友達に出会った話
私は図書委員会会計、五班の班員という肩書がある。
図書委員会は一~五班に分かれて、それぞれ一週間に一度活動するのだが、今日は五班の初めての班会の日だ。
やっと! やっと、同じ委員会で同じ五班の田宮くんと、自然な流れでお話ができる!
なるべくなら『一緒に遊びに行こう!』とかデートのお誘いをしたいけれど、それには非常に勇気がいる。
でも書架整理の時に、『この本どこにしまえばいい?』『ここだよー』くらいの会話はできるだろう。
もしかしたら一緒に帰れるかもしれない!
その場合は、二人きりになったタイミングで、スカイツリーのお土産を渡そう。
スカイツリーに塚本さんと遊びに行ったときはまだ、田宮くんと自然にお喋りできていたんだよなあ。
今では、一日一回おはよう、と言えたらいい方だ。
あとは、授業中『あれ? 教科書今何ページ?』とか生活感あふれる会話しかしない。
キーンコーン。
チャイムが鳴って、いよいよ放課後だ。
「たみっ……」
「たみっちゃん! 今日みんなでカラオケ行くけど、一緒にどう?」
笹塚ちゃん登場!
ぎゃああ! なんで神様はこう、私に厳しいのよ!
田宮くんは考える仕草をしてから答える。
「今日委員会だしなー」
そうそう、断れ!
『田宮くん! 今日は委員会に行ったほうがいいよ! 第一回目をサボったらひんしゅく買うよ!』
私はそう言いかけて、あまりにも性格が悪すぎるのでやめた。
代わりに別の言葉を口にする。
「委員会は私も行くし、連絡事項は来週伝える。田宮くんがカラオケ行きたいなら、委員長に『田宮くんは体調不良で帰りました』って言っておくから大丈夫だよ」
あれ? 別に私、ここまで言わなくてもいいんじゃね?
そう思いつつも、私のいい人ぶった言葉に、笹塚ちゃんは微笑む。
「ごめんね、ありがとう」
私は顔で笑って心で泣いて、一目散に逃げ出した!
ああああああ! 私の不器用さがにくーい!
***
委員会が始まるまでの間、図書室の席に座って、落ち込んでいる――――とはいっても、憂いのある表情ではなく、非常に情けない顔だ――――と、なぜだか田宮くんがやってきた。
「失礼します」
「あ、田宮くん来たの? えと、来てくれたの?」
どうしてカラオケに行かないで委員会に出るの?
美人の笹塚ちゃんよりも、私を優先してくれたってこと?
「委員会は大切だからな」
ですよねー。少し考えればわかる事だった。何が『来てくれたの?』だ。
田宮くんはそのまま他の同級生男子と会話を始めてしまった。私は手持無沙汰になる。
「あ……こんにちは……」
そこにすらっとした美人の女の子が話しかけてきた。
切れ長の瞳に、きりっとした綺麗な顔立ちの、大人びた女の子だ。
「こんにちは」
「同じ、五班、だよね?」
恐る恐る、という風に尋ねてくる女の子に、私は頷いた。
「そうだよ。これからよろしくねっ」
「こんにちは!」
そこに、華奢な体型、低身長のロリっぽい美少女が会話に加わってくる。
白い肌に、嫌味のない程度に高い鼻。大きな茶色い瞳。ハーフっぽい天使のような顔立ちの女の子だ。
「二人とも可愛いねー。よかったら今度、コスプレを着てくれない?」
冗談で言っているのかどうなのかよくわからなかった。
「お金がかからないならいいけど……」
私が大真面目に返答すると、美少女は苦笑する。
「清楚な美人なのに、大物だね、こりゃ」
私達三人は、非常に和やかに会話していた。みんな比較的真面目なタイプの女の子なので、ウマが合うのかもしれない。
そこに優しそうな男子の声が聞こえてきた。
「女子の方々、お名前を伺ってもよろしいかな?」
五班の男子三人は三人で仲良さげに喋っていたのだが、私達ともグループを合体させたいらしい。
「じゃあ、みんなで自己紹介しましょうよ。名前とクラスと趣味と部活を順番に言っていきましょう」
私は丁寧な口調を心がけて言った。そういえばこの場にいるメンバーの名前は田宮くん以外わからない。
「いいね」
私と同じくらい真面目そうな男子――後から知ったけど増谷くんという名前らしい――が同調したので、すんなりと自己紹介をすることになった。
「私からね。望月コウミです。一年二組で、部活動は入っていません。本が好きです。よろしくお願いします」
言い出しっぺの私が挨拶すると、みんな温かく拍手をしてくれた。
「じゃあ次はワタクシが……。増谷由良と申します。一年一組で、望月さんと同じく部活動には入っておりません。あとは鉄オタですね。俺自身は撮り鉄と呼ばれる存在ですが、友達は乗り鉄が多いです」
増谷くんの自己紹介が終わると、今度は先ほどのすらっとした美人が前に出てきた。
「神田島ひさきです。一年一組です。吹奏楽部に入っています。ええと、趣味は料理と音楽です」
「今度は俺が言うよ」
田宮くんは、ごく自然な動作で前に出る。
「田宮ヤシロ。一年二組。部活はパソコン部。趣味はゲームと読書です。好きな飲み物はカレーかな」
正直カレー云々はあまり面白くなかったけれど、その言葉で、みんなの緊張が解けた様子だった。
「じゃあウチだね! 一年三組、相沢松美です。帰宅部で、趣味はファッションと遊ぶことです。よろしくね!」
ロリ美少女の自己紹介に、ちょっと和んだ雰囲気になる。明るいっていいなあ。
「最後か、やだなー。川辺正文っす。一年三組で、部活は帰宅部。植物や農作業が好きです」
理系男子っぽい川辺くんと私は、小学校の時からの知り合いだ。でも、別に今話す事じゃないだろう。
自己紹介が終わって、私達はやっと視線とか肩の強張りが解けたような気がした。
バタバタ、ガラッ!
図書室の入り口から、慌ただしい音。
「ごめんねー、授業が終わるの遅くて! あら、みんな仲良くなってるわねー、喋っていたの?」
ショートヘアが可愛らしい城山委員長がやってきた。
「はい! 自己紹介をしたんです」
私がそう言うと委員長は「よかったわねー」と微笑んでくれた。
そうして、委員会では普通に書架整理をして解散になった。
***
「田宮くんが委員会に来てくれてよかったー」
帰り道。私は田宮くんにそう微笑んだ。ちょっと恥ずかしいけど、これくらいの思わせぶりは許されるだろう。
「なんで?」
やっぱり田宮くんは無愛想だ。笹塚ちゃんや染川くんにはもうちょっとニコニコしているのに。
でも気にしない。私は鞄からある包みを取り出して、田宮くんに渡した。
「開けていい?」
田宮くんの問いに私は頷く。
中身は何と変哲もないキーホルダーだった。
「この前、スカイツリーに友達と行ってきたの。お土産をなかなか渡す機会がなくて……」
言い訳のようにちょっと早口で言うが、田宮くんにはどうでもよいことのようだった。
「ありがとう……!」
「喜んでくれたみたいで良かった」
笑いかけると、田宮くんもちょっと微笑む。あ、珍しい。いつも私と話すときは無表情なのに。
『飯田橋ー。飯田橋ー』
「もう、駅に着いたから」
私はそう言って電車を降りた。
「また来週。よい週末を」
去り際にそう言うと田宮くんも頷く。
「また来週」
また来週もお喋りできるんだ。
私はちょっとだけ安心した。