしる金属製の手すりを媒介にし、音叉おんさのように響く——あたりにはまるで教会の鐘の音が鳴り響いた。


おお、清めらるることのなんと歓び。

罪の力をのぞきて、

我がこころをおさめたまえ。

おお、いまこそ清めを。


一人の少女が奇蹟を従えてやってきた——一見、|純朴そうに見える金髪のお下げ髪《イモ臭いスタイル》。

その顔——まるで人形のように整った日本人離れした顔立ち(ミックス・ブラッド)。そこに浮かべる恐るべき激情——そこに湛たたえる苛烈な光を放つ蒼い瞳。そしてその両手——なぜか、肘まで覆われる鎧にも似た朱い防刃(アームカバー)グローブで武装。マントのようにすら見えるダボダボに伸びた紺色のカーディガンを翻しながら歩むその異装——普通であれば、近づきがたいとさえ思える彼女の破天荒な風貌ふうぼうを軽くかき消す超常的なもの——その頭上にまぶしく輝く光輪。どこかからか、優しく聞こえてくる賛美の声が彼女の存在を象徴しているかのようだった。

おお、神よ(オ ー・ガーッド)

おお、神よ(オ ー・ガーッド)

暗がりから響く少女の声——嘆きがあり、諦めがあり、そして救い難いとでもいうように。

サクラは、その少女の見た目ではなく、存在そのものの眩しさに涙を流した。涙でぼやけた視界、網膜にきついたその像が頭のなかで意味をなしたとき、サクラは悟った。そう——『天使』と。

「……助けて」

彼女は自ずとつぶやいた。光を求め手を伸ばす——初めて知った畏敬(いけい)という感覚。

「お願い助けてェッ!」

サクラの内で、もうれつな安堵があふれかえった——もはや声を押さえることなどできなかった。

「助けてッ! 助けてッ! 助けてッ! 助けてッ! 助けて——ッッ!」

「……なッ、なんて恐ろしいほどのくらい闇の力が渦巻いているんだ……怒り、憎悪、殺意、嫉妬……一体何者」

サクラの助けを乞う声が、何度も何度も繰り返される中——トルテは体中の毛を逆立て警戒、唸りを上げたまま無自覚に後ずさり。

こんくそったれ(ワッツ・ザ・ファック)! |何汚ねぇ×××おっ勃ててやがる《マザー・ファッカー》! |ふざけてんのかキモ男のくせに《ファック・ユー》! |この・アタシに向かって何てことをぬかしやがる《ファック・ユー》! ぶち殺すぞファック・ユー・トゥー!」

天使とおぼしき少女——まくし立てる悪辣(あらつ)な言動に、彼女の精神性が如実にあらわれていた。

彼女は、目の前に広がる悪夢的(グロテスクな)大惨事をゾッとするほど無関心な眼差しで流すだけ——それだけ。

真っ白のシャツごしの発育の遅れた胸を堂々と張って、紅いスクールリボンをだらしなく垂らしながら、躊躇ためらうこと無く進み続ける。くびれた腰の鮮やかな青のプリーツスカートから、交互に伸びるほっそりとした白い脚——紺ハイと黒のローファーの脚が力強く踏みしめる。その好戦的姿勢。

まるで、その場の力関係が現れているかのようなたたずまい。トルテのとった行動——弱い者が強い者を目の前にしたときの威嚇行動に当たるもの。自らの身を守るための、あるいは攻撃に転じようと力を誇示する行為そのもの。逆に、強い者には何ものにも威嚇などする必要などない——明らかに、この場では彼女のほうが強者を示す風格を持っていた。

「お願いしますッ! 助けてッ! 助けてくださぁぁああいッ!」

サクラ——助かりたい一心で声を絞り出し、上げ続ける。天使とおぼしき少女の先の言動など、気にする余裕など無く——考えもしない。彼女こそ自分を救い出してくれる人——盲信からの行動。

「……つーか、うるッせぇし。いつまでモノ欲しそうに見てんだよ。じろじろ見んなッつーの、キメーなぁ」

天使とおぼしき少女——圧倒的な眼力にものを言わせて突き放す。

「——ッッ!!」

奈落に蹴落とされるかのような喪失感に、一瞬言葉を失うサクラ。意味がわからなかった——だって、アンタ天使じゃない! 自分自身を言い聞かせるように、何度も何度も思考する——『天使』という言葉の符号。相手トルテは友だちを殺した化物で——だって、天使ってそういうのを倒す為にいるんでしょ? みんな言ってるじゃない。天使ってそういうものなんでしょ? 象徴シンボルから導き出されるイメージ——ゆえに、わらにもすがる思いで懇願する。涙で顔を歪めながら懇願し続ける。

「……助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて——」

希望から再び絶望への、急激な感情(ストレス)の転換によって、最低でも十歳は歳をとったように見える悲壮感が彼女に。

「ヘイ——ビーッチ! つーかアンタ、アタシ(こんなガキに)になんかできっと本当に思っちゃってるワケ? ウケるwマヂウケるwww」

初対面にもかかわらず天使とおぼしき少女は、必死なサクラを嘲笑し見下す。その内心——自業自得だ。チョーシこいてッからだバァーカ。

「——助けろよ! いいから私を助けろよ、このブス! このドブスッ!!」

サクラ——絶叫。思い通りにならない状況へのフラストレーションが爆発。

「——はぁッ?」

天使とおぼしき少女——凶悪な貌、一瞬で不快と苛立ちをあらわに。

「……おまッ、お前ェッ! 私を助けるために来たんだろッ!? その頭ァ! てッ、て、『天使』とかいうんだろッ!? だったら、さっさと助けろよッ!!」

天使とおぼしき少女のあまりの様子に戸惑うサクラ。一瞬、『天使』という現実感のない言葉を口に出そうとして躊躇い、結局口にしてしまったことで生々しい現実感が降り注ぎ、彼女は自身の正気を疑った——あまりのショックに奇声にも近い裏返った声を上げる。彼女の顔は真赤になっていた。

「あん? ……お前天使のわっか(これ)見えんのー? お——……つーか今『天使』って言う時、一瞬照れたろ? 恥ずかしかった? ねぇ恥ずかしかった? マヂウケるW——だけど残ぁぁん念ぇぇん。アタシは天使そんなもんじゃなぁぁああい」

天使とおぼしき少女——イジメっ子がするような好奇の視線をサクラに向ける。他人の不幸をさもおもしろがるように。心からの愉悦ゆえつ

「——い、いーから助けろよ! さっさと助けろよ!」

サクラ——頭のなかで意識し繰り返す『天使』という単語。奇妙な現実感に死よりも羞恥の感情が強まった。

「ま・いいぜ助けてやるよ——じゃ、百万ほど献金な」

天使とおぼしき少女——邪悪な微笑みに、人差し指と親指でつくるお金のサインを、サクラに見せつける。

「——金とんのかよ!?」

サクラ——衝撃。反射的な声(ツッコミ)

「はぁー? テメー脳みそゆるい尻から垂れ流れたー? つーかアタシ『天使』じゃねぇッッてッし。つーかテメー助けるいわれなんてねぇーし。アタシャ『人間』だ——これでも命はってんだから、フツー見返りがあるもんッしょ? つーかオメ金もってそうじゃん? 誠意みせろよ——都合ヨすぎんだよ(ファック・オーフ)

天使とおぼしき少女——目が超本気。

「……」

サクラ——絶句。この場で、その発想に辿たどり着く天使とおぼしき少女に驚愕きょうがく

大事故など悲惨な大惨事が起こった際に、ボランティアの人が助けに来るシーンが走馬灯のように頭を過る。

疑問——お金とか、そういうものじゃないでしょ?

理解不能——人の命が関わってるのよ?

不思議——人間は助けあうものでしょ?

心のなかでかぎりなく絶叫するサクラ——いーから! かわいそうな私を助けろよ! ……しかし、圧倒され言葉に出せない。

「ヘイヘイ、ビーッチ。そんな顔すんな——人間はなーみぃーんな満ち足りてるワケじゃねぇーの。金に困ってなさそうなテメーが、親の目盗んで|誰これ構わず汚ねぇ×××咥えんの《ファックすんの》、スリルと背徳感でハイになりてぇからッしょ? アタシらはな、テメーの目の前でおっ勃たてるようなクソを浄化(ファック)して、金もらって生活してんの——わかった? テメーのママとパパからのお小遣いで払えなけりゃ、そのお上品なお躰からひりだしたキレイなお金で、アタシに払えばいいッしょ? なー簡単だろぉぉおお?」

天使とおぼしき少女——しょうがねぇ世間知らずのお嬢様だなお前、という極めて茶化したノリ。絶望をそそる声を陽気に言い放つ——これこそが彼女の日常(ライフワーク)。ほくそ笑みながら——ねぇ、どぉするのぉぉおお? と目で聞いている。まるで悪魔。

「やッ、やめろぉ——ッ! そういうのッ! なんて下品で、らッ、乱暴なんだ! そんなの女の子の会話することじゃないよッ! サクラ——そんなけがれた女と喋っちゃいけないッ! キミは魔法少女になったんだッ! そんなきたなく堕落した女と喋しゃべっちゃいけないッ! キミは可憐で無垢な魔法少女なんだ! ああ……一体なんの影響なんだ……! キミのような女がいるから、この世界は歪んでしまうんだ! この世界は破滅を迎えてしまうんだ! 彼らのように、キミのように——この世界にはキミのような人間はいてはならないんだ!」

トルテ——奇妙な駄々っ子。自分の主義主張が受け入れられないときに、手当たりしだいにどつき、ぶちまけ、泣きわめく——まさしく小さな子どもが行うソレ。しかし、その声は恐るべき中年声。

サクラ——瞬間、ビクつく。本能的に自身が目立たぬよう息を殺す。もはや見守るしかない状況に。

天使とおぼしき少女——無表情で見下す。

「はぁ? 何おま——はぁぁ? つーかキンモォォ——マヂ、コイツ——キンモォォオオッ! テメー何アタシの口ファックしやがる! 人が気持よく話してッときに——ええ? 教わらなかったのか(みんなゆーだろ)——空気読めってよー。クソ気分悪りぃ(ファック・オーフ)! テメーら言っとくがよ。アタシにゃ敬語使え。あと——ヘイ、そこのキモ男。女って呼ばれんの、も・すッげムカつくからよ——せめて呼ぶんだったら……ジェーン・ドゥだ」

大分冒険しましたが、もっともっと冒険します。続きにご期待を!


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